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第三十七話 分裂国家と破格の待遇

「では、早速本題に入るが――」


「その前に俺はあんたの素性を知りたいんだが。あんたは俺らのことを知ってるみたいだけど、俺は全くあんたのことを知らない。いきなり知らないやつに呼び出されて、無理矢理連れてこられて緊張するなっていう方が無理な話だ」


「それはたしかにソラ君の言うとおりだね。本題にも関わってくる話なのだけれども、自分はこのタラシア都市で優秀な人材を集める仕事をして、都市長の下で下っ端働きをしている、ジェニファー・スチュアートというものだ。名前の方は手紙でもさっきのあいさつでもしたので、覚えてもらえただろうか。呼び方はジェニファーでも、ジェンでも、スチュアートでもなんでもいい。好きに呼んでくれたまえ」


「じゃあジェニファーで」


「君はこの国やこの都市の現状を知っているのだろうか?」


「いや、全く知らない」


「この国は一応、対外的には首都もあり、一つの国として認知されているのだけれども、実際には都市ごとがそれぞれ独立した国のようなものになっていて、正確には一つの国とは言えない。それに都市同士の内乱も絶えず、都市周辺にある町や村の支配下権争いも熾烈を極めている。最近はまだ穏やかになってきていた方だったのだがね」


 昔の日本とかイタリアみたいな感じに諸国が分裂してて、狭い土地の中で覇権争いをしてる感じなのかな? イメージ的には。


「そりゃ物騒な話だな。で、人材集めってのは?」


「君の噂がロレム町の方から流れてきてね。魔導師と竜人の二人組がいるという噂だよ。魔導師自体かなり珍しいし、竜人もそんなにお目にかかれるものじゃない。そして、その二人がこの都市に向かっているというのを聞いたので、急いで君たちのことを調べたのだよ。多少時間はかかったがね」


 俺たちがこの都市に来て数日しか経っていないんだがな。それに魔導師だけじゃなく、竜人も結構数が少ないのか。何も考えず普通にドラゴに乗って飛び回ってたからなあ俺。普通に失敗した。


「で、俺らのことはどれくらい調べがついてるんだ? どうせ俺をここに呼び出すことが一番の目的だったんだろうから、少しくらい俺らにネタばらししてもいいだろ」


「そうだね。まず、君の名前はソラ・サン。火と土と光の魔法を使える魔導師で、ロレム町近くにあるパルア洞窟最深部でミノタウロスを討伐し、この都市周辺の森でもモンスター狩りを行なっている。今度はケンタウロスでも倒すつもりなのかな?」


 結構詳しいところまで調べられてるんだな。念のためにいろんな種類の魔法を乱発してなくてよかった。時魔法を使えることや、ケンタウロスに殺されたことまでは知られていないのだけが救いか。


「そして、その召喚獣のドラゴ。竜人族で槍の使い手。戦闘能力はかなり高いと聞いている。あと、ロレム町で鍛冶職人をしていたミレーヌとその召喚獣カザ。それにもう一人、獣人族がいると聞いていたが、こちらは銃を武器にしていること以外は何もわかっていない。と、まあこちらが調べたことはこんな感じだよ」


「こそこそと俺たちの内情を嗅ぎまわってたわけか」


「不快に思ったなら謝る。でも、ソラ君に興味を持ったので調べさせてもらったのだよ。愛だと考えてくれてもいい」


「歪んだ愛情だな」


「ふふっ、そのとおりだね。しかし、それだけ魔導師である君を我々が必要としていることの証でもある。おまけに竜人の召喚獣まで持っているとあってはなおさらね」


 今の話を聞いてはっきりとわかったことが二つある。


 一つは、このジェニファーやその上にいる人間はミレーヌたちにはそれほど興味がないということ。


 もう一つは、俺やドラゴの能力だけにしか興味がないこいつには、不快感しか感じないということだ。


「話はそれだけか? いい時間だし、そろそろ俺は帰りたいと思ってるんだが」


「本題はここからだよ。今までの話は前置きでしかない」


 俺の雰囲気を察したのか、ジェニファーが今まで以上に真剣な顔つきになる。


 俺も馬鹿ではないのだから、このあと何を言われるのかはわかっている。どうせ、このタラシア都市のために力を貸してくれないかとかそういう類の話だろう。


 ジェニファーがゆっくりと俺に語りかける。


「ソラ君、君は自分の直属の部下になる気はないかね?」


「は?」


 何言ってんだこいつ。俺がジェニファーの部下?


「先にも話したとおり自分はタラシア都市の都市長の下で人材集めをしている。通常であれば、都市長直属の部下になって一兵卒から下働きをするのが慣例なのだが、自分は君を直属の部下にしたくなったのだよ」


「お前、自分のことを下っ端って言ってたから、そうなれば俺は下っ端の下っ端じゃねーか」


「まあ、そうはいっても自分の給金の中から部下に給金を払える程度の額は貰っているし、今まで直属の部下を持つ意思も機会もなかったのでね。どうせいろいろと融通は効くから、待遇はいいものにしようと思っている。悪い話ではないと思うのだが」


 こいつがどんなやつなのか測りかねるし、部下になったら何をやらされるかわかったものではない。


 ていうか、最初に会った時からびんびんに変人オーラがにじみ出ている。


 俺の危険察知能力がサイレンをあげて警告していた。他人の当たり牌がわかる能力ではないし、血族のものでもないが。


 あと、こいつは自分のことを下っ端とか言っていたが、下っ端がこんな重要そうな仕事をできるわけがないし、自分の給料の中から直属の部下の給料を払ったり、いろいろと融通を効かせることなんてもっとできないだろう。独断で部下を持つことができる権限を与えられてる時点で、それなりの地位の人間なのは間違いない。


 それでも、俺は人の下につくってのはまっぴらごめんだ。俺だけの綺麗な女上司ってのも悪くないシチュエーションだが、それは妄想の世界に限る。


 しかも、こいつの下につくってことは、俺もこのタラシア都市の公僕になるってことで、今までのような自由な生活はできないだろう。


 それに、俺の秘密がこいつに露見するのは確実にやばい。下手すりゃ、一生人体実験の道具になるかもしれん。


「お断りします」


 俺は精一杯馬鹿にした口調でそう言ってやった。さすがに振り付けはしなかったが。


「まあ、最後まで話を聞いてから結論を出してくれてもいいのではないのかな? まず、一軒家を一つ無料で貸し出そう。しかもここの家の隣だ。今日からはお隣さんだな」


「おい、勝手に話を進めるんじゃねーよ」


 俺の言葉を無視してさらに話を進めるジェニファー。


「それに加えて、給金も月五万ゴールド出そうじゃないか」


 現実換算で月収五百万円ってところか。年収六千万円。破格だ。


 この世界の公務員はどうなってやがる。それなりにでかい企業の雇われ社長や、中堅野球選手クラスの年収じゃねーか。


 そして、確実に俺よりも高い給料を貰ってるこいつは、いったいいくら貰ってるんだ。


 それに、家も無料で借りられるってことは、今までのように宿代で悩まされることもない。


 やばい……。銭勘定してると気持ちがぐらついてきた……。


 ジェニファーはまだまだ条件を出してくる。チラッとミレーヌを見ながら、


「さらに、ミレーヌさんの土地にかかる税金を全額免除してあげてもいい。ロレム町はタラシア都市の管轄内だからね」


 ミレーヌの肩がビクッと揺れる。


 ミレーヌまで交渉の材料にするとは……。


「とにかく何を条件に出されても断る。俺は今の生活を気に入ってるからな。面倒ごとには巻き込まれたくない」


「そうか……、残念。自分もさすがにこれ以上は出せない。でも、気が変わったらいつでもここに来てくれていいから。自分が留守の時は家の中で待っててもらってもいい。この家がある区域内に入るには、手紙に同封した小さい紙を入口で提示すれば入れるよ。空から入ってくる場合でもちゃんと提示だけはしてね。いろいろと問題になるから」


 ここは一般人立ち入り禁止の区域なのか? ジェニファーみたいなやつがたくさん住んでる場所だから厳重に警備がされているんだろうか。


「気は変わらねーよ。ただ、この国の現状について教えてもらったことについては感謝してる」


 そう言って立ち去ろうとする俺。


「ふふっ、気が変わることを祈ってる。あの宿屋のスイートルーム、値段の割にいい部屋だから長期滞在にはもってこいだからね。気が変わったら宿屋の主人に伝えてくれてもいい」


「………………」


 俺は大きな不安を抱えつつジェニファーの家を出た。馬車も用意されていたが、それには乗らずドラゴに乗って、五人で森へと向かった。

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