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第三十六話 両手に花

 次の日、いつもどおり遅く起き、朝食を食べ終えてから待っていたが、まだ来ない。


 結局、迎えが来たのは朝の十時すぎであった。


「お待たせいたしました。ではこちらへどうぞ」


 ほんとお待たせさせられたが、迎えに来たのは老年のいかにも執事って感じのおじいさんだったし、文句を言うのもなんか違うだろう。


「俺の他にも四人ほど連れがいるんだが、そいつらも一緒に行っていい?」


「もちろん構いません。外に馬車を用意しておりますので、皆様もそれにお乗りください」


 馬車に乗れるのか。初体験だ。ちょっと楽しみになってきたな。


 外に出ると、大通りに五人は楽に乗れそうなでかい馬車が停めてあった。


 この世界の公僕はいつもこんな贅沢をしてるのかね。それとも俺らが特別待遇なんだろうか。


 六人は軽く乗れそうな馬車に五人で乗り込む。俺は車でもなんでも端の席が好きなのだが、俺を挟むようにしてドラゴとセリアンが、その正面にミレーヌとカザが、という形で座ることになった。


 改めて両手に花というのを実感するのも悪くない。


 修学旅行のバスの席なんて自由席で、俺の隣には誰も座らなかったからな。まあ、一人で快適ではあったが、後ろの方でギャーギャー騒いでるやつらにいろんな意味で殺意が芽生えたのも事実ではある。


 馬がかっぽかっぽ音を鳴らして都市の中を歩いていくのはどことなく風情がある。それに想像していたよりも酷い揺れはなかった。


 しかし、俺は極度の酔い症で、本当は快適なはずの馬車の中でもだんだん気持ち悪くなってきた。


 俺は酒にも酔うし、車にも酔うのだ。この二つは違う種類の酔いらしいが、俺にはそんなことはどうだっていい。


 やばい……吐きそう……。


「ご主人様、大丈夫ですか?」


「何? 馬車の揺れで気分が悪くなったの? 貧弱ね」


 召喚獣二人の対称的な言葉に返答することすらままならない。


 上を向いて少しでも酔わないようにする。この状態で吐いたら吐瀉物が気管に詰まって死にそうだが、そんな馬鹿馬鹿しい死に方は、すでにこの世界で二回も死んでいる俺でもさすがにしたくない。


 馬車の速度が緩まって止まる。どうやら、目的地に着いたようだ。


 と、思ったらまた走り始めた。


 フェイント止めろよ! それが一番精神にくるわ。


 そのあと一時するとまた止まったが、今度は本当に着いたようである。


「皆様、スチュアート様の家に着きました。降りてすぐのドアから中にお入りください」


 ギリギリセーフ。あと五分遅かったら……。


 まだ気分はだいぶ悪いが、言われるがままに馬車を降りて、開いていたドアから家の中に入る。


 外の景色を見る余裕もなかったので、ここがタラシア都市のどこなのかはわからなかったが、周りは木や花で覆われていて、都会の慌ただしさからは隔絶された、閑静な住宅街といった感じの場所であった。


 言われるがまま家の中に入って、玄関を抜け部屋に入ると、広いリビングが俺たちを出迎えてくれた。ちなみに、入る時に靴を脱ぐのか脱がないのかで迷ったけど、脱がずにそのままあがって正解だったようだ。


 玄関ではなく部屋の中にいた、おそらくこの家の主人である女の人が、俺たちに出迎えのあいさつをする。


「我が家へようこそ。自分の名前はジェニファー・スチュアート。本当はこちらから出向いてもよかったのだけれども、わざわざ来てもらえて嬉しいね。馬車は窮屈じゃなかったかい?」


 髪はロングにウエーブがかかっていてピンクがかった茶髪のような感じで、かなり綺麗な女の人であった。


 この人が俺を呼び出したやつか。名前的に女だとは予想していたが、できる女感をひしひしと感じる。


 キャリアウーマンって感じで嫌いではない。いや、むしろ大好物です。


 ただ、胸はドラゴやミレーヌやセリアンよりは小さいかな。それでも標準以上はありそうに見えるけど。


「いや、窮屈じゃなかったけど、あういう乗り物は慣れないから、揺れでちょっと気分が悪くなった」


「ふふっ、じきに慣れるさ。適当に座ってくれたまえ」


 俺らが大人数で押しかけたのにも関わらず、あまり気にしていないようだ。


 6人乗りの馬車を用意していたことといい、俺たちが大勢で来ることも予想済みだったんだろうか。


 ジェニファーは紅茶を人数分出してくれるが、ちょっと警戒してしまう。まあ、失礼になるから軽く口くらいはつける。


 仮に毒を盛られてても、紅茶を飲んでいないドラゴがどうにかしてくれるだろう。


 それにしつこいが、俺は最悪死んでも生き返る。毒殺でも生き返るよな? 青酸カリをぺろっと舐めるような真似は絶対にしないけど。


 ……どうやら、紅茶に即効性の毒は入っていなかったらしい。


 まあ、普通に考えて、そんなことをするなら、あんな手紙をよこして馬車に乗せて自分の家に連れてきたりはしないか。


「それで、用件ってのは?」


「おや、ソラ君はせっかちなのだね。もう少しゆっくり談笑でもしてから話そうかと思ったのだが、そういうのは好みじゃないのかな」


「できれば手短にしてくれ。あまり長い話は好きじゃない。それに、はっきり言って、ここに呼び出された意味も全くわかってないしな」


 まあ、長い話を聞くのがだるくて覚えられないだけなんだが。こんな場所に長居しないに越したことはない。


「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。別に悪い話をしようと思っているのではないからね」


 ジェニファーも紅茶を一口飲んでから言葉を継ぐ。

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