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サムライ・ドルフィンズ  作者: 古池ケロ太
ヴァーミリア島
31/50

(1)

 一番最初に発見したのは、やはり、窓側の席を主張したロキシィだった。

「おーっ! 見えたぞ! アレだアレ!」

 冷蔵庫の中にケーキを発見した子供のような声を上げると、隣の円とクリスが彼女の背中に乗っかった。

「本当ですか? ……うわぁっ、綺麗な島!」

「さすが最後の楽園と言われるだけはありマスね、実際問題」

 顔一つ分くらいしかない、小さな窓の外。この世の青を集めつくしたかのような広い広い海と空。宇宙の果てまで続いているに違いないその紺碧の中に、塗り忘れられたかのような、白い三角形が浮かんでいる。

 ヴァーミリア島。北大西洋の白い宝石。

 現地時間、八月十日――日本チームは決戦の地に到着した。

 イギリスの領有ではあるが、本国からは三千キロ以上の距離がある。隣の島に行こうと思えば三百キロも泳がねばならないというから、宮古島も裸足で逃げ出す、まさに離島中の離島だ。

 十九世紀に大英帝国の海軍提督ジャック・ウィラードが、任務の途中にこの島を発見したとき、彼は思わずこうつぶやいたという。

 ――海の上に、雪山が……。

 島の中心にそびえる標高六一六メートルのソラリア山、その白さと見事な稜線は見る者の心を奪う。欧米の富裕層を中心に、年間八十万人が訪れるリゾート地である。

 が、そんな絶景をよそに、ぐったりと天井を見上げる人間が二人。

「ついたらしいですよぉ、沢村さ~ん……」

「どこにだ……地獄にか……」

「だったらいいんですけど……もういっそ殺してっていうか……」 

「同感だ……うっぷ、ぎぼぢわるい……」

 美海と沢村だった。顔面蒼白、目はうつろ。絵に描いたような飛行機酔いである。

 ロキシィは褐色の小顔をあきれ加減に歪ませた。

「おめーらなー、なんでそんなに飛行機に弱ぇんだよ。毎日波に揺られてるんだろ?」

「イルカと飛行機は別物さぁ……」

「ミミは初めての海外だから仕方ないとして……コーチ、四年前も飛行機に乗って来たんじゃないんデスか?」

「だからそのときもこの有様だったんだ……うっ、ダメだ、今話しかけるなぁ……」

 円が、気をきかせてコップの水を持ってきた。

「はい、沢村さん。ミィさんも」

 症状はけっこう深刻らしい。沢村の所作には普段の凛々しさのカケラもなかった。コップに伸ばす手の弱々しさときたら、寝たきり老人のようだ。

「マユゲー、ちゃんと毒入れたかー?」

「もう、冗談にしても悪質ですよそれ」

「いいじゃないデスか。弱ってる今がチャンスデスよ」

「クリスさんまで……」

「いエ、毒は毒でも媚薬とか」

 え、と動きを止める円。開けた口は「その手があったか」と動いたように見えたが、

「いっ、いえっ! やっぱりダメです無理やりなんて! アレは心結ばれた夜まで使わないって決めてますから!」

「そうデスか」

 クリスはどうでもよさそうに顔を戻した。ていうか持ってんのかよ媚薬というツッコミは、もはや誰もやらない。「いやでもやはり今こそ好機……いやいや」と迷う円をほったらかしである。

 それにしても、たしかにここまでは長かった。

 宮古空港から羽田に飛び、陸路で成田まで移動。そこからニューヨークのJFK空港まで十二時間のフライトをこなし、乗り継ぎの関係で六時間カンヅメをくらった上で、トドメの空路三時間――どちらかというと、ロキシィたちが元気すぎるとも言える。

「せめてビジネスクラスは取れなかったんですか、小野田さん……」

 と沢村がヘロヘロ声で愚痴ると、隣席の小野田はにべもなく首を振った。

「バカ言うな、これでもカツカツの予算なんだ。あー腰いて」

 と、そこへ英語のアナウンスが、

【当機はまもなく着陸態勢に入ります。倒した座席を元の位置に戻して――】

「え、なになに何て言ってるぅ?」

「もうすぐ着陸するんだとよー」

 言うが早いか、飛行機はとっとと高度を下げ始めた。上向きのGがかかり、美海は大慌てで口を押さえた。

「え、あ、ちょっと待ってちょっと待って! 内臓浮く! 胃とか出ちゃうからちょっ、まっ、うぇいっ! うぇいとあみに――――――――――――っつ!」

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