第二章-1
第二章 二人目
1
二時間目からは通常通りに授業が開始されたが、教室内の雰囲気までも平常通りとはいかず、いつもに比べて重苦しいモノの鳴っていた。
会議が開かれた事で、のクラスの堀裕美が亡くなったが教師たちの間でも承知の事となり、その事を気にしてた普段より控えめに授業を行っていたように見えた。
一生の内にもう、二度と来なくていい最悪な一日。
静まりかえった授業に、やたら人の少ない昼休みの教室など、もう懲り懲りだった。
朝は軽く取り乱し気味だった七奈の様子も落ち着き、気分がすぐれない事とテンションが低くなっている事を除けばいつも通りと言えなくなかった。
だが、七奈が冷静さを取り戻せた事により、もう自分がしっかりしなくても大丈夫なんだ、と心に隙間が生まれ始め、絵里の落ち着きが揺らぎ始めていた。
際どい所で保ち続けている二人の心。
そんな危ないバランスのまま、時間が流れ、遂に終わりの時を迎え、放課後になった。
「葉山、平原、ちょっと来てくれ」
今日は部活が休みなので、そのまま帰ろうとしていた二人を担任が呼びとめた。
一体何の事なのだろうと、一瞬見つめ合い首を傾げ、教壇に立つ担任の元へと近寄る。
「訊きたい事があるから、ついて来てくれ」
申し訳なさそうな声色で用件を伝えられ、これから何について訊かれるかがわかった。
首なんか傾げたが、本当は心のどこかでわかっていた。
だが、その事を認めてしまうと、友達が消えてしまうような気がして、すぐに思い至らないようにしていたのかも知れない。
担任の後について行きながら、裕美について何を訊かれても大丈夫なように心の準備を始める二人。
「お前たちは……堀と仲がいいんだよな」
言葉を選ぶための僅かな間、この言葉で憶測が確信へと変わった。
「……はい」
七奈が小さく肯定する。
そのやり取りの後、暫く言葉が紡がれる事は無く、職員室を通りすぎて行った。
てっきり二人は職委員室で裕美の事について訊かれると思っていたので、疑問の眼差しで担任の背中を見つめる。
「お前たちに、その……警察の人が訊きたい事があるらしいんだ」
意図的に隠されていたその重要な単語を聞いて、七奈の脚が一瞬止まったが、何もなかったように歩きだす。
裕美の方も、その単語を聞いて驚いていた。
その単語が意味する事は、事故ではなく事件、と言う事だからだ。
自殺なんてするような性格の子ではなかったので、なんで亡くなってしまったのか不思議だったが、事件と言う事がわかり、同意しょうもない怒りと、悲しみが込み上げ始めていた。
そして、目的の部屋であった小会議室へと二人が通された。
その中には既に一人の人が待っており、裕美と七奈の姿を捉えるなり、微笑みながら話しかけた。
「来てくれてありがとうね。私は今回の事件を担当する江霧奈央よ」
そこに居たのは、髪を短めに切りそろえた三十代仲程の女警察官だった。
そして、一連の動作のように警察手帳を二人へと見せる。
平常時であれば、初めて見た本物の警察手帳に喜んでいたのかもしれないが、今はそんな気分にはとてもなれず、ただ、何が合ったのか知りたいと言う一心だった。
「一体何があったんですか?」
絵里が江霧に訊ねる。
「堀裕美さんは通り魔に襲われたの」
予想はしていたが、その事をはっきりと聞かされ、絵里は驚き両手で口を押さえ、七奈は奥歯を噛みしめながら江霧の事を見つめ続けていた。
「犯人は捕まっていないんですか?」
激情に任せてしまいそうな声を押し殺しながら、今度は七奈が訊いた。
「残然ながらまだ捕まえられていないの。でも、犯人を探す為にも貴方達にも協力をして貰いたくて、呼び出させてもらったの」
協力と言われても、警察の人が必要とするような情報を持っていない絵里は困惑の表情で、七奈の方を見つめ、七奈はただ俯くだけだった。
それでも、私に何かできる事があるのなら裕美の為に頑張ろうと、絵里が江霧の方を向いた。
七奈の方は、自分の抱えているものをどうしたらいいのかわからず、ただ、俯く。
確かに七奈は裕美が殺された瞬間をみていた。見てはいたが、あれは、伝えるべき事なのかわからず、口が開けなかった。
この学校の中で静かに広まっている噂話の幽霊に殺された、なんて言っても信じて貰えるなんて思えなかった。
だから、俯き続けていた。
「それじゃあ、幾つか訊かせて貰うわね」
それでも、江霧からの質問は始まるのだった。
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