表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/6

2.ドワーフ王の間


「おい、これ見ろよ! このコップ。陶器製だぜ!」

 シーフが、魔物の用意した湯飲みを手に取っていた。


「この水差しまで陶器製だ! これだけの薄さ。製品の均一性。そしてこの色艶。これだけで一財産だぜ」

「さすがエルダードラゴンの巣。ただのガーディアンじゃねぇな」

 戦士は戦慄した。




 その頃、丸っこい魔物は、とある村に転移していた。


「うぉーっ! なんだ! 魔物か?」

「また出たぞ! 誰かー!」

 村の中は大騒ぎとなっていた。


「やれやれ。人間界は、いつもながらうるさいなぁ」

 阿鼻叫喚の中を魔物は、その短い足でチョコマカと走っていた。


 やがて辿り着いた一軒の古ぼけた店。

「おばちゃーん! お茶っ葉くださいな!」

「はいよぉ、いつものだねぇ」


 よぼよぼの婆さんは狼狽えない。年の功である。……単にボケて、人と魔物の区別が付いてないだけかもしれないが。

 婆さんは、箱の蓋を開け、茶葉を年季の入った計量カップで計りだした。


「急なお客さんなんだ。来るなら来るで、前もって連絡の一つでも寄越してくれればよかったのに」

「客なんざぁ~そういうもんだよぉ~、はいお待ちぃ~」

 魔物は唐草模様のがま口から、銅貨を何枚か短い指で取り出した。


「小銭はこれで最後だよ。金貨なんか出しても、この店、お釣り用の銅貨なんか持ってないもんなぁ。お客さんにも困ったもんだ!」

 魔物は、転がるように走り、元来た道を戻ったのである。    


 ここは、石作りの閉じた空間。

 突如として緑に輝く魔方陣が、空間に出現した。

 その魔方陣から魔物が飛び出してきた。手に茶筒を持って。


「お待たせしましたお客様方!」

「あ、どうぞお構いなく」

 コタツに座り込んだ勇者パーティ一行は、手に手にせんべいを持ってかじっていた。


 魔物は、急須に茶っ葉を入れ、魔法の瓶からお湯を注いだ。

 辺り一帯に、清々しい香りが広がる。


「はいどうぞ」

「こりゃどうもご丁寧に」

 シーフが受け取って、フウフウ言いながら口を付ける。


「まったりとしていて、それでいて清々しい。これは茶葉を発酵させていませんね。茶葉もさることながら、淹れ方に……じゃなくて!」

 ノリツッコミを最後までやり通し、一同はコタツより抜け出して立ち上がった。


「お前は誰だ! ここで何をしている!」

 代表して剣士が、魔物に殺気を放つ。


「え? いきなりどうしたんですか、お客さん?」

 魔物は、もう一つ事態を飲み込めないようだった。


「お客さんじゃねぇよ! 俺たちは、迷宮山脈に挑んだ冒険者だよ! 目的は茶を飲む事じゃなくて、お宝なの!」

 冒険者達は、手に手に武器を持ち戦闘態勢を取った。

 体全体を使って、冒険者達を見上げている。


「あ、あれ? えー! これは僕とした事が!」

 ようやく事態を把握したようだ。

 魔物は飛び上がって頭を抱えた。


「自己紹介を忘れるとは! 僕の名はエオティラ。エティと呼んでください。この迷宮をドワーフ王、プリセラより譲り受けたものです」

 ちょこんと頭を下げる。


「これはご丁寧に……じゃなくて! お前だれだよ? こんな所で何してるんだよ! ここ、エルダードラゴンの巣だろ?」

 それに対し、エティと名乗った生物は怯えた目で、剣士を見上げた。

「ぼ、僕は自宅警備兵(ガーディアン)で、ここの警備責任者ですが……なにか?」

「お前が引きこもりかどうかを聞いているんじゃない! 親出せ! 親を!」

 剣士が顔を真っ赤にして怒りだした。


「まて、リーダー!」

 シーフが、剣士の肩に手を置いた。


「これはチャンスかもしれない。あいつの言ってる事が正しいとすれば、ラスボスのドラゴンはあいつだ。あの姿から推測するに、エティはドラゴンの幼体だ。ドラゴン本来の力が出せないはず! またとないチャンスだから、より冷静に対処しろ!」


 人間の言うドラゴンは十メットル単位の体躯を持っている。ましてや、古竜であるエオティラともなれば、数十メットル以上の巨躯を持っていて不思議ではない。

 ところが、このサイズと見掛けである。戦力は推して知るべし。


「お前、ドラゴンスレイヤー持ちだろ?」

 剣士が手にした長剣は、ドラゴンに反応して青白い光を放っている。


「あいつの力を見極めさえすれば、充分勝てる」

 シーフは軍師もつとめているようだ。


「ふっ、ならば私に任せてもらおう。わたしが挑発してやろう」

 僧侶が、前髪を掻き上げて前に出た。

 いつの間に火を付けたのか、手には紙巻きタバコ。


「昔より、蛇だの竜だのは、(ヤニ)を含んだ煙が苦手」

 これ見よがしに吸って、吐いた。エティに向けて。


「ごっほん! げっほん! ちょっとやめてもらえますぅ? ここ禁煙なんですよ!」

 エティもわざとらしく咳き込んだ。

 こいつ、嫌煙家らしい。


「そうなの? 張り紙してなかったから気づかなかったよ。スパー!」

 僧侶の挑発は続く。


「ちょ、ちょっと。ここ禁煙だって言ってるでしょ! 喫煙は肺がんを誘発させるんですよ! 第一、ここ灰皿無いんですから! あなた、エチケット灰皿持ってるんですか?」


「ハイガンがなんか知らないけど、死のうが生きようが喫煙者の自由だろ? 灰皿? 持ってねぇし」

 僧侶がタバコの灰をわざと床に落とした。


 エティの顔色が変わった。いや、色は変わらない。怒り肩となり、目が険しい角度につり上がる。といっても、しょせん基礎はモグラ顔。さして怖くない。


「今すぐ消してください! いくらお客さんでも怒りますよ!」

「やだよ。喫煙は喫煙者の自由だ。あんたも喫煙者になれば良いじゃん」

「消す気が無いなら、僕が消してあげます!」


 よし来た! 

 パーティメンバーが身構える。


絶対精霊障壁(アルティメツトバリアー)!」

 魔法使がパーティメンバー全員を覆って障壁を張る。時間制限こそあれ、魔法由来の、全ての効果を打ち消す絶対魔法防御壁である。


「神の御名において、絶対加護!」

 僧侶が複雑な文様を描いた聖護符(アミユレツト)を床に貼り付けた。これは物理攻撃を全て無効にする最強護符である。


「さあ来い! これでキサマの力量が解る!」

 戦士が戦斧を構え、前に出て壁になる。剣士が必殺のドラゴンスレイヤーを構える。

 

 ――エティは動かない。

 指一つ、眉(無いが)一つ動かさない。微量のマナすら発生させていない。


 だのに――。

「タバコの火が消えた?」

 僧侶は、己の指に挟んだ紙巻きタバコを、信じられない目で見つめていた。


「ば、バカね! 理論上、アルティメット・バリヤーを破れる魔法は存在しないわ!」

 魔法使いが狼狽えている。


「私のアミュレットは、神が存在する限り無敵の筈だ……」

 火の消えたタバコを見つめながら、僧侶も狼狽えている。


「ならば、なし崩しだ!」

 肉弾要塞と化した戦士が突っ込む。


「三日に一度しか放てぬ最終奥義ーっ! 夜帝剣オリュンポス山逆さ堕とし!」

 Sクラス戦士が放つ、光速の技がエティの頭上に決まった。


 ……はずが、何も無い床を砕いただけだった。エティの体一つ分、左に振り下ろしていた。


「因果律修正か!? 今のも魔力を感じなかった!」

 魔法使いが目を見開いた。


「甘い!」

 戦士の影に剣士が潜んでいた。戦士が放つ必殺技は、剣士のポジショニングのためのフェイクであったのだ。


「竜族絶滅! 喰らえ! ドラゴンスレイヤー!」

 竜族の天敵、ドラゴンスレイヤー。竜の属性すら断ち切る魔剣の中の魔剣。


 魔剣王ドラゴンスレイヤー……の刀身が爆発した。

 エティに届く前に。


「な、なんだ?」

 剣士は盛大に空振りした。


「剣の需要容量がオーバーしちゃったみたいですね。……あれ?」

 エティが何かに気づいた。


「ひょっとして、あなた方――」

 エティが細い目をして、髭を振るわせている。

「お客さんでは……ない?」


 早く気づけよ!




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ