第二章-2
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事情聴取は思いの他長く続き、終わった頃には空の大半は茜色に染め上げられ、空の端には夜の始まりが見え出していた。
途中、裕美の事をおもいだして、泣き出しそうになりながらも、必死に質問を答え続けた。
交友かんけい、どんな人柄か、最近トラブルはあったか。
江霧から訊かれた事には全て答え、絵里も犯人に当てがないか考えていたが、裕美が恨みを買っていそうな人物など思い当たらなかった。
そして、幾つかの情報も得る事ができた。
通り魔に襲われたのは絵里と七奈と別れてすぐであり、場所はもう一つの駅へと向かう途中にある路地裏のような狭い道だったそうだ。そして、今は無差別的犯行の通り魔によって殺されたとして捜査をしているそうだ。
得られた幾つかの情報。
その中で衝撃が多きいモノが一つあった。
それは、亡くなった裕美の状態だ。
どんな状態で亡くなっていたのかというと、両目が刳り抜かれていたそうだ。
その事を聞かされた瞬間、絵里は全身に寒気が走り、顔面蒼白になった。
死因はその事が切っ掛けのショック死だと告げられた。
その他には外傷はなく、綺麗に目が刳り抜かれただけだったそうだ。
これが、江霧から教えて貰えた情報だった。
知らない事はイヤだったが、知ってしまうこともイヤな、退路のない苦しみの板挟みだった。
いっそう夢であってくれと心の中で、何度願っても覚めることなく、ここは現実なんだと悟らされ、胸が締め付けられていった。
長く伸びる影、それを引き連れながらゆっくりと歩き始める。
夕暮れ時の校舎前には誰の姿もなく、遠くから蜩の鳴き声が微かに聞こえるくらいだった。
この時間に誰も人が居ないのは至って簡単な理由で、部活動を行っている者たちが帰宅するにはまだ早く、帰宅部の者たちはとっくに帰宅しているからだ。
がらんどうの昇降口前。
二人以外、誰一人として居らず、二人の足音が一定のリズムを刻んでいく。
沈黙に耐えかねて、絵里が何か話そうとしてみるが、言葉が喉につっかえ、上手く声を出せない。
足音が辺りを包む静けさ。
風のない夕暮れ、湿った重い空気が躰に纏わり付くが、二人の周りにはそれよりも重たい空気が降りているようだった。
――かつ、かつ、かつ、
ローファーが地面を蹴る音が鳴る。
――かつ、かつ、
静か過ぎる夕景の中で。
――かつ、
揃って鳴る音が。
――、
止んだ。
七奈が歩みを止めていた事に気が付き、絵里も歩くのを止めていた。
地面を眺めながら歩いていた絵里が、顔を持ち上げ七奈の事を見つめる。
その手に握られているのは携帯電話。それだけなら至って普通のことなのだが、それを見つめている七奈の表情が異常である事を報せていた。
あり得ないものを見たかのような驚愕に染まった表情。
今までに見た事のなかった友人のその表情に絵里まで驚いた。
どうしたの? そう、声を掛けたつもりだったが、また言葉が喉につっかえ、声を上げる事ができなかった。
「ごめん、私急用ができたから先に帰るね」
そして、一方的にその事を告げ、七奈が校門へと駆け始めた。
「あっ」
息を漏らしたかのようなか細い声、それと同時に伸ばした腕。
七奈の背中に触れようと近づいて行くが、指先が背中に触れようとした所で離された。
指先を掠める所まで近づいたのだが、後少し、腕を伸ばす事が出来ず、掴む事ができなかった。
次第に小さくなって行く七奈の背中、腕を伸ばしたまま、悲壮な表情で、それが見えなくなるまで固まっていた。
そして、見えなくなった。
崩れ去る膝、地に手を着く。
独りぼっちが怖くて、七奈まで手の届かない所に行ってしまいそうで恐れて、無力な自分を嘆いて、地に膝を着けていた。
膝小僧から滲む血液、紅色の液体がじわりじわりと傷口から溢れ、脚を伝い地を汚す。
瞳が潤み溜まる水滴、無色の液体がじわりじわりと目蓋から溢れ、頬を伝い地を湿す。
孤独の夕暮れ、喪失と共に。
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