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第四十四話 勝負は一瞬

 遠くから見ると、■●のような形で群れをなして移動をしており、その●の方の中央に偉そうにしているやつがいた。こいつがおそらく大将だろう。


 俺とドラゴが視認できる程度の距離になるとむこうも当然こちらに気づいたらしく、その進行がゆっくりになる。


 俺とドラゴはその瞬間に時魔法のワープを使い敵陣のど真ん中に一瞬で移動した。


 目の前には周りと比べてひときわ目立つ華美な青の鎧で着飾った男がいてそいつに話しかけてみる。


「よう。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」


 相手は相当驚いているようで、周りの兵もかなり動揺している。しかしこちらが二人だとわかると、安心したのか舐め腐った態度をとってきた。


「なんだ貴様らは。我々は貴様のようなやつらに構っている暇はない。さっさと消えるかここで殺されるか選べ」


 その言葉で周りの兵たちも臨戦態勢に入る。


 いきなりワープで特攻するのはちょっと無茶だったかと思ったが、こちらも怯んではいられない。


「あんた、マシュー・ブラウンだよな?」


 ジェニファーから敵の大将の名前は聞いていたので、何のひねりもなく聞いてみる。


「人に名前を聞く時は自分から名乗れと教わらなかったのか? いかにも我はマシュー・ブラウンだが?」


 このやりとりなんかすげーめんどくせーな……。でもまあしょうがない。


 なぜ、こんな無駄なやり取りをしているのかというと、ワープは一度使うと一分以上間隔を空けないともう一度使えないから、こうやって会話をすることで時間稼ぎをするしかないのだ。


 ドラゴに時魔法属性付きのミレーヌ大身槍で移動させてもらってもよかったが、最悪の場合を考えて、ドラゴと一緒に敵陣に切り込みたかったのでワープで移動する方法を選んだ。それに、自分で自分を斬っても武器の魔法属性は発動しないらしい。


「俺は名乗るほどのものじゃないが、ジェニファー・スチュアートの使いの者だ」


 ジェニファーの名前を聞いて明らかに顔色が変わるマシュー・ブラウン。これでいろいろ向こう側から質問してくるだろうと思っていたが、俺の目論見は完全に外れた。


「こいつらを殺せ!」


 マシュー・ブラウンはそう叫び、部下に俺たちを殺すように命令する。普通、使者の話は聞くもんだと思うのだが、俺の話を聞く気は全くないらしい。むしろ俺を殺すことでジェニファーを挑発しようと考えているのだろうか。


 まだワープを使ってから一分も経っていないので作戦を変更する。ちなみに、プランBなんてものはない。


 事前にこの展開をちゃんと予想していたので、ドラゴは俺が合図をするまでもなく、俺を抱えて空へと逃げる。


 高度三千メートルだか四千メートルだかわからないが、敵兵が豆粒くらいに見える高さまで登った時には、ドラゴはいつもの人間の姿ではなく竜の姿へとなっていた。


 巨大な緑色の竜に変身し、姿形は原型をとどめていない。いや、むしろこっちがドラゴの原型か。


 俺はその背中に乗って今度は急降下し、その勢いのまま新しく覚えた魔法をぶっ放す。


 ちょうどこの戦争の準備をしている時にレベル三十となり、基礎魔法と複合魔法のミディアム系列の魔法を全て覚えた。威力は確認済みだ。


 ドラゴは的は大きくなったが人間の姿の時より数倍素早くなっており、高い位置から急降下して、また高い位置へと戻る大戦時のドイツ軍のエースパイロットのような動きをし、俺をサポートしてくれる。ドラゴがスターリングラードの緑薔薇と呼ばれる日もそう遠くはないだろう。本家はソ連軍で白色だけど。


 俺もあえて六種類の基礎魔法と三種類の複合魔法全てを使用し、空中から敵陣に攻撃を仕掛ける。スモール系の魔法とは違い、一発で数十人から数百人を巻き込むような規模の魔法で、遠くから見ても兵たちが大混乱に陥っているのが見えた。


 敵側も対空砲のようなものは用意していたようだが、全くドラゴに当たる気配はなく俺たちは次々に敵兵をなぎ倒していった。


 ただ、魔法もなるべく直撃させず、行く手を阻むような狙いの仕方をしたので敵の下っ端の兵もそこまで死んだりはしてないはずだ。


「ドラゴ、そろそろ終わりにしよう」


 確実に一分以上は経っていることをドラゴに伝えると、敵将のマシュー・ブラウンのところへとドラゴは突っ込んでいく。


 マシュー・ブラウンがワープの射程圏内に入った瞬間にワープを使い、前もって用意していた岩場へと連れていく。周りにいた敵兵も一緒に連れてきてしまったがしょうがないだろう。それに足場が悪いので敵兵もまともに動ける感じではない。


 俺は目の前にいるマシュー・ブラウンに問う。


「降参しておとなしく俺に捕縛されろ。それとも俺たちとまだ戦うか?」


「そのどちらも嫌だな」


 マシュー・ブラウンはそう言って不敵な笑みを浮かべながら、近くにいた鳥人族らしき兵に連れられて空へと逃げようとする。


 こいつの逃げ足が早いのは、鳥人族を使って兵を置いて自分だけでも逃げようとするからだとジェニファーから聞いている。今回もそうするつもりのようだ。


 当然そんな行動は完全に先読みしているわけで、俺はレベル三十になって覚えたもう一つの魔法を使う。


「ストップ!」


 この魔法は体感時間として約十秒間、自分以外のものの時間を止める魔法であり、時魔法に属する。


 要はあの主人公やラスボスが使うアレと同じ系統の時間を止める魔法である。


 時を止め、事前に用意していた鉄製の鎖と首輪と手枷足枷をマシュー・ブラウンとその鳥人族にはめて、こちらへ引き寄せる。この魔法は時を止めている間も普段通りに物理法則は働くようで、そのまま心臓を貫いて殺すこともできるが、今回は捕縛することが目的なのでそれはしない。


 というか、モンスターをあれほど殺してきた俺が言うのもなんだが、さすがに人間を自分の手で殺すのはさすがに抵抗がある。


 捕縛した後はさっきまでいた平原に戻り、俺が捕縛したことを敵兵たちにアピールすると敵兵たちも次々に武器を捨てて降参してきた。


 本来なら全員捕虜にして連れて帰るべきなのだろうが、マシュー・ブラウンを捕縛することだけに頭を使いすぎてそこまで気が回らなかったので、全員徒歩で故郷に帰るように命じた。これだけの人数を運ぶ手段はワープを使っても何回かかかるのでめんどくさいし、わざわざ捕虜にする必要性も感じない。


 これで良かったのかどうかはわからないが戦争は終結し、俺は手土産としてジェニファーの前に捕虜である二人を持っていく。


 途中でその鳥人族がマシュー・ブラウンの召喚獣であり、消えて脱出する騒ぎも起こったが、ドラゴが即実力行使で抑えこんでくれたため事なきを得た。その後、ドラゴがマシュー・ブラウンとその鳥人族の召喚獣に脅し文句のようなことを何か告げていたようだったが俺は聞いていないことにした。


 とりあえず俺の仕事はこれで終わりだし、こいつらをどうするかはジャニファーに一任することにする。


 幼馴染だと言っていたから積もる話もあるだろうしな。情が移ってこいつらを逃がす可能性もあるが、ジェニファーがそうするというのなら仕方がないだろう。

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