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第四十三話 ひとりよがり

「そいつを迎え撃てそうな場所はどこになる?」


「君は幼馴染というところには食いつかないのだな」


「食いついてほしいのか? この都市にいたのにこの都市を攻撃しに来るなんて、よほどの恨みがあるんだろうな」


「あまりにしつこいので手を焼いているのだよ。昔はあんなやつじゃなかったのだが……」


 その幼馴染とやらが男か女かもわからないまま話が進む。


「そいつを殺すのが今回の目的か?」


「できればそうしてほしいが、無理だろう。逃げることに関しては天才的な手腕を発揮する。あと、野戦もかなり得意だな」


「やっぱり知り合いには死んでほしくないのか?」


 ジェニファーの言葉からそう推測する。


「誰がそんなことを言ったかね? 仮に彼を生きたまま捕縛しても、この都市の法律に照らし合わせると死刑だろう」


 この都市には独自の法律なり裁判所なりがあるようだ。あと、例の幼馴染は男ってことも判明した。


「そもそもそいつはなんで寝返ってるんだよ」


「昔、自分に告白してきてそれを断ったら、次の日にはもうこの都市にはいなかった」


「は? 告白って俺と付き合ってください的な意味の?」


「そう、その告白」


 ただの逆恨みじゃねーか! そんなくだらない理由で何千人も巻き込んで戦争をしてやがるとか……。馬鹿に軍隊を率いるほどの権力を持たせるとろくなことがないな。


「この国は馬鹿しかいないのか……」


「古今東西、痴情のもつれが戦争に発展することは多い。馬鹿にはできないさ」


 紅茶に口をつけながら、まるで自分のことでないように話すジェニファー。


 俺はその態度にイラッとする。


「自分のケツは自分で拭きやがれ。俺は他人のケツを拭く趣味はねー」


「他人ではないよ。君は自分の部下だ。君を信頼しているからこんなことをやらせようとしているのだよ。それに少しくらい答えてくれてもいいのではないかね? ちなみにさっきのキスは軍事機関長が、部下を持つなら親愛の証としてそうした方がいいと言っていたのでしてしまった。自分は騙されただけで……、そもそも自分自身、今までそんなことをされたことがなかったのだから疑うべきだったのだが――」


 それは外国人がよくやる、あいさつがわりのほっぺにチュー的な意味の方のキスのことなんじゃ……。


「わかったわかった、自分は誰にでもキスをするようなビッチじゃないって言いたいわけだな」


 ビッチという言葉にミレーヌが少し反応するがスルーする。そういえば、昔そんなやりとりもあったような、なかったような……。いや、なかったな。


「ああ、キスをしたのも君が初めてだ。それでは迎え撃てそうな場所の話題に話を戻すが、あと十日ちょっとでタラシアに着くくらいのペースで敵はこちらに向かっている。ちょうどこちらを三日後に出発してぶつかる場所に広い平原があるので、そこで戦うのといい。こちらの兵は五千人なら出せる。別にお互い殲滅戦を行うわけではないから、なるべく兵を消耗させずに敵を撤退させるのがいいだろう」


 ジェニファーが状況などを詳しく説明してくれたので、俺も俺の意見を言う。


「わかった、その平原とあと足場の悪い岩場のような場所もあったらついでに教えてくれ。それと兵は一人もいらない。俺とドラゴだけで行こうと思う」


 その俺の言葉を受けてミレーヌがここに来て始めて口を挟んでくる。


「あたしたちは行かないでいいわけ?」


「ああ、待機だ」


「それはどういう理由で?」


 ミレーヌの眼光が鋭い。自分らのことをお荷物扱いされてると思っているのだろう。


「今回は俺一人でやろうと思ってるからな。ドラゴにも俺を運んでもらうだけで大したことはさせない」


 ジェニファーが慌てた様子で俺に話しかける。


「ちょっと待ってくれたまえ。一人で大軍に挑むというのはいくら魔導師でも無理がある。君をみすみす死なせるわけにはいかない」


「大丈夫だ。部下を信じるのも上司の仕事の一つだろ。最悪、逃げる方法はちゃんと用意してあるしな」


 俺が自信満々で答えたからか、ジェニファーは不安な顔をしながらも渋々引き下がった。


 これで話が終わるかと思ったら、珍しくセリアンが強い語気で俺に問いかける。


「ひとりよがりが過ぎるんじゃないの? 一人でなんでもしようって心がけは結構だけど、もうちょっと周りを見渡してみたら? 周りを気遣ってそういうことをやってるつもりなのかもしれないけど、自分が自分がなんて考えじゃ、仮に今回うまくいったとしてもいつかは破綻するから」


「いや、そういうつもりじゃ――」


 さらに畳み掛けるようにセリアンは続ける。


「具体的に何をしようとしてるのか、具体的に何を考えてるのか、それを周りに伝えないと周りは不安でしょうがないってのはわかる? 自分の内面を相手に見せるように努力しないと人はついてこないし、相手も内面を見せてくれない。それに、自己犠牲の精神で相手のことだけを思いすぎるのも、自分中心で自分のことだけを考えすぎるのもどっちも良くないことだから。自分も相手もストレスにならず、物事をうまく運ぶためにはそのバランス感覚がとても重要だと思うんだけど」


 たしかにセリアンの言うとおりだ。自己完結しすぎていて、みんなには何も話さない方がいいと勘違いしていたのかもしれない。


「悪かった。今から具体的に話す。説明することをないがしろにしすぎてたかもしれない。そのせいでみんなに不安を与えてたなら謝る。俺に関する重要なこともあるから、ジェニファーもしっかり聞いてくれ」


「では、どうやって一人で戦う気なのかな?」


「まず、ジェニファーは知らないだろうが、俺は全ての種類の魔法が使える。未確認魔法の時魔法もな。その中のワープっていう瞬間移動できる魔法を使って、敵の大将を移動させたあと、そいつを捕縛するつもりだ。ただ、このワープって魔法は使い勝手が悪くてな、多くの人間を巻き込んで移動させてしまう。だから、一度ワープを使って敵兵の意表を突いてから、そのあと敵の大将だけをかっさらうつもりだ」


 ジェニファーは時魔法が使えると聞いた時にはかなり驚いた様子であったが、なにやら考え始めた。


「時魔法が使えるのは驚きだが、そううまくいくかな。単騎で敵陣に切り込むのも難しいし、何より君が時魔法が使えることを多数の人間に知られるのはまずいと自分は思うのだよ。その策では知られた人間全てを殺すことはおそらく不可能だろう」


「知られても構わない。むしろ知られることが今回の目的の一つでもある。タラシア都市に時魔法が使える魔導師がいることが噂になれば、敵方もおいそれと手を出せないだろうし抑止力にもなるだろう。あと、敵陣に切り込むのは時魔法属性を付加した武器か時魔法を使ってどうにかする。簡単に言えば、ワープして敵のど真ん中に現れればいい」


 俺の秘密を他人に知られるのはかなりのリスクを伴うことだろうが、この際手段は選んでられないし、それでこの都市に少しの平和が訪れる可能性があるだけでも有意義な使い方だろう。


「たしかにうまくいきそうな策ではあるな。誰も時魔法が使える魔導師が存在するなんて思ってもいないだろうからね。ただ、新しい策であるからこそ不安はつきない。君がその案を実行するのは勝手だが、自分は君が失敗した時に早く加勢できるように待機しておこうか?」


「もう一つ言い忘れてたことがあったが、俺は召喚獣ではないが殺されても生き返る。もちろんドラゴは召喚獣だから生き返る。最悪の場合をジェニファーが想定するのは勝手だが、それを頭に入れといてくれ」


「わかった。君の武運を祈るとするよ」


 ジェニファーは俺の話を全面的に信じているようだ。ミレーヌのときもそうだったが、人の話を信用しやすい国民性なんだろうか。


「こんな荒唐無稽な話をやけに素直に受け入れるんだな」


「嘘なのか? こんなところで自分に嘘をついても君には何のメリットもないだろう。それに時魔法を使える勇者の話は古くから広く伝わっているのでね。君のような魔導師が幼少のころからの噂も何もなく突然出現したこととも繋がる。平原と岩場の場所だったね。さっそく行くとするか。ちなみに自分の召喚獣もドラゴニュートで、使用できる魔法は水と土と光魔法なのだよ。残念ながら時魔法などは使えないがね」


 最後に、ピンクがかった茶髪をかきあげながらウインクをしてそう言うジェニファー。


 俺に固執していた理由はそれかと少し笑いたくなった。


 運命を感じたとかそんな感じか? この変人にそんな考えがあるのかは怪しいところだが。


 数日後、俺はできるだけの準備を済ませ、例の平原で敵を待ち構えていると、遠くの方にそれらしき軍団が見えた。

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