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1.エルダー・ドラゴンの巣

 原初の世界の名は「混沌」であった。


 神は、泥の塊を分離させ、空と大地と海、つまり「世界」を作った。

 ここより初めて、光が生まれ、物理が生まれ、魔法が生まれ、命が生まれたのである。


 ……のであるのだが、もとより、混沌の世界に生物がいた。


 それは古竜族(エルダー・ドラゴン)。オリジナル・ドラゴンとも呼ばれる伝説の生物。

 高次元に生きる彼らは、神を名乗る者による天地創造をまったくもって迷惑事として捉えていたのであった。



 

 時は遙かに下って、人類が剣と魔法により世界を我が物顔で闊歩する時代となっていた。


 ここは、元々ドワーフ王国だった迷宮山脈(キングダム)の麓にしてスタート地点。ミルバと呼ばれる寒村。

 もうすぐ夏だというのに、標高4千メットルの山々には白い雪の冠が残っている。


「お若ぇのぉ、やーめときなぁー。エルダードラゴンのエオティラ様にゃ人の力じゃ勝てにゃーて」

 村最長老ランダギヌス(87歳)が、若者達を止めている。


「エルダードラゴンと言っても、所詮は緑竜。ドラゴンと呼ばれるのが不思議な弱竜。俺たちの敵ではない」

 老人の忠告に耳を貸す若者は、この中にいない。


 彼らは若くして、全員がSクラスに席を置く冒険者5人組。

 個々の能力はもとより、経験、連携、装備全てが、考えられる至高の組み合わせであった。


 剣士(ソードマスター)戦士(ウォリアー)僧侶(プリースト)魔法使(ソーサラー)い、盗賊(シーフ)からなる5人の男女が地上最凶の迷宮へ挑む。




 その「部屋」の魔方陣が緑色の光を発した。

 ひときわ強い光を放った後、人間を放出した。

 迷宮に挑んだ5人の冒険者達だ。


「ここは……」

 リーダの剣士が周囲を見渡す。


 閉じられた空間。しかし、やたら広い。ミルバ村より広いのではなかろうか?

 上下四方、全てが石造り。蟻の這い出る隙間もない。


 そんなものはどうでもよい。

 問題は、ミルバ村並の広さを誇るホール中を埋め尽くす黄金の数々である。


 金の延べ棒、装飾品、金貨、工芸品、マトボッククリ、エトセトラエトセトラ。数々の宝物が無造作に積み上げられ、あちらこちらで山となっていた。


 シーフが一枚の金貨を手に取った。

「これは……古代ドワーフ王国の金貨。捨て値でも3倍の金貨と交換できるぞ!」


「フッ! コア帝国が全盛期の頃の……国家予算100年や200年で効かないだろうな」

 神官戦士が、きざったらしく前髪を掻き上げている。


「一番乗り!」

 紅一点。魔法使いの少女が走り出す。

 見た目に騙されてはいけない。彼女の耳は尖っている。


「ちょっとまて! ここをどこだか忘れたのか!」

 一番冷静だったのは、皮肉にもシーフであった。このパーティの最年長者である。


「一定量の黄金を懐に入れたら、ここの主・エルダードラゴンが現れるパターンだ!」

 宝物へ駆けだした魔法使いの足が止まる。


「それから、どうやってここから出るんだ? 見たところ、出口はないぞ」

 シーフの言葉に、残りのメンバーは慌てて周りを見渡している。


「センス・スペース!」

 力ある言葉(スペル)を唱える魔法使い。

「だめ、ここは閉じられた空間よ。出口は無いわ!」


「探せばあるはずだ!」

 ゴッツイ鎧を着た戦士が、両手持ちのバトルアックスを片手に持ってウロウロしだした。


 林立する黄金柱のため、見晴らしが悪い。風の流れは無い。部屋が密閉されている証拠だ。


 では、明かりはどこから来ているのか?

 天井の中央部からロープ状のものが下がっている。先端が平べったい立方体に繋がっている。それが発光源だ。


「む? あれは?」

 めざとくシーフが何かを見つけた。

 発光体の直下にだけ黄金がない。 そこの周囲にだけ、家具らしき木製品が散らばっている。


 中でも目立つのが、膝までの高さのテーブルだ。このテーブルは座って使用するものらしい。ここだけ生活感に溢れている。


 テーブルの上には、植物の蔓で編んだ籠と、飲みさしのコップが置かれている。

 毛布のような、シーツのような、風変わりな布製品が被さっている。

 こたつ……もとい、布がかかったテーブルから、小さな丸っこい生物っぽい物体が顔を覗かせていた。


 パーティーは最大級の用心をして近づいた。

 斥候役のシーフが、気配を殺して覗き込む。


「見たところ……」

 青緑の体色。

想定される身長は1メットルほど。

 柔らかそうな鱗に覆われた体は、ずんぐりむっくりしている。丸くて、それでいて尖った鼻。

 太くて短い尻尾。背中にはお飾り的な小さい蝙蝠の羽根。


 目は閉じられている。規則正しい胸の上下。寝ている?


「モグラ……の魔獣?」

「モグラに鱗があるか? どっちかつっとハムスター顔だろ?」

 剣士がシーフに突っ込んだ。


「ふっ! ドラゴンの眷属ですよ。不細工だけど」

「そうかなぁ、けっこう可愛いと思うんだけどなぁ」

「なんにせよ、パターン的に財宝の番人だな。真っ先にこいつを何とかしないと」

 戦士が目配せした。


 仲間はうなずき、それぞれ戦闘態勢を整えた。

 剣士が逆手に剣を持ち、戦士が斧を大上段に構える。剣士が突き刺し、戦士が首をはねる連携プレイだ。


「せーの……」

「うーん!」

 不細工魔獣……もとい、眷属とおぼしき魔獣が寝返りを打った。


 パーティは後方へ飛び退き散開した。


 寝返りを打った魔獣は、短い手で腰を掻いて、そのまま大人しくなった。


「もう一度だ」

 剣士と戦士は、各々の武器を構え……

「お母さん……逃げて」

 魔獣の寝言である。


「お父さんも一緒に逃げよう! ……なんで一緒に逃げないの?」

 寝言が続いた。

 どんな夢を見ているのだろうか?


「気まずいな……」

 剣を構えたまま剣士は仲間を見渡した。


「お父さん! 死なないで! ああ、お母さんまで!」

 よりいっそう気まずくなった。


「うぐっ……あ、あれ?」

 魔物が目を覚ました。

 丸い目は、眠たそうな半眼であった。


 短い体をムクリと起き上がらせ、冒険者達を見上げて首を動かしている。

 抜き身の刃物を持った男が二人。魔法を循環させてる者、アミュレットを手にする者。ダガーを隠し持つ者。そんな物騒なのに取り囲まれている。


「あ、あああ!」

 魔物は、状況を理解したようだ。


 小さな口を開いた。

「お客様ですか?」


「どこを見てお客様だと?」

 剣士はツッコミ体質のようだった。


「あ、どうぞどうぞ、遠慮なさらず、狭いところですが、詰めて座ってください」

「この空間は広いが、お前のテリトリーは狭いようだな」


 せっかくのツッコミに気づかないのか、魔物はいそいそと立ち上がり、近くの水屋箪笥……もとい、ケヤキ製漆塗り食器棚に走り寄る。


「なにこの食器棚? 木製品をなんか植物性の樹脂でコーティングしている?」

 魔法使いの少女だけが、その材質に気づいた。


 魔物は人数分の湯飲みを取り出し、盆にのせ、元の布がかぶったテーブルへ戻って来た。

「あ、どうかお気楽に。足を崩しちゃってください」


 魔物は湯飲みをテーブルにのせ、元から置いてあった茶筒……もとい、円筒形の入れ物の蓋を開けた。

「あ、お茶っ葉が切れてる!」

 魔物は、入れ物を持ったまま、またチョコマカと走り出す。


「ごめんなさい! すぐ帰ってきますんで、そこら辺のもの食べて待っててください!」


「おい、ここの出口は――」

 戦士が声をかけるが、魔物は聞いていない。

 魔物の前方空間に垂直に描かれた魔方陣が現れた。それが赤く光ると同時に、魔物が飛び込んだ。


 魔方陣が消え、魔物の姿も消えた。

 後に残ったのは、耳が痛いほどの静けさだった。


「お、おい、どうすんだよ? 出口ねぇぞ」

 戦士が青い顔をしている。


「魔物を待たなきゃならないんだ……ろうな?」

 剣士がそれに答えるのであった。


 5人の勇者は、仕方なく、コタツに足を突っ込んで、魔物の帰りを待つ事にしたのであった。




マトボッククリとは!

http://www.h3.dion.ne.jp/~duke/matobokkukuri/matobo_gate.html

え? 知ってる? みんなもう持ってる?

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