絶望END
「犯人はお前か?」
剣呑な言葉に驚く。姉を苛めている主犯格だと思われたらしい。中立であるのは、仕掛けてきたほうがよく知っている。だが、彼らにその情報網はないだろう。
にじり寄られた彼ら。
「今までの立場を姉に追われたからか?」
「一番、割を食うのはお前だもんな」
目を丸くした。
「そういう結論に至るほど、あなた方の目から見ても私への態度は酷い変わりようだったということでしょうか」
ぎょっとして返事が出来ない彼ら。
ふんわりと優しく微笑む。
「お前しか、いないだろう」
決め付けた言葉。
今までのどす黒い思いを懸命に押さえ込んできたのに、あっけないものだ。
「反撃しないのか?」
「して欲しいんですか?死にますよ?」
「しなければ、お前が死ぬぞ?」
笑みがこぼれる。
「あなたを傷つければ格好の開戦のネタじゃないですか」
舌打ちされる。
「知ってたのか?」
知らないほうがどうかしていると思う。
「お前、死にたいのか?」
ちょっと考えたリリー。
「どっちでも、いずれ死にますし」
「いいのか?今まで築き上げてきたものが一瞬で消えるぞ」
その言葉に声を上げて笑ってしまう。
「十分に崩れてますよ?努力してもやはり、運命は変えられないようですよ」
ここで死ななくても、きっと彼等の誰かの手にかかって死ぬのだろう。
「悔いは無いと?」
笑いを収めて凪のように澄んだ表情で見上げる。
「そうね、一度でいいから、愛されたかった、かな。見返りを求めるものじゃないってわかってるけど」
学園に入ってからも、優遇されていたのは、姉の妹だからだ。彼らが愛していたのは、いつも彼女だけだ。清清しいほどに。
応援は出来なかったけれど、邪魔もしなかった。
姉が成長できるように可能なことはした。だから、もう、許して欲しい。
人前で泣いた事なんてなかったのに、今は溢れて仕方ない。
一度も愛されなかったことなどあるわけが無いと切り捨てるには、あまりに重い言葉だった。
彼女が気づいていないだけだと、とても言えなかった。彼女の友人達もすべて彼女の姉に魅了されていたから。だから、あまり親しくならなかった。裏切られることを前提にしか接していなかった。例外などなかったのだ。
現場は酷く荒らされていた。
切られた髪と、大量の血液。
惨殺されたと容易に考えられた。
溜飲を下げた彼ら。
「えっと」
「リリー様には命を救っていただいたご恩があります。だから、リリー様の言いつけどおりにあなたをサポートしますが、2ヶ月もあれば十分ですよね」
領地の管理の筆頭文官が領主代理の印をリリーから譲られたアイラに一言目に継げたのはそんな言葉だった。
「私では、お救いできませんでしたが、あなたを手伝うことは虫唾が走るくらいに嫌ですが仕方ありません」
ニコニコ笑顔で告げる。
両親でさえめまいを起こすほどの激務を彼女はこなしていたのだ。
生徒会もリリーがいなくなってその処理に困惑していた。仕事がやりやすいように変えられてはいるが、それでもとんでもない仕事量だ。
そして、使用人たちが掃除をしてみつけたリリーの日記には、涙と血のあとが随所に刻まれていた。
都合のいい駒としてしか存在できない上に、すぐに使い捨てられるだろう未来を予見していたのだ。誰も自分を見てくれないことを考察して、自分を高めてみても、変わらない評価に絶望したことが綴られていた。それを直視できるものはなく、すぐに記憶の奥底にしまわれた。
自分のことを好きだと確信していたローディはリリーが自分から離れていったことを信じられない思いで認識できずにいた。
王子は妃教育をこなし、外交にも繋がる重要な折衝をしていたことを知らされていなかった。彼女の代わりは誰も出来ないと外交官が嘆いていた。
彼女の仕事は完璧だったが、学園では誰もそのことを知らなかった。
学園だけが彼等の世界の殆どだ。だから、その外の世界があるなんて考えもしなかった。彼女の世界はそれほどに広かったのに。
邪魔者は消えてしまえばいいと、彼らは本気で思っていたし、彼女に告げた。彼女はそれに仕方ないと呟いて頷いたのだ。
殺されたといわれているが、自害したのかもしれないとどこかで考えてもいる。