5.冒険者再び
ここはとある小さな村。
とある目的のため、Sクラス冒険者がやってきた。
普通、小さな村ごときでSクラス冒険者など雇えるはずはない。Sクラス冒険者は、冒険者の中でも文字通りトップクラス。
彼らに依頼をかけようとすれば、まず莫大な費用を請求される。えてして、それは前金という形で表現される。
それをこの村が払ったのだ。謎である。
依頼内容は「得体の知れない魔物が村の中を徘徊する。それを何とかしてほしい」である。
辺境に位置する村の周辺は、魔物の動きも活発である。村人が魔物に対して素人であるはずがない。だのに見たことのない魔物だという。
昨今、魔物の襲撃により、巨大宗教が大ダメージを受けた。世界に覇を唱える武闘派国家が、災害魔獣により壊滅した。
魔獣を舐めてはいけない。特に得体の知れない魔獣は。
それ故に、冒険者ギルドを持ってしてSクラス派遣を決定づけたのである。
依頼されたSクラス冒険者は、剣士、戦士、僧侶、そして盗賊の4人組である。魔法使いを欠いているが、ちょっとした事情で一時的に離脱しているだけだ。
「見たところ、村は平常。特に怪しい動きは無いが、……どうすりゃいい? 俺はシティアドベンチャーが苦手なんだよ」
リーダーである剣士が、眉をハの字にしていた。
「こういう時は調査だ。聞き込みだ」
ポンポンと剣士の肩を叩くのは中年のシーフ。
「まずは手近な村人に……」
首を巡らせたシーフの視界に入ってきたのは……。
「ちょっと待ちなさい! あなたお金の使い過ぎよ!」
「やれやれ、うるさいなぁ」
耳の長い少女が、得体の知れない魔物を追いかけていた。
「ああ、こいつだったのか!」
シーフは、その場でガックリと膝をついた。
「見つけたぞオイ!」
パーティメンバーはすぐに犯人を包囲した。剣士と戦士は武器を抜き放つ。
「え? 何なんですかあなた達は?」
眠たそうな半眼で、ごつい兄ちゃん達を見上げるエティ。鼻をひくひくさせ警戒している。
何事かと、村人達が集まりだし、遠巻きに眺めている。
「ノーラ、そこを離れろ! 今度こそこいつをぶっ殺してやる!」
剣士が息巻いている。手には剣が握られている。新しい魔剣を手に入れたのだろう。
「ちょっと待ちなさいよ! この子が何したって言うのよ!」
ノーラが、エティを後ろ手にかばっている。
「おい、あの子見ろよ!」
「あの子の耳か?」
村人の間からこれ見よがしなヒソヒソ声が聞こえてくる。
「エルフかな?」
「いやエルフは小枝みたいに華奢だって聞くぜ」
「ああ、尻が張ってるし、胸もエルフにしちゃ大きいよな」
「じゃぁ、合いの子か?」
「ハーフエルフか? ハーフエルフのあそこは横に裂けてるって言うぜ」
「気持ち悪い!」
「試してみるか?」
ノーラは、聞こえないふりをしている。
しかし――
「冒険者の方々!」
恰幅の良い中年男が、野次馬の垣根を分けて現れた。
「私はこの村の長。あなた方の雇い主です。そこのハーフエルフも魔物だ! 一緒に片付けてくださいよ!」
「いやしかし、こいつは……」
剣士は嫌な顔をしている。
「2匹だから、報酬は倍払いますよ!」
「そんな金どこにある?」
「あの魔物が持っているガマ口に、古代ドワーフ王国金貨が入っています!」
シーフの目が、蟇口に落ちる。
エティが、体の後ろへ隠すようにしてガマ口を押さえた。
「こ、このガマ口は、中身が空間拡張されているマジックアイテム! 見た目の20倍程しか入らないぞ!」
「ほう、金貨とレアアイテムか」
シーフは悪どく笑った。
「逆効果でしょうが!」
ノーラが噛みつくものだから、エティはそっちで怯えている。
「金銭問題は解決したな」
シーフの目が冷たいものになった。
「すまねぇ、ノーラ、死んでくれ」
冒険者達は、ノーラにもその武器を向けた。
それに対し、ノーラは一言も発しない。ただ、悲しそうな目で、仲間だった人間達を見つめていた。
「うーん、人間の社会は貨幣経済が発達してるんだね」
短い腕を組んだエティが、感慨深げに唸っている。
「なに第三者的発言してるんだよ! お前が第一目標なんだよ!」
口から唾を飛ばし、剣士が叫ぶ。
「え? ノーラさんが標的じゃないの?」
つぶらな半眼で剣士を見上げるエティ。可愛くない。
イラっとした剣士が、また叫ぶ。声が半音上がっている
「あの時の恨みを晴らしてやる!」
「負けたのに?」
エティがぼそりと呟いた。
「え? あの人達、負けたの?」
「Sクラスって嘘?」
村人達の間からヒソヒソ声が聞こえだしてきた。
「あ、あんときゃ、帰りのこと考えて手加減したが、今度はそういかないぜ!」
自分の価値を維持するのに必死である。顔が真っ赤だ。
暗い顔をしてエティはうつむいた。
「やれやれ、めんどくさいな。あ! そうだ!」
エティはポンと手を打つ。
「こないだノーラさんから教えてもらった魔法を使っちゃお!」
顔をパァっと明るくして微笑んだ。
「ま、魔法か?」
戦士が嫌な顔をする。あの時のことを思い出したのだ。
「魔法と言ってもノーラが教えたものだ。ドラゴニック・スペルじゃないはず!」
裏リーダーのシーフが皆を勇気づける。
「そうか! そうだよ!」
「フッ! 対策は万全だ。段階上昇!」
僧侶が聖呪文を唱えた。
「おうっ!」
パーティ全員のレベルが2個上がった。
「魔法障壁は通用しないだろう。よって、身体強化!」
何らかのダメージを喰らっても耐えられる策を取る。
そこへ、エティの魔法が飛んできた。
「れべる・どれいん~!」
レベルを下げる魔法だ。
「フッ! 予想的中!」
イケメン僧侶が前髪をかき上げた。
「それがいけない!」
ノーラが頭を抱えた。
剣士と戦士にエティの魔法が通った。
「うっ!」
二人のレベルが下がった。
「こ、これは? たとえて言うなら、酒に酔った感じ?」
「だ、だめだ! 気持ちよくなって真面目に戦う気がしねぇ!」
剣士と戦士は、足をもつれさせた。
「な、なにぃ! 身体能力ではなく、脳の能力を下げたというのか?」
さすがS級シーフ。能力と脳をかけた渾身のギャグ! シーフのファンが増えた!
「続いて、状態異常 」
エティの第2弾が放たれた。
「うっ!」
またも、レジストできなかった。
「こ、今度は気分が悪い。深酒した翌日の朝みたいだ。ムカムカする。頭が割れるように痛い!」
「だ、だれか。エチケット袋をウロウロウオロ~」
肉弾戦主戦力が、剣を交える事無く膝を地面に付けた。
「な、なにぃ! なんて具体的なステータス異常なんだ!」
シーフが驚き役と化してしまった。
「フッ! ここは私の出番ですね」
前髪を掻き上げ、美形僧侶が前に出た。
「対ドラゴン……いいえ、およそ肉体を持つ意識生命体というカテゴリーに対し、致命的な禁断の呪文。たとえエルダードラゴンといえど――ぱくぱくぱくっ――」
僧侶の口は動いているが、音声として言葉が消えてしまった。
「もうめんどくさくなってきたから、口を封じたよ」
瞼を半分に閉じたエティ。竜語魔法の小技で僧侶の声を消したのだ。
声が出ないと聖魔法が使えない。こうなってしまえば、僧侶もただの無口なイケメンでモテモテである。
シーフは……。
「ドラゴンに毒とか効かないよ」
……戦闘力を封じられてしまった。
こうして、S級冒険者達は壊滅したのであった。
「それと、この人達を雇った村長さん」
「ひっ!」
村長が踵を返す。逃げにかかったのだが……。
「状態異常、腸内環境悪化ゲーリー様降臨! アヌス神解除!」
「らめぇっ!」
右手でお尻。左手で下腹を押さえて海老ぞる村長。
村長の周辺は、フレグランスの修羅場となった。
次回、最終回です。