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後編

「シグルド」

「何かな?アルフレド」

 私とアルフレドは十八になった。

 アルフレドの縄をほどいたあの日から私の出席する夜会は倍に増え、アルフレドの出席する夜会は半分に減った。

 茶色の髪の平凡な私と華やかな金髪のアルフレド。アルフレドは相変わらずモテるが、火遊びはかなり減った。

 私の火遊びは相変わらずない。

「見ろよ。ダイヤジノン男爵の息女、ユリアナシアが来てる」

「……ふーん」

「おい! 少しは周りを見ろよ!」

 胸ぐらをアルフレドに掴まれ揺らされる。

「周りなら見てるさ。お! リグエイト候の傍に人が少なくなった。挨拶に行こう」

 意趣返しにアルフレドの首根っこを掴んで今夜の主催者の元へ向かう。

「違うだろ? もっと楽しい方に目を」とアルフレドが暴れようと女より主催者への挨拶の方が大事と歩く。

 女に目を向けるアルフレドに仕事馬鹿な自分。 私達はそれなりに名物コンビとして有名らしい。

「君たちは相変わらずのようだな」

 笑顔で私達を迎えて下さったリグエイト候。

「本日はお招き下さり」

「まぁ、堅苦しい挨拶はいいよ。君たちは本当に面白いなぁ」

 くすくすと笑うリグエイト候は私の言葉を遮った。

「君たちのご両親は私の友人でもあるのだが、ふふっ。いやぁどうして逆転したものだ」

 これはどこの夜会に出ても言われることだ。

 私達の父親はアルフレドの父親は生真面目、私の父が不真面目と私達とは反対の性格をしていた。

「いつも夜会に息子達を出してこいと打診はしていたのだが、君たちが順を追って夜会の主催者の位を自分で上げるまでは我慢しろと言われていてね。今日は本当に楽しみだったのだよ」

 快活に笑うリグエイト候に笑顔で返事をしたら、リグエイト候はふと考えて、何やら含むように「私のところで二年ばかり修行してみないかい?」と告げた。


 すったもんだあり、半年後には私達はリグエイト候の下、更に忙しく働くこととなった。


「ユリアナシア嬢、本日は」

「ユリアナシア嬢、今日こそは私と踊っていただけますか?」

 リグエイト候の友人であるダイヤジノン男爵は男爵と言うそれほど高くない身分でありながら、その才覚により皇帝の懐刀として行動している。やっかみなどが当然あるが、それをものともしない男爵と関係を持ちたいものは多い。そういう者たちにとってユリアナシアは格好の的だった。

 夜会においてリグエイト候の頼みにより私達は彼女をエスコートし守っていた。

「今日は俺が壁役だ。俺よりも自信がない奴は失せな」

 素晴らしい俺様、もとい、モテる男の言い分だ。私にはこんなことは言えない。

「……おい、シグルド。俺にはお前の様なえげつない退治方法はできないぞ」

 まるで私の思考を読んだかのよう「口から出ているぞ」

「おっと、失礼。そしてユリアナシア嬢。笑う時は扇で口元を隠すものですよ」

「ふふっ。可笑しい……」

 すっかり私達に慣れたようで何より。

「ではユリアナシア嬢。踊っていただけますか?」

「はい。アルフレド様」

 アルフレドにエスコートされ、踊りの輪の中に入るユリアナシア。

 私には少し辛い光景だった。


 ***


「おい。シグルド」

 あくる日のこと。

 私達はとある街の酒場に居た。

「……」

「だめだ。潰れていやがる」

 否、私は生まれて初めてヤケ酒でへべれけ中である。

「おーい。シグルド?」

「いつもいつもいつもいつもいつも……なんで」

 こんな私を迎えに来たのはアルフレドで……

 いつも楽しく仕事をして……

 いつも楽しく遊んでいるアルフレドで……

 私の思い人と婚約したアルフレドで……

「一発やニ発や三発や四発……思う存分殴っても……いいんだよな」

「いやいやいや、シグルド!! お前らしくもない」

「おれぇらしぃってぇなんら、こんちくしょぉ」

「……聞いたのか」

「聞いた! なんでお前なんだぁ。お前は……お前は……」

「ふぐぁっ」

 ふん。私だって切れの良い動きをするんだ馬鹿野郎。

「効いたか」

「っあぁ。シグルド。てめぇもいいの持ってんじゃねぇか」

「くっ」

「ふが」

「い゛っ」



 ***


「うんうん。お貴族様にも事情があったのは分かった。うん。実に男らしい決着のつけ方でした。」

「酒場のオヤジにはちゃんと弁償してくださいよ?」

 現在、たぶん早朝。

 私達は二人揃って警備団の詰め所の檻の中に居た。

「すまない」

「めんぼくない」

 ボロボロになるまで殴り合い、言い合い、店を破壊し、警備団の人たち何人かに噛み付いた気がする。

「まったく。お酒って言うのは人に迷惑にならない程度に飲むものですよ」

「めんぼくない」

「すまなかった。まぁ、こいつの初めてのヤケ酒記念で見逃してくれないか?」

「まぁ、貴方がユリアナシアとの結婚が決まらなければ起きなかった事態ですので」

「はいはいはい。檻の中でファイトされたら困るので冷静に。冷静に。一応、お家の方には連絡を差し上げましたので、しばらくしたら何か動きがあるでしょ。大人しくしていて下さい」

 警備団員に宥められた。

「なぁ。お前、ユリアナシアのこと好きだったのか?」

「好きでなければ友人のアルフレドと喧嘩なんてしませんでしょう? 私の性格知っているでしょうに」

「……今回のことは完全に家の都合のことだ」

「でも、貴方も彼女が好きだった。渡りに船だった」

 壁に身を預け、痛みのある肩に手を当てる。

 アルフレドはお腹を摩っていた。

「そうだ。だからユリアナシアは俺がもらう」

「……知っていますか?私達の親の代に私達と同じことが起こり、当時、やんちゃだった私の父が母を貰ったんですよ。面白いですね。……もう。このことは親子二代に亘る笑い話としましょう」

「……そうだな」

 お互いに痛みを我慢しながら、笑いが堪えられずに噴出した。

 大笑いする私達を近場に居て話を聞いていた警備団員が「お貴族様って言うのも因果なもんですね」と呟いたのに、私達は迎えが来るまで「因果なものだ」と笑っていたのだった。



 ***



「おい。シグルド。そろそろ結婚しねぇの?」

「はい。誰かさんがお慕いしていた人を掻っ攫ってしまったので」

「まだ言うか」

「そうですね。私が結婚を決めるまで言いますよ」

「ちっ。帰る」

「ユリアナシアによろしくと」

「嫌だね」

 アルフレドとは爵位を継いだ後もこうして酒を嗜む間柄で、今日は満月を口実に飲みに来た。

 アルフレドはユリアナシアを娶ったことを未だに私への借りだと思っているらしい。

 こっちは未練すらない。私は領主として貴族としていても。基本は平凡な容姿の平凡な男で、女性から見て何か惹きつけられるものがある男ではないのだ。

「またな」

「おう」

 馬で帰るアルフレドを見送ると、休む為に自室に戻った。

 そして……彼女に出会い、彼に出会った。



 ***



「うん。いいよ。行っておいで」

「はい。ありがとうございます」


 今目の前から走り去る、この執事との出会いは今も――面白いエピソードだったと思う。

 そして出会いも面白ければ、暇を求める理由も面白い。

 面白いから雇ったまま彼を追わせてみた。

 彼が去った後からの騒動は――また本編でのお話。


シグルド様……腹黒属性(笑)になってしまいました。

そして若干愉快犯の気もありのご様子ですが、基本的には「良い人」なのですよ。

友人としても女性からしても。

次回はまた作者によるニャルマーイジリがあってから本編を上げる予定です。

あくまでも予定です。

お読みくださり有難うございました。


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