表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

二人はエルフ!

 

 俺は猛烈な空腹感を憶え、昼前に目を覚ました。

 夏休みとはいえ、あまり寝坊をしたことのない俺には取っては珍しい寝起きの不快感。悪い夢も重なって最悪の目覚めだ。

 ベッドから這い出して、一階に降りると店舗の電気が付いていた。

 ……ああ、昨日の夜に消し忘れたんだな。電気代が勿体ないなぁ、まったく。電気を大切にね!

 

 カウンターの上で寝ている寧々子の脇を抜けてシャッターに手を伸ばす。

 そして引っ込める。


 いやまさかね……。

 俺は屈んで一気にシャッターを引き上げた。


 そこには――。

 

 日の光を遮るマンション。狭い路地。手押し車を押して進む近所の沢村婆さんの姿。大通りを走る車の喧騒。胸を疼かせる空気。

 見慣れた風景が目の前にあった。 


「……ああ、よかった。やっぱり夢だったんだ」

 当たり前の事だ。俺は安堵して思わず笑い出した。耳の遠い沢田婆さんは、俺の奇行に気がつかずゆっくりと立ち去っていく。

 笑い声で起きたのか、寧々子がカウンターから飛び降りて俺の足元にちょこんと座る。


「ひどいよ、マコトォ。朝ごはん抜きだなんて」

 しゃべった。

 語りかけてきた。

 話してる。

 人語を発している。


「あー、チクショー。寧々子が喋ってるよ」

 やっぱり現実だったのか。

 こいつが話さなければ、全て夢だった……って事になったのに。


「なんだよ。なんで話すんだよ、寧々子ぉ~」

 意気消沈してしゃがみこむ俺に、寧々子が猫らしからぬ手付き――足付きで肩に前足を置いた。


「だって声をかけなければ、夢だった事にしようとしてたように見えたからね。現実に引き戻そうとおもっただけさ」

「俺の知ってる現実では猫は喋らない」

 諦めるしかないのか。

 取り敢えず現実を受け入れる前に、胃の中に食料を受け入れないといけない。

 ひとまず、飯だ。

 俺はカウンター裏のリビングにあがり、隣接したキッチンの棚からカップ麺を取り出した。 

 

「……で、寧々子。一体、どういうことなんだ?」

 カップめんにお湯を入れつつ、俺を追ってきた寧々子にこの異変について説明を求めた。


「そんなことより、ボクはカリカリだ! カリカリを所望する!」

「カップめんの湯を入れて、待ってる間にくれてやる。効率的だろ?」

「なにをドヤ顔でっ! ところでボクはカリカリを食べたいんだ! 可及的速やかに」

「お前ってさぁ、シヴァしか食わねーけど、生意気だよなぁ」

 言葉が通じるなら愚痴も通じるだろう。交渉だって出来る。

 予てより懸案である食事問題を、改善する事が出来るかもしれない。

 あれが美味い、これが不味いと話し合って行けば、安くて美味しいカリカリだって見つけ出せるだろう。

 しかし、寧々子は譲るつもりはないらしい。


「シヴァにあらずばカリカリに非ず!」

「平家かよ!」

 そこはかとなく他のカリカリをディスってるが、決してそのようなことはありません。他のカリカリも美味しいですよ。

 ってこれじゃ俺が食べた事みたいじゃねーか!


 ネコ餌皿を戸棚から取り出し、カリカリを寧々子に与えた。

 寧々子は礼も言わず、ネコ皿に頭を突っ込んで貪り食う。まあ朝飯抜きにしちゃった俺が悪いんだけどさ……。

 一心不乱に食べる寧々子をそのままに、俺は食卓につく。

 およそ二分半。三分待ったらそれはマニュアル偏重である。

 二分半。蓋を開けて食うまでのタイムラグを考えるにこれがベストに違いない。やや芯が残っているのもよい。だんだんと柔らかくなっていく麺を味わえるメリットをある。


「あー、やっぱ味噌汁とご飯食いてーなぁ……」

 なるべくテンションを上げて食べたのに、カップめんはやはり味気ない。マズい訳ではないが。


「まったく。ユーキがいないと、キミは生活力を失っていくね」

「俺の知る常識が今、無くなりまくってるがな!」

 寧々子はしゃべるとヤケに生意気だ。ユーキがなんだっていうんだよ。


 しかし……。

 カップめんを食う日常の隣で、カリカリを食う猫と雑談。

 マジにありえない。

 俺がスープまで飲み干したと同時に、寧々子はネコ皿をなめ尽くす。


「さて、どこから説明するべきかな?」

 顔を洗いながら、寧々子は言った。


「そうだな。ひとまず寧々子がなぜ喋れるか? ――からだな」

「おや? 案外と冷静だね?」

 寧々子は意外だな! と耳をぴょこんと立てる。


「では説明しよう! 今でこそ寧々子と呼ばれ、飼い猫の身に甘んじてるけど、本当のボクは大魔法使い の使い魔にしてその助手。人語など軽い軽い。魔法とてそこらの使い手より遥かに出来る! その名も! ……その名も!」

 かっと寧々子のつぶらな猫目が見開かれた。


「……そういえば名前は貰っていない」

「ないのかよ」

 大魔法使いも薄情だな。


「そ、そういった意味では初めての名付け親はき、ききキミかな?」

 なんでコイツ、目を逸らすんだ? 言葉も変だしやっぱ人語は難しいのか。


「そんなボクだったんだけど、ある日、ご主人様の実験が暴走して、ボクはこの世界に飛ばされてしまった。今でこそ回復したけど、マコトに拾われなかったら死んでいたかもしれない。ほんとう感謝してるよ」

 寧々子は殊勝にも頭を下げた。


「あ、いやそれほどでも」

 つられて俺も頭をさげる。


「じゃあ、お前はこの世界の猫じゃないわけか?」

「そうだね。そしてボクはいずれ元の世界に帰らなくてはいけない」

「じゃあ、さっきなんで帰らなかったんだ?」

 オークが訪れた時、シャッターを閉める前なら出て帰れたはずだ。


「元の世界に帰ればいいというものではないよ。ボクの世界には飛行機も新幹線もない。例えばキミが異世界に飛ばされたとする。元の世界に帰りたいよね?」

「そりゃそうだ」

「だからといって、元の地球に帰れるならば、万里の長城の一角や、グルーム乾燥湖、サリサリニャーマでもいいってわけじゃないだろう? 増してや交通機関が無いなら」

 確かに、飛行機もないのに外国へ帰還したら、日本へ帰るのも一苦労だ。


「言ってる意味は分かるが、なんで出てくる例がエリア51とかギアナ高地のテーブルマウンテンなんだよ」

 とりあえず、グルーム乾燥湖とかサリサリニャーマとかいうボケには突っ込んでおく。


「と、いうわけでボクは帰還するために、この地球で少ない力をかき集めて、帰還の準備をした。成功したのは今日の朝。と、いうわけさ。もちろん、自宅かせめて近くの街に帰還ゲートを開きたかったけど、そこまでは無理だった」

「それで到着したのが、あの草原だったってわけかい」

「うん、そうなんだ。あの草原は隣の国だけど、陸路だと結構遠いからね。またのゲートの術式を組み替えてみないと」

「まったく……。だったら前もって説明してくれればいいのに。こっちだって心の準備だってあるんだからさ」

 異世界に興味がないわけじゃない。別に活躍や冒険がしたいわけじゃないが、出来るなら観光でもして写真くらい撮ってみたい。


「一度、ボクの世界に戻ってマナ……魔法の源となる元素を補充しないとしゃべる事ができなかったからね。ほとんど帰還の術式に使ってしまったから」


「なるほどねぇ」

 つまりまずは元の世界へ一時的に戻る事が目的だったわけか。

 食事を終えて店内に戻ると、寧々子が俺を追いかけてリビングから駆け下りてきた。

 前に回り込むと、店の入口を前足で指し示す。


「ボクの力を見せてあげるから、ちょっと、シャッターを閉めてごらん」

「こうか?」

 さっき開けたばかりなのに。まあ昼日中から客が来るような店でもないか。

 俺はシャッターを閉めてみせた。


「じゃあ、開けてみて」

「なに無意味な事やらせんな……よ……」

 シャッターを開くとそこは異世界だった。


 朝に見たの草原ではない。

 深い深い緑。錯綜する木々。木漏れ日の当たる苔むした大地。


「閉店」

 ガラガラガラ……。


「閉めないで! 閉めないで!」

 寧々子が必死に訴える。

 仕方なく閉めるシャッターを途中で止めた。


「なんだよ、ここがお前の住んでるところ近くなのか?」

 それはそれで残念だ。

 お別れるなるのかな?

 ふと、寧々子を拾ってきた日の事を思い出す。


 寒さに震える寧々子をタオルで抱いて温め、寝た夜の事だ。そういえば最初から利発な猫だった。

 聞き分けも良かったし、躾けもした記憶がないくらいだ。


「いや……植生からして多分ここは、西のエルフの森だね。残念だけど、とても帰れる距離じゃない」

 寧々子がそういうと、俺は心のどこかで安堵した。

 まだ帰らないんだ……。そう思うと、寧々子の姿から目を離せない。


「……? マコト。もしかしてボクが帰ると寂しいのかい?」

 目が合った瞬間、寧々子は意地の悪い笑みを浮かべて言った。


「ふ、ふざけんなよ! だ、だれが」

 ツンデレっぽくそっぽを向く俺の目の前に、見事なおっぱいがあった。


 目線の高さに、突き出されるはち切れんばかりのおっぱい。薄い布で豊満な胸を覆い縛り上げている。

 突くような胸の先が、片方は革の胸当てに覆われている。だが、もういっぽうは布だけなので、形がよくわかる。

 思わず暫く見とれてしまう。


「おい、少年!」

 叱りつける声が、俺の頭に降りかかった。 

 見上げると金髪碧眼の綺麗な顔が、怪訝そうにまゆを顰めて、俺の見下していた。耳が立ち上がるように長く、切れ長な目。高い鼻に艶やかな肌。

 気が強そうだけど、とても綺麗な女性だ。


 これがエルフという存在だろうか。漫画などで描かれる特徴が一致している。

 目線を落として改めておっぱいを観察する。

 

「やめてもらおう」

 柔らかい手が頬に触れた。そしてグイと首を捻られる。


「……おう」

 その先にも、可愛い女の子がいた。身長は俺より頭一つ低いだ。この子も耳が長い。

 おっぱいのエルフとは違い、胸は残念ながら貧しい。でも華奢な姿は保護欲をさそう。優しそうな目つきもまたポイントが高い。


「そっちも見るな」

 グキッ……。


「ごうっ!」

 おっぱいのエルフさんの手が、俺の首を逆方向に首を捻った……。


 俺は右左の負荷がかかった首を抑えて、力なくうずくまる……。

 変な音したぞ、これ……。


「いらっしゃい」

 悶絶する俺に代わり、寧々子が迎え入れる。

 エルフの女の子たちは、弓を背負い直して入店した。俺はちょっと待ってくれと言おうと振り返ったが、おっぱいエルフのお尻が目に飛び込んで言葉を失う。

 このお方、露出が激しい。なんでスカート履いてるのに半ケツ出てるんだろうか?

 見せたいんだろうか?

 見詰める俺とおっぱいとおしりのエルフの間に、可愛いエルフの女の子が割って入った。


「めっ!」

 子供にダメだよと言うような姿で、見るなと俺を叱りつける。可愛いのだが、邪魔をするな。

 ぐるりと店内を見回したおっぱいのエルフが、可愛いエルフの頭越しに俺を見下す。


「お前ら、なぜこんなところに住居を構えている? 昨日までなかったはずだが、まさか怪しい魔法をつかったのではあるまいな?」

「怪しいっていうか、なんか帰るためのゲート? っていうの? そんなのをちょっと……そ、そうだよな? 寧々子」

 良く分からないので、話しを寧々子に振った。

 ……あいつ、大あくびしてやがる。


「使い魔か。やはり魔術師なのだろうな。まったくこんなところにこんな本の店を出すとは気がしれないな」

「いや、違うんだけど」

「店を開くわけではないのか?」

 突き出すおっぱいを見上げながら、魔術師であることも出店も否定したが、どうやら後者だけを否定したと思ったらしい。


「しかし、面妖な本を扱っているな? これは……伝記なのか?」

 おっぱいのエルフは手近な本を取り、パラパラを捲ってみる。


「そ、それは!」

 それは不味い! 

 抵抗力のない女性がひとたび見れば、腐海に引きずり込まれるという恐ろしい本だ。


 肩とおっぱいを震わし、食い入るように本のあるページに見入るエルフのお姉さん。


「なんだ! これは!」

 笑顔とも戸惑いとも思えない表情で、顔をパッと上げると、エルフのお姉さんは俺を怒鳴りつけてきた。


「男同士がっ! が、合体してる!」

 なんで輝く目でこっちをみるんすか? エルフのお姉さん。

 本を眼前に引き寄せ、食い入るように読むエルフのお姉さん。そしてまた興奮した顔でこっちを見て叫んだ。


「ハゲて太った男たちが縺れて一つになってるっ!」

「一々報告しないでいいですから……って、ハゲデブものかよ!」

 紅潮した顔と胸の谷間は、なかなかにいい光景だが、よりによって見てる物がそれかぁ……。 

 鼻息荒く、しばしページを捲るエルフのお姉さん。

 読み終えると、その本を脇に抱えて次の本へ手を伸ばした。

 

「きゃーっ! なんで! なんで王子様がこんな美形の魔王に……てててて手篭めに!」

 二冊目を開くとまた違う路線で興奮するお姉さん。


「こ、こんなの誰が喜んで読むんだ! 誰が読むんだ! 人間の魔術師!」

 真っ赤な笑顔で、理不尽に俺を叱るエルフのお姉さん。


「あんた今、喜んで読んでるでしょ」

 今まさに、目を皿のようにして見ているじゃないか。

 エルフのお姉さんは、狩人のような目で本をあさり、次々とボーイズラブ本を抱えていく。流石、弓の名手と言われるエルフだ。狩る目になると一心不乱である。

 まさに獲物を狩っている姿だ。


「魔術師の少年! こ、これでいくらになる!」

 エルフのお姉さんは豊満な胸にも、スカートのベルトにまで本を差し込み、綺麗な顔を紅潮させて鼻息荒く迫ってきた。

 抱える本の表紙に、男が絡み合ってなければ素敵な光景なのに……。


 いっそ、お代はその服でと言ってみるかなぁ……。


「お代は、金貨一枚と銀貨五枚だね」

 パンツをお代に入れるか。などと考えていたら、寧々子が口を挟んできた。

 こいつ、勝手に値段決めやがって。


「む、く……。今、持ち合わせがない! 少年! 済まないがこれでどうだ!」

 銀貨らしきもの数枚と、レンズの付いたカードのような物を突き出してきた。

 寧々子は差し出したカードをカウンターに置かせ、じっくりと観察した。


「鑑定用のスペルカードだね。まあ確かに金貨一枚の価値はあるね」

「で、では買えるのか?」

 なんでボーイスラブ本に必死なんだろうか、この人。いや、そういえばボーイズラブだけじゃないんだっけ。ハゲとデブかぁ……。守備範囲広いなぁ、このおっぱいエルフさん。

 

「うん、まいどあり」

「寧々子。なんで俺を差し置いて店主みたいなことしてんだよ」

「いや、キミに任せると代金の代わりに服を脱げと言い兼ね……」

「い、いわねーよ!」

 ここは全力で否定する!

 いや、思ってたけどさ! 

 でも、いわねーよ!


「しょ、少年。この取引は我ら一族の新しい世界を開拓するだろう」

「え? みんなに見せんの、それ?」

 なんでこの世界の人は、エロ本をシェアしようとするんだろうか?

 俺は本を袋に詰めながら、思わず固まるぞ。ドン引きだよ。

 大袋を両手にエルフのお姉さんは満足げだ。その後ろ姿は、コスプレしてコミケで戦利品を手にいれた女性の姿に似ている。

 まあこんな凄い露出してる人はいないだろうけど……。


 なんだ?


 俺の肩を誰かがつつく。

 見れば、先ほどの可愛い女の子が、顔を真っ赤にさせて一冊の本を俺に突き出していた。


「……ん。…………これ」


「え? か、買うの?」

 この子もボーイズラ……。


「って、百合本かよ!」

 おっぱいエルフさんとこの子とそっくりな二人が、ありとあらゆるプレイをする内容だ。

 危険すぎる!

 しかも攻めが、小さいエルフの方だ。ヤバいんじゃないか? ピンチなんじゃないか? あのエルフのお姉さん。


「で、でもこれは子供には売れない本なんだよ」

 俺は理性を保ち、諭すようにエルフの女の子に言い含める。


「なにを言ってるんだい、マコト。彼女はこう見えても百歳くらいなんだよ。売ってあげるべきだよ」

 寧々子が何故か売りつけようとする。

 なんでこいつは、こんなに商売熱心なんだ?


「そういう話じゃねーよ」

 エルフが長命と漫画などに書いてあるが、そういう問題ではない。


「そうか。まったく、マコトはしょうがないにゃぁ。エルフのお嬢さん。店主殿はキミのパンツを代価に所望し……」

「所望してねーよ! って、おい! 迷わずパンツ脱ぐなよ! この猫の冗談だから、って、ちょ、まって」

 俺はパンツを脱ぎだした女の子の手を抑える。

 なんでこの子も必死にパンツ脱ぐんだよ! 力いっぱい脱ごうとしてるじゃねーかよ!

 どんだけ、幼女エルフ攻めムチムチ女エルフ受け本が欲しいんだよ、この子っ!!

 

「わかったから、売るから! いや、持って行っていいから! マジでパンツ履いて!」

 どうにか白いパンツを履き直してもらい、俺は仕方なく本を売る事にした。

 まあ異世界の事だから、日本の警察に捕まる事もないだろう。実際、年齢問題はクリアしてるはずだし。

 セーフセーフ……。

 

「んっ……」

 エルフの女の子が、何かを突き出してきた。まさかいつの間にか脱いだパンツじゃあるまいな?

 おそるおそる受け取って見ると、それは布に包まれた一枚の板だった。


「それは魔除けの護符だね。森の守護を集めて封じ込めたエルフの主力交易品だね」

 寧々子の鑑定力すごいな。本当なら対価として貰っていいのだろうか?


「受け取っていいんじゃないかな? 本一冊と比べるとちょっと高い護符だけど、パンツの代わりとしては……」

「だからパンツはいらねーつってんだろ! なんでしつこいんだよ、寧々子は!」

 なんか恨みでもあるのか、この猫。


「……ん」

 対価は払ったから私の物だと、エルフの女の子は服を捲り上げ、ペロリと白いお腹を見せて懐に本をしまい込む。


「さあ、そろそろ帰りましょう!」

 おっぱいエルフのお姉さんが、店外から声をかけて来た。

 エルフの女の子は、満足げにお腹の本と抱えて狩る目でおっぱいエルフの背を見つめた。


「……え? ロックオンなの?」

「……ん」

 エルフの女の子は可愛い顔で首肯く。

 俺は軽く引く。


「頑張ってね」

 寧々子が応援する。


「煽るなよ」

「……任せて、猫ちゃん。やってみせるから」

「って、応じるなよ!」

 なんだ? この子!?


 走り去り、おっぱいエルフのお姉さんに飛びつくエルフの女の子。抱きつき、腰を撫でる手が怪しいのは気のせいだろうか。

 木の精がいる森だから、気のせいだろう。

 心配する俺の隣で、寧々子が顔を洗う。


「古来から、エルフの一族は男女ともに性的接触が乏しく、緩やかに種が減ってるというけど……。あの本がもたらす文化は、確実に種の存続にトドメを刺すだろうね。まったく、真琴は罪深いねぇ」


 …………え? これって俺が悪いの?

 


 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ