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第九話 ソラの明るさ (第一章完)

 俺はどこかの寝室らしき場所で目を覚ます。


 ガバッ!


「ドラゴは!?」


 周りを見渡してもドラゴの姿はない。


「おや、起きられましたかな」


 神父の格好をした爺さんが俺の様子を見に来た。


「俺の近くにドラゴはいなかったか?」


「ドラゴというのは君の友人ですか? 恋人ですか? 召喚獣ですか? 君は昨日の夕方頃、この教会の祭壇に一人で横になっていたのですよ。ですから、この教会の二階にある空き部屋の寝室まで私が運んだのです。あなたが祭壇で横になっていた時、近くには誰もいませんでしたが、一体あなたはいったい何をしていたのでしょうか?」


 俺はこの神父の話を無視してベッドを飛び出し、階段を降りて教会の外に出る。皮肉にも自分の体は昨日よりも遥かに動きがよく、頭もすっきりとしていた。


 町中どこを探してもどこにもドラゴの姿は見あたらない。


 本のことを思い出した俺は召喚獣のページを急いでめくる。


『ドラゴ』


 と、書かれてあるが、文字が灰色になっていた。


 FAQに書いてあった召喚獣の召喚方法を思い出して召喚しようと試みる。


「ドラゴ召喚!」


 しかし何も反応がない。


「ドラゴサモン!」


 同じく全く反応がない。


 ドラゴが死んでしまった事実を受け入れてしまったのか、いや受け入れきれないのか、周囲に人がたくさんいるのに涙と嗚咽が止まらなくなる。


 周りに人が集まり心配されるが、俺は涙と鼻水だらけの顔のまま、ふらふらと町の外に向かって歩き始めた。


 騒ぎを聞きつけて駆けつけた神父が俺のことを止めるが、俺はその制止を振りきって歩き続ける。


「せめて君の話を聞かせてはもらえないだろうか」


「俺の……俺の……」


 ドラゴは俺のなんなんだ? 恋人でも友達でもないが、当然他人でもない。……仲間か。


「俺の仲間が死んでしまったんです。俺のせいで。全部俺のせいで。だから俺はあそこに行かなくちゃいけない」


 俺がドラゴを殺した。その事実を口にした時、悲しさと悔しさと喪失感が心の奥底から湧いてきて、自分を呪いたくなった。


「君が悔やんでも死んだ人間は生き返らない。召喚獣なら生き返るが、その人が死んだ場所に行っても君が危険な目に合うだけだ」


「死んだのは俺の召喚獣です。俺が死んだせいで召喚獣も死んでしまった」


「??? 何を言っているのかね君は。君は生きているじゃないか。召喚獣なら死んでから二十四時間経過したらまた召喚することができる。君が生きている限りね」


 二十四時間?


「今何時ですか?」


「十時十二分です」


 俺はあることを閃いて、もう一度本を開き召喚獣のページを見た。


「君は難しそうな本を読んでいるのですね。私にもなんと書いてあるのかよくわからない」


 外野の声がうるさい。外野の声が聞こえないように別の方向を向く。


『ドラゴ』


 と、書かれた灰色の文字を触ってみる。すると隣のページにドラゴのステータスや説明文が出てきた。そこに、


『復活まで残り七時間二十三分五十七秒』


 と、書かれた文字が見えた時、俺は安堵の声をあげた。そして、また泣いてしまう。ただ、この涙はさっきまでの涙とは全く違う涙であった。いつから俺はこんなに泣き虫になったんだ。涙がこぼれないように上を向く。


 天を仰いで空をよく見てみると、昨日の雨はどこへ行ったのか、空は明るく、日はさんさんと地面を照らしていた。


 そして、また目の前が真っ暗になる。


 次に目を覚ました時もまた教会の寝室であった。


 俺はまた死んだのか? いや、そんなはずはない。町中でみっともなく泣いていただけだ。普通に失神したのか。


「疲れが溜まっているようなので安静にしてなくてはいけないですよ」


 神父は俺の目が覚めたのに気づいて声をかけてくる。


「今何時ですか?」


「十七時二十八分です」


 あれからまた何時間も寝ていたらしい。


 本を出してもう一度確認してみる。


『ドラゴ』


『復活まで残り七分三十六秒』


 もうすぐドラゴが復活できる。一分一秒がとても長く感じられた。


 そして、復活の時間になる。正直なところ、本当にドラゴが復活できるのか不安な気持ちは残っていた。しかし、その気持ちもすぐに吹き飛んでしまう。


「ドラゴ召喚!」


 光と魔方陣が現れ、初めて会った時のようにドラゴが召喚される。


「ご主人様!」


「ドラゴ!」


 お互い、今まで離れていた時間を噛み締めるようにゆっくりと歩み寄り、おもむろに抱きあう。


「本当は教会内で召喚獣を召喚するのはご法度なのですが……、まあ邪魔者は消えますね」


 そう言いながら神父は部屋を出ていく。


「ご主人様、生きてらっしゃったんですね。あの状況から生き残るなんてさすがご主人様です」


「いや、そうじゃないんだ。一度俺は死んだ。でも生き返ったんだよ」


「生き返ったって、ご主人様も召喚獣なのですか? でも召喚獣は召喚獣を召喚できないはずです」


「俺は召喚獣じゃない。ただ特例で、死んでも生き返れるようになってるんだ」


「よくわからないですけど、とにかくご主人様が生きていて本当に安心いたしました。私、ご主人様を守りきれずに死んでしまったと思っていたので、死んでも死にきれませんでしたから」


「俺も、俺がドラゴを殺してしまったと死ぬほど反省した。すまない。俺のせいであんな目に会わせてしまって。今度からは絶対にあんな危険な目には会わせないから、俺を見放さずについてきてくれ」


「何を言っているのですか。私のご主人様はご主人様だけです」


 今まで見たことがないような満面の笑みで俺に語りかけるドラゴを見て、思わず目を背けてしまう。


 顔と耳だけでなく、体全体が熱い。


 よく見るとドラゴも顔と耳を真っ赤にしていた。


「なんかドラゴ、ちょっと変わったな」


「ご主人様もちょっと変わりましたね」


「ほら、そういうこと今までは絶対言ってなかったし」


「「ぷっ、あはははは!」」


 と、お互いの顔を見つめ合って軽く笑いあう俺とドラゴ。


 ドラゴとの距離が自然と近くなっていく。ほのかに水仙の香りがする。


 俺のファーストキスだった。


 ドラゴもそうだったらいいな。という醜い独占欲が心の奥から湧いてくる。


 そのあと、俺とドラゴは今後についてきっちりと話しあった。


 はっきり言って、俺がドラゴの強さに甘えていたのだ。ドラゴは否定したが、実際否定できることではなかった。


 万能な能力を手に入れ、強い召喚獣を手に入れて驕り高ぶっていたのだと思う。


 それにかわいい女の子と知り合い以上の関係になれて浮かれていた部分も確実にある。


 今回のことは、全て俺の精神的な弱さが招いた人災にほかならない。


 ドラゴは俺を守る力を持っているが、俺にはドラゴを守る力がない。それでは主従関係も信頼も失ってしまうのは時間の問題であった。


 俺はこれから精神的にも肉体的にも強くならなくてはならない。


 精神的に大事なのは行動力とバランス感覚。


 肉体的に大事なのはこの世界ではレベルと武器を買うお金である。


 今回のようなことが二度と起こらないように、この反省と決意は死ぬまで持っておこうと心に誓う。


 自分と自分の手が届く範囲だけは幸せにしたい。


 そんな些細な願いを叶えるために俺はこの世界で生きていく。


 夢から覚めるまで。

ここで第一章はおしまいです。

拙い文章でしたが、ここまで読んでくださって本当にありがとうございました。

特にお気に入りに入れて読んでくださった方には感謝しかありません。


主人公のソラは魔法にしても召喚獣にしても大器晩成型ですので、長い目で見守ってやってください。

ソラの人付き合いの苦手さと性格のひねくれ方は、これから少しずつ改善されていくはず……。


第二章も引き続き更新するので、読んでもらえると嬉しいです。


お気に入りに入れるほどではないけど、この小説を時々読みたいなという方は

『ぼっちチート』で検索してもらえればすぐに出てくるかと思います。


では、しつこいようですが、読んでくださって本当にありがとうございました。

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