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第四十五話 幸せな日々 (第四章完)

 マシュー・ブラウンの処遇については、予定していた通り死刑になることになった。


 ただ、一番残酷な長期間に渡って苦痛を与えたあと、見せしめとして市中で晒し者にするという死刑ではなく、死刑の中でも比較的軽いものに減刑された。おそらくジェニファーの働きかけによるものなのだろう。


 それでも死刑は死刑なのだが、あれだけの人間を死に追いやって自分だけのうのうと生きるというのも道理に合わない。


 ただ、法に則ったこととはいえ、ジェニファーと同じ魚人族であり、幼馴染でもある人間を間接的に殺すというのはどういう気持ちなのだろうか。俺にはわからないが、あまり気分の良い物ではないだろうな。


 次にどんな任務を任せられるかはこれからの状況次第なんだろうが、俺という全ての魔法を使用できる人間の噂が広がることによって、タラシア都市に攻撃を仕掛けてくる敵が減ることを祈りたい。


 そのようなことを考えながら今日の疲れを癒すべく、早めに新しい家のベッドに横になる。




 夢を見た。今までに計四回見たあの夢だ。今回で五回目である。


「おめでとう」


 いつもの声しか聞こえないお姉さんの声が聞こえる。おめでとう? 何が?


「あなたのあの世界での活躍と、精神の向上を祝して、私からささやかなプレゼントがあります」


 何を言っているのかよくわからないし、その声に答える気にもならない。


「テンション低いですねー。あなたに元の世界へと戻る権利を与えます。元の世界というのはあなたがこの世界に来る前に眠っていた世界のことです。今風に言えばリアルへと帰ることができます。これであのわけのわからない世界とはおさらばできますよ」


 帰ることができる? 元の世界に?


「何か言ったらどうなんですか? まあこっちにはあなたの心の声は聞こえてますけど。あんまり嬉しくなさそうですね。あなたはまだ一ヶ月もあの世界にいなかったわけですが、元々精神的に成長すればすぐにでも帰す予定だったのですよ。ぶっちゃけて言いますと、こちらとしてはダメ人間が必死にもがいている姿を見ることだけが目的で、それ以外のことに関しては大して興味はありません。このままあなたをあの世界に置いておくと、とんでもないことをやらかしそうな感じですし、このくらいが潮時なんですよ。ちなみに死んでも生き返るボーナスを選ばなければ、死んだ時点で元の世界に戻すつもりでした。ですので、あのボーナスを選んでしまったことで、逆にあなたの滞在時間は不必要に伸びてしまったわけです」


「俺がいなくなったらあの世界はどうなる?」


「お、やっと話す気になりましたか。さあ? 仮にそれを知ったところで二度とあなたはあの世界に戻ることはできないですし、関係ないことじゃないんですか? 例えば自分が死んだあとの世界なんてどうなろうと知ったこっちゃないでしょう。それと一緒です」


「いや、関係ないことはない。触れ合った時間は短くても大切な仲間たちだからな」


「長期間ネットゲームをやって、飽きたから辞めると考えればいいんですよ。引退とか言うんでしたっけ? 芸能人でもスポーツ選手でもないのに妙に仰々しい変な言葉ですが、まあその引退をすることで関係性を完全に断つわけです。あなたもこれまでの人生の中で古い友人との関係を断ち切ったり、逆に断ち切られたりしてきたわけでしょう。時間が経てば今回の経験もすぐに忘れていつもの日常に戻ることができます。それとも、女の子に囲まれてちやほやされていたのが快感で忘れたくないといった感じですか? それなら元の世界に帰らずに、またモンスター狩りと戦争の日々に戻ることもできますよ。それはあなたが選択してください。ですがそちらを選んだ場合、今回のようなチャンスは二度とないと思ってもらって結構です」


「………………」


「本格的に迷っているようですね。一時間だけ考える時間を与えますので、その時間内でどうするのかを決めてください。決まったら私を呼んでください」


「いや、全く迷ってない。お前の話を聞いている途中から俺の腹は決まっている。俺はドラゴたちのいる世界へと帰る。お前が言うように女の子に囲まれて、それが楽しかったというのも否定はしないが、俺はドラゴたちがどうなるのかわからないのに放っておくわけにはいかない。それに主が死んだら召喚獣は死ぬんだろう。あの世界の住人はゲームのデータなんかではなく人も召喚獣も生きている。ゲームなんかと同列に考えることは俺にはできない。せめてあの世界での俺の寿命を全うしてから、俺はあの世界では死ぬことにする。途中で投げ出したりはしない」


「わかりました。どうもあなたの決意は堅いようなので、こちらも四の五の言わずにそうしたいと思います。もしかしたら、私と会うことももうないかもしれませんね。それではグッドラック」




 目を覚ますと俺の体はさっきまで眠っていたベッドの上にあった。両隣にはドラゴとセリアンが寝息を立てて寝ている。俺は二人を起こさないようにゆっくりと起き上がり、体を確認する。今までと変わりない体だ。


 俺が起きたのに気づいたのか、ドラゴが起きあがって俺に話しかける。


「おはようございます。今日はお早いのですね」


「怖い夢を見た」


「どのような夢だったのでしょうか?」


「ドラゴたちと一生会えなくなる夢」


「それは私にとっても恐ろしい夢ですね。ですが夢は夢です」


「そうだな。たかが夢の話だ」


 そう言って俺はドラゴに後ろから抱きつきベッドに倒れ込む。その音でセリアンだけでなく、隣の部屋で寝ていたミレーヌとカザも俺たちの部屋に来て、そして隣の家にいるはずのジェニファーとその召喚獣シャロンもなぜか俺たちのいる寝室にいた。


「なんでお前らまでいるんだ?」


「いや、疲れで死んでないかと思って……ってのは建前でちょっと夜這いに」


「お嬢様、こんな男に近づいてはなりません。孕まされてしまいます」


「ねーよ」


 ジェニファーの召喚獣シャロンはジェニファーを慕ってはいるのだが、それがあまりに行きすぎているため俺を目の敵にしている。そのため、俺との交渉の席には同席させなかったそうだ。もし同席していたら確実に揉めてただろうな。


 見た目は赤い髪で体育会系といった感じの活発そうな女の子である。おそらく赤いドラゴンなのだろう。


 全員集合したところで、せっかくなので全員で食事を摂ることになった。わいわいがやがやとうるさい食事ではあるが、嫌な感じは全くしない。むしろ楽しいくらいだ。


 食事を噛み締め、幸せも噛み締めながら俺の一日は今日も始まる。

最後まで読んでくださった方、本当にありがとうございました。

これでひとまずこのお話は終わりになります。


最後まで書き終えられたのも、多くの皆さんが読んでくださったおかげだと思っています。


ストーリーももちろん大事ですが、キャラの魅力が最も重要だと考えているので、好きになってもらえるようなキャラになっていればいいなと思います。


長々と語りましたが、この話を楽しく読んでくださった方が一人でも多くいれば、私としても嬉しい限りです。

この後書きを含め、ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございました。

それではまた会う日まで。

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