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第六話 基礎魔法と複合魔法と希少魔法と未確認魔法

 完全にいらない子になりつつある俺は、なんとかこの状況を打開しようと魔法の練習を始める。


 さっきの戦闘で所持金が八十五ゴールドになって、今日の分の宿代は貯まったしね。


「いや、別に罰とかはないよ。ちょっと休憩しようか。俺は今から魔法の練習をするから」


「では私がご主人様の練習台になります」


「休んでて!」


「承知いたしました」


 ドラゴがしょぼーんとした顔になるが、無理矢理にでも休ませて、俺はそこらへんにある木に向かって魔法の練習をする。


 まずはスモールウォーターからだ。


「スモールウォーター!」


 別に大きな声を出さなくても魔法は発動するはずだが、なんとなく初魔法の時は大声で唱えたくなっちゃうんだよね。


 地面から水圧の高そうな勢いのある水が何本も噴出する。水といってもあれを食らうと大きなダメージを食らいそうだ。実際、刑務所で水圧の高い水を局部に放射されて死亡した受刑者の男の事件をニュースで見たことがある。そのニュースを聞いた時は胸糞が悪くなった。


 それに、木だから水は効かないかもしれないと思ったが、そうでもないようだ。普通にスモールファイヤーと同じくらいのダメージを受けているように見える。


 次は土魔法か。あれ? 土魔法の呪文の名前ってなんだっけ?


 本を開いて確認する。スモールソイルね。そうそう、ソイル、ソイル。聞き慣れないから忘れてた。


「スモールソイル!」


 石つぶてというか岩つぶてと言っていいような攻撃が無数に地面からくりだされる。さっきと同じように、木だから土魔法が効かないなんてことはなかった。


 ただの木には属性がないのか、属性の相性なんてものはハナから存在しないのか、他の原因なのかはわからない。ちょっとドラゴに聞いてみるか。


「ドラゴ、魔法属性に相性ってのはあったりする?」


「私は魔法使いではないので確実なことは言えないのですが、水は火に強く、火は金に強く、金は風に強く、風は土に強く、土は雷に強く、雷は水に強いというものがあったはずです。あの、ぶしつけながら、私からも一つ質問をよろしいでしょうか?」


 魔法の種類が多いせいか相性関係がややこしいな。水は火に強いのと、雷は水に強いの以外は覚えきれなかったし。


 それに光とか闇とか、他の属性の相性はどうなってるんだろ……。まあいい。多分慣れれば覚える。


「いいぞ。俺が答えられる範囲ならな」


「ご主人様は魔法使いだとお見受けいたしますが、魔法使いは最大でも基礎魔法二種類プラス複合魔法一種類しか使えないと聞いております。ですが、ご主人様は火/水/土と三種類の基礎魔法を使われておりました。もしかしてご主人様はさまざまな魔法をお使いになることができるのでしょうか?」


「いい質問だ。俺は全種類の魔法を使うことができる。この世界での常識がドラゴの言ったとおりなら、他人に見つかって無駄に騒がれるのは好ましくない。秘密にしておけ。で、また俺からも質問だけど、基礎魔法と複合魔法ってのは何?」


「基礎魔法は火/水/土/風/金/雷の六種類の魔法のことでごじゃますございます。」


 あ、ドラゴが珍しく噛んだ。こういうクールビューティーがドジなところを見せると萌えるなー。


「なるほど。で、複合魔法ってのは?」


「複合魔法は基礎魔法六種類のうち、特定の二種類を使える者だけが使える魔法でございます。詳細は私も聞いたことがないので、申し訳ございません。さらに、希少魔法と未確認魔法が存在すると聞いたことはありますが、こちらも詳細はわかりかねます。」


 多分、音/氷/毒が複合魔法で、光/闇が希少魔法かな。時は希少魔法か未確認魔法……。いや、俺が知ってる魔法が全てで、未確認魔法ってのが存在するらしいから、時魔法は未確認魔法か。


 他の分類な可能性もあるけど、この分類の可能性が一番高そうだ。


 そもそもこの世界でどう分類されているかなんて、そう重要ではない。俺が全ての魔法を使えるって事実だけで十分だ。


 俺が黙りこくっていたからだろうか、ドラゴがものすごい勢いで謝ってくる。最初はしおらしくてかわいかったが、なんかこの謝られる→許すのやりとりがめんどくさくなってきた。俺が怒ってもいないのに謝りすぎるなと一喝しておく。これでいいだろう。


 まだ夜にはなっていないが、だいぶ日も落ちてきたな。


「そろそろさっきの村に戻るか」


「承知いたしました」


 ドラゴのモンスター探索の力のおかげで一度もモンスターに遭遇せずに森を出ることができ、最速で村にたどりついた。ちょうど日が落ちたところである。


 しかし、冷静に考えれば村まで走って戻るのではなく、ドラゴに乗せていってもらえばよかったと後で気づいた。


 そのまま宿屋に向かってもよかったが、ちょっとこの村を小一時間探索してみよう。ドラゴは何も言わず黙ってついてくる。


 この村のほとんどの建物は木でできていて、民家の他には、武器屋/防具屋/道具屋/宿屋が一軒ずつ、酒場が二ヶ所、そして石造りの教会が一堂あった。この教会がこの村で一番立派な建物である。


 俺は無宗教とも神道と仏教の複合ともいえるような、特に宗教なんて信仰していないごく一般的な日本人なので、宗教問題には絡まれたくないなと思ってしまう。


 村の全体的な雰囲気は、西洋の昔話に出てきそうな村と言ったらいいか。まあ、そんな感じだ。人々は活気がないわけでもないが、あるわけでもない。特筆すべき点があまりない村である。


 つまらん!


 ぶっちゃけ、この村には娯楽が酒場しかない。しかも俺は下戸だ。


 どのくらい下戸かというと、二十歳になったと同時にビールをジョッキ二杯飲んだが、リバった。それからビールジョッキ一杯すら飲めなくなり、最終的に白桃サワーにたどりついた。その白桃サワーすらコップ一杯しか飲めない。それから一人居酒屋にすら行かなくなった。


 というわけで、俺にとって娯楽が一つもないこの村は、長期滞在しても明らかに退屈である。明日は村ではなくもうちょっと大きな町に行こう。どうせ他の村も似たような感じだろうしな。村暮らしは俺には無理だ。


 俺が元いた世界は娯楽であふれていたことを思いしらされる。ネット、テレビ、ゲーム、漫画、小説、なんでもあった。ここにはそれがない。小説くらいは探せばあるだろうが。


 俺はこの村にある唯一の娯楽である食事をしに行く。食べ物までまずかったら、もうチェックメイトだ。


 宿屋に着いてチェックインを済ませると、まず部屋にドラゴの荷物を置いてからすぐに食堂へ向かった。ちなみに、部屋はシングルである。


 宿泊する部屋に入るだけでも、ドラゴは俺に「ドラゴも部屋に入れ」と言われるまで部屋に入らなかったり、一悶着あって面倒だった。ドラゴの遠慮しがちな性格は悪くないと思うが、遠慮されすぎるのもなんか居心地が悪い。


 食堂に着いた俺は、とにかく飯をガツガツと食べる。パンとサラダとスープの質素な組み合わせだったが、量があり味もそれなりによかった。俺は生野菜が苦手で食えなかったが、そんなのは関係なくとにかく好き嫌いせずに腹を満たす。それだけ飢えていたのだ。


 考えてみれば今日は何も食べずに、ずっとモンスターと戦ったり魔法を試したりしていたんだから腹が減っていて当然である。


 目の前のドラゴは、最初「ご主人様と一緒に食べるわけには……」とか言ってぐずっていたが、無理矢理座らせた。言うことは奴隷根性丸出しだが、食事をしている姿は貴族のように優雅である。嫌味でなく本当にそう思う。


 てか、ドラゴがいなかったら俺は確実に精神的に潰れているはずだ。俺にとってドラゴだけがこの世界の唯一無二の光であった。


 誰かや何かに依存しすぎるとろくなことがないのはわかっているが、今だけはこう思わせてくれ……。


 その晩は風呂にも入らずいつのまにか寝ていた。そもそもこの世界に風呂があるのかどうかもわからない。

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