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第四十一話 決意

 宿屋に戻ると、俺は宿屋の主人にこう告げた。


「ジェニファー・スチュアートに、明日の昼前にお前の家に行くから家で待っとけ、って今すぐ伝えてくれないか? あと、馬車はいらないとも伝えておいてくれ。伝えるのにゴールドがかかるならその分はちゃんと払う」


「わかりました。ソラ・サン様からジェニファー・スチュアート様へ、明日の昼前にスチュアート様の家にお伺いする旨を伝えたいと思います。ゴールドは必要ありません。事前にスチュアート様からもらっていますし、仮にもらっていなくてもスチュアート様のことでゴールドを請求することはないです」


「頼んだ。部屋はいつもの部屋で」


 俺がそう言うと、宿屋の主人が申し訳なさそうに俺に質問してくる。


「あの……、つかぬ事をお伺いしてもよろしいでしょうか?」


「何?」


「サン様はスチュアート様とはどのようなご関係なのでしょうか? いえ、お客様のプライバシーを覗き見したいというわけではなく、スチュアート様はこの都市で二番目に偉いと言われている方で、実質的にはこの都市のトップに立たれていらっしゃる方と言っても過言ではありません」


 明らかにペーペーではないだろうなとは思ってたが、そんな凄いやつだったのか。


「それで?」


「その上、なんと言いますか……、少し変わったところがあるという噂もございまして……」


 やっぱあいつ変人だったんだな。俺の人を見る目もなかなかなようだ。おそらくこの都市の人間から見たら、あいつはどう見ても変人なんだろう。


「大丈夫。この宿屋に迷惑はかけない。明日から俺はこの宿に泊まらないかもしれないが、俺があいつと揉め事を起こして、それがこの宿屋に飛び火するようなことは絶対にない」


「ありがとうございます。このようにスチュアート様がうちの宿に泊まる方と交流を持たれることなど今まで一度もなかったもので、変な勘ぐりをしてしまいました。不快に思われましたら申し訳ありません」


「思ってないよ。むしろ今までありがとう。いい宿だった」


「ありがとうございます。そう言っていただけると、こちらとしても嬉しい限りです」


 いつものように五人で俺らの泊まる部屋に向かっていると、ミレーヌが俺に話しかけてきた。


「ねえ、明日あの人の家に行くってどういうこと? あの人が言ってたように遊びに行くわけじゃないでしょ。あの話を受けるの?」


「部屋でみんなにじっくり話すよ」


「わかった」


 部屋に着くと俺は四人に話し始めた。


「俺は明日ジェニファーの家に行って、ジェニファーの部下になろうと思う。いろいろと引っかかる点はあったが、今日の昼に全て解消された」


 俺の言葉を受けて、不思議そうな顔をしながらミレーヌが聞いてくる。


「今日の昼っていうと、あの魔法属性クリスタルの効果を試した時に?」


「ああ、百パーセントじゃないが、あの瞬間移動を使えば、ほとんど人を殺さないで済むだろうしな。俺の中で一番引っかかってたのは、戦争でむやみやたらに人を殺したくないってところだったんだよ。まあ、俺の命を狙ってくるやつとか、多くの人に不幸をまき散らしてる悪人とかはその限りじゃないが、なるべく無意味な殺生は控えたい」


 四人は無言で俺の話を聞いている。特に異論があるわけではなさそうだ。


 さらに俺は話を続けると、


「仮に戦争に駆り出されたとして、敵の総大将だけ瞬間移動で動かして捕縛すれば、敵部隊は壊滅するだろうし、敵も味方も被害は最小限に抑えられる」


「そんなにうまくいくかしら? 敵だって馬鹿じゃないんだから総大将の周りはちゃんと兵士で固めてるだろうし、ドラゴに空から行かせるにしても、空中対策はしっかりと行ってるはず。それに、総大将だけ倒せば他の兵も降伏するのかしら? まあ、戦争経験があるわけじゃないからそこらへんは詳しくはわからないけど」


 ミレーヌのいうことももっともだが、一応策がないわけではない。


「それはなんとかなる算段はついてる。とにかく、ジェニファーの部下になって戦争に参加する俺の決意は固い」


「別にそこまで言うなら、もう反対はしないけど、なんでそこまでしてあの人の部下になろうとするの? 今までみたいにしてればいいじゃない」


「たしかに、あいつに対してそんな義理も義務もないが、俺の力でこの国の内戦を終わらせることができたらいいなと思っただけだ。深い意味はない」


「あたしを助けた理由と似たような理由ってわけね。自己犠牲の精神は素晴らしいと思うけど、もうちょっと自分本位に考えたら? それに、その大きすぎる正義感が戦争をさらに激化させる可能性もあるのよ」


 呆れながらミレーヌは言う。


 その可能性がないわけでもないが、うまくいけばかなりいい方向に向かうはずだ。俺の力で変わるほど世の中そんなに甘くないのかもしれないが、可能性があるならそこに賭けてみたい。それに、俺だけじゃなく仲間の力も必要だからな。


 そして、俺とミレーヌが舌論を繰り広げていた中にセリアンが割り込んでくる。


「まあいいんじゃないの。条件につられて、のこのことついていってるわけでもないみたいだし。最悪逃げだしゃいいのよ」


 逃げるつもりはないがな。


 ドラゴとカザも話す。


「ご主人様のお考えの全てはわかりかねますが、全てうまくいくことでしょう。むしろ、特別な力をお持ちになっているご主人様にしかなさることができないのだと思われます」


「うまくいくといいですね」


 俺はみんなに明日どうするかを聞く。聞くまでもないだろうが、確認作業みたいなもんだ。


「ああ、明日はみんなで行くか? 馬車はもうたくさんだから、ドラゴに乗って行くつもりだが」


「お運びいたします」


「もちろんよ」


「当然行くつもり」


「ついていきます」


「よし、じゃあ今日はゆっくり休んで明日に備えよう」


 ミレーヌとカザは自分の部屋に戻り、俺とドラゴとセリアンはいつものように風呂に入り、食事をして寝た。


 明日はどうなることやら。


 そのことを考えると不安と興奮でちょっとだけ眠れなかった。

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