表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/45

第五話 一閃

 村人たちは空から降ってきた俺たちにそう驚くこともなく、村の説明をしてくれた。


「イニシウム村へようこそ。あちらが宿屋、こちらが武器屋――」


 まずは武器屋へ直行する。俺とドラゴの武器を買わなくてはならない。


 武器屋の前に立つと剣の看板が掲げてあった。これはわかりやすいな。


 中に入ると割と広く、壁や棚に様々な武器が置かれていた。


 まず最初はドラゴ用の槍だ。槍のコーナーへ行くと様々な槍があるが、どれも高い。


 買えそうなのが、申し訳程度に置かれている木の槍だけだ。十ゴールドである。木の槍って……。先端が金属でなく木で、こりゃ槍じゃなくてただの棒だな。


 そういえば、日常会話だけでなく文字も日本語である。この世界の公用語は日本語なのだろうか。


 とりあえず、木の槍を買うかどうかは保留にしておいて、次は自分の武器を見てみよう。


 まずは剣が置いてあるところへ向かう。勝手に手にとっていいのだろうか。ちょっと店主に声をかけてみよう。


「ちょっと武器を持ってみてもいい?」


「いいよ。けど、店内で振り回したりはしないでね」


 店主の許可を得たので剣を手にとってみる。なんだかしっくりこない。正直振れるかどうかも怪しい感じがする。なんだかなー。


 他の武器も試しに触ってみるが同じ感覚である。


 最後に杖を持ってみると、今までとは違い完全に手になじむ。俺の武器はこれということだろう。


 魔法使いだから杖で魔力アップってことなのかな。殴ることもできそうだ。


 しかし、値段を見てみるとこれまたどれも高く、自分の所持金では手が届きそうにない。


 唯一買えるのが、五ゴールドのタクトであった。見た感じ、ただの細い棒で竹ひごのような代物である。確実にこれでモンスターを殴ることはできない。魔力アップの効果すらあるのか疑わしい。


 まあ、ないよりはマシだろうと、銅硬貨を十五枚出して木の槍とタクトを買う。しめて十五ゴールド。安い! 激安の殿堂もびっくりの安さ。


 まともな武器を買うには最低でも百ゴールドは必要なようだ。出直してこよう。


 当然ではあるが、ドラゴは全くお金を持っていなかったので、所持金は残り十ゴールド。


 ドラゴに木の槍を与えると、早速気に入ったようで大事にしていた。ごめんな、超安物で。うちが貧乏じゃなかったらもっといいものを買ってやれたのに……。


 防具は仮に買えても、どうせ今の布の服とほとんど変わらない防具だろうから、次は宿屋へと向かう。


 宿屋の看板はベッドの絵だった。これまたわかりやすい。中のおじさんに値段を聞く。


「この宿屋って一泊いくら?」


「全部屋夕食朝食付きで、シングルは五十ゴールド、ダブルとツインは八十ゴールドだよ。ちなみにスイートは二百ゴールドだ。」


 た、高い。このままでは野宿決定だ。なんとかしなくちゃ! つーかなんとかなるっしょ!


 しかし、これでこの世界の大体の相場がわかった。現実世界でもホテルは大体一泊五千円ってところだ。もちろん場所やグレードによっても全然違うけど。


 おおよそ、一ゴールド百円くらいと考えるのが妥当な感じである。


 あくまで宿屋基準だから見当違いになるかもしれないが、その時はその時だ。


 かなり見苦しいが、今のゴールド不足は深刻なので恥をしのんで値段交渉を行なってみる。


「食事抜きってのはないんですか?」


「それはやってないけど、安く泊まりたいならシングルに二人で泊まってもいいよ。そちらのお嬢ちゃんは召喚獣だろ?」


 召喚獣かどうかがわかるのか。このおっさん、ただものじゃないな。それとも俺以外は誰でも見分けがつくんだろうか。


「とりあえず日没後にまた来ます。まだ時間はありますし」


 そう言って宿屋をあとにする。まあ、五十ゴールド貯まらなかったら野宿なんですがね。


 道具屋に寄ろうか迷ったが、一ゴールドでも温存しておきたいので行かなかった。


 しかも、本のステータス欄を見るかぎり、MPは自然回復するようだ。おそらくHPも自然回復するのだろう。もちろんその速度は遅いが、時間をかければ回復するんだからわざわざ回復薬なんて買わなくてもいい。麻痺や毒になった時が恐ろしいが、さっきのウィークラットならそういう攻撃もなさそうだから大丈夫だろ。……多分。


 村の外へ出て近くにある森へと向かう。森までの道のりではモンスターは見かけなかった。


 おそらく普通の平地ではモンスターは出ないか出にくいのだろう。


 森に入るとドラゴがいきなり、


「あちらの方にモンスターが一体います。行かれますか?」


 と、言ってきた。


「モンスターの位置がわかるのか?」


「はい。獣人族ほどではありませんが、私もモンスターの位置を把握することができます」


「じゃあそこに行ってみよう。危なそうだったらすぐに逃げるから。あと、言い忘れてたけど、俺はこの世界に関しても、ドラゴに関しても、知らないことがたくさんある。だからいろいろと教えてくれるとありがたい」


「ご主人様に教えるというのは恐縮ですが、承知いたしました」


 たしかにドラゴが言う方向に走っていくとモンスターが見えた。ウィークラットである。


 一匹だしこれなら大丈夫だろうと、ドラゴの戦闘能力を確認したくなった。


 ドラゴが戦闘でどのくらい使えるかによって、俺の戦闘の方法も変わってくるからな。


 ドラゴに命令する。


「ドラゴ、あのウィークラットを倒してこい」


 もし、ドラゴがウィークラットに苦戦するようなら俺が魔法を放てばいい。


「承知いたしました」


 ドラゴが加速する。今までは俺に合わせてゆっくり走っていたのだろうか。竜人というだけあって身体能力は高そうだ。


 次の瞬間、俺は目を疑った。


 一閃。


 俺もスモールファイヤー一発で倒したといっても、ドラゴの倒し方は実に鮮やかであった。


 あの木の棒、もとい木の槍でウィークラットの頭部を横なぎ一撃で斬り落とす。


 どうやったら木の槍であの巨大ネズミを斬ることができるのだろうか。


 先端が木だぞ木。


 ウィークラットが消え、皮と布袋を拾ってドラゴがこちらに向かってくる。


「戦利品でございます」


「よくやった」


 まだ若干ドラゴにビビっているのだが、なんとか俺は主人らしい立ちふるまいを見せる。


 本の中に皮とお金を収納し、次どうするかを考える。ドラゴが触ったあとでも、俺が触れるだけで本の中に入れることができた。突然アイテムが消えたことに関して、ドラゴはなんの疑問も持っていないようである。もしくは疑問に思っても、ご主人様がなさることだからと、疑問を持たないようにしているのかもしれない。


 今のでドラゴの実力は十分にわかった。正直、俺いらねーんじゃねーの? とも思ってしまう。俺のMPが節約できるならそれに越したことはないか。と、ポジティブに解釈して精神を落ちつかせた。


「他にウィークラットはいるか?」


「あちらに二体モンスターがいるようです。申し訳ありませんが、私の力ではウィークラットかどうかはわかりかねます」


「じゃあそこに行くぞ」


「承知いたしました」


 走ると前方数メートルのところにウィークラットが二匹見えた。ドラゴに命令を送る。


「左側の一匹は俺が相手をするから、ドラゴはもう一匹を相手しろ」


 俺が命令すると、ワンテンポ置いてお馴染みの了解の返事がドラゴから帰ってくる。


 あっさりと倒してアイテムとお金を手に入れたが、さっき返事が遅れたことに対して問いただしてみる。


「ドラゴ、どうしてさっき返事が遅れた?」


 謀反を起こされないだろうかとちょっとドキドキする。でも、主人が死んだら召喚獣も死ぬって言ってたから、多分そういう気は起こさないだろう。それに、俺は死んでも生き返れるんだしね。ん? なんかちょっと引っかかる。


 その引っかかりがなんであるかを考える前にドラゴが話し始めた。


「申し訳ございません。一振りで二体とも仕留められるので、わざわざご主人様の手をわずらわせる必要もないかと思いまして。余計な詮索でした。罰でしたらなんでも受けますのでお許しくださいませ」


 つまり俺が一匹倒そうとしたのが、かえって邪魔だったと。

 たしかに槍の攻撃範囲は広いけど、普通一匹斬ったら槍の勢いが殺されて、もう一匹は斬れないんじゃないの……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ