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第三十三話 矛盾を兼ね備えた人間 (第三章完)

 部屋に戻ると、セリアンの姿はなく部屋にドラゴと二人っきりになった。


 俺はベッドに座り、ドラゴも俺の隣に座らせる。


「…………」


 気まずい……。でもここは俺から切りださなきゃいけない場面だろう。


 俺は勇気を振り絞って、今思ってることを全力で伝えることにした。


「俺もドラゴのことが大好きだ! 愛してる!」


 恥ずかしすぎるセリフを、顔を真っ赤にしながら叫んだ。


「ありがとうございます。私もご主人様のことを愛しています」


「そ、そうか」


 あれ? このあとどうすればいいの? 前の時みたいにキスか? それとも押し倒すのか? いや、それは早すぎだろ。まずは三回ほどデートをしてだな……。


 俺が頭の中でぐるぐると考えていると、ドラゴが俺に話しかけてきた。


「私はご主人様を独占したいと心のどこかで思っていたようです。ですから、ご主人様が私と一緒に風呂に入っていただけなかったり、ご主人様がセリアンと一緒に寝たりされたことに嫉妬して、次の日に動きが鈍っていたのをセリアンに見破られたのでしょう」


 そういうことだったのか。あの日はドラゴの疲れをとろうってことしか考えてなかった。


「そして、そのようなことをずっと隠したまま私がご主人様と生活を共にするのは、今後の私たちにとって大きなマイナスであるとセリアンは考えたのだと思います。……私の率直な意見を申し上げてもよろしいでしょうか?」


「ああ、聞きたい」


「私はご主人様のことを愛しています。ご主人様も私のことを愛していると言ってくださいました。通常であれば恋人関係や婚姻関係になるのでしょうが、私の考えは違います。少し前までは、ご主人様と召喚獣の関係なので、そのような考えを持ってはならないと私は考えておりました。ですが、その考えもまた違います」


「じゃあどういう風に考えているんだ?」


「ご主人様は召喚獣を複数持つことができる特別な存在であります。これからご主人様の召喚獣が増えていく中で、私がご主人様の正妻や召喚獣のトップに立っているような振る舞いをしていては、確実にご主人様の召喚獣たちの統率は乱れ、ご主人様に不利益をもたらすことでしょう」


「まあ、もしかしたらそうなるかもしれないな。ただ、ドラゴがいることでまとまることもあるとも思うが」


「召喚獣をまとめるのはご主人様の役割でございます。私はご主人様を愛し、ご主人様に愛されたいと願いながらも、一召喚獣としての立場を超えず、しっかりと自分の役割を果たす所存です。自分の中に矛盾を抱えながら、これからもご主人様にお仕えしたいと思っております」


 自分の心を偽らず、他人に隠さず、そして自己矛盾を抱えながらも生きていくってことか。難しい生き方だろうが、ドラゴにはできるんだろう。


「わかった。ドラゴがそう言うのならそうしたらいいし、間違いはないはずだ。それに、ドラゴの強さの秘訣はそういうところにあるんだろうな」


 例えば、柔軟さと頑固さを兼ね備えた考え方であったり、冷静だが熱い一面も持ち合わせていたり、単純に物事を捉えながらも複雑に解釈できる知能を持っていたり、一人の人間が違う性質のものを同時に兼ね備えることで、人というのは強く賢くなっていくのだろう。


 そういう意味では、強いのに弱い、弱いのに強い、そのような人間は立派な人間だとも言える。


 頭の中で考える分には簡単なことであるが、それを実践するのは並大抵のことではない。


 こと恋愛ごとに関しては、脳が普段と違う状態であるとも言えるので、酷く苦しむこともあるのかもしれない。


 ただ、俺とドラゴ、そしてセリアンやミレーヌ、カザ、今後増えるかもしれない仲間の力を借りながら困難を乗り越えていくことで、だんだんとできるようになっていくはず。


「今日まで苦しい思いをさせて悪かったな。ただ、これだけ吐き出したんだから、明日からは苦しまずに楽しく生きられるはずだ」


 根拠はないが、そう信じたい。


「私はご主人様といられて今までずっと楽しかったです。ですので、もっと楽しくなるのかもしれませんね」


 そう言って、軽く微笑むドラゴ。


 その笑顔を見て、反射的にキスをしてしまった。


 ドラゴは驚いていたようだが、嫌がる素振りは見せない。


 前の時よりも長く情熱的なキスをして離れた。


「……そろそろセリアンを探しに行くか。多分ミレーヌたちのところだろう」


 ミレーヌの部屋に行くとセリアンがいた。


 まだ、ミレーヌたちも寝てはいなかったようだ。


 セリアンが俺たちを見て言う。


「あれ? 早かったね。今日はここに泊まろうと思ってたのに」


「この部屋にはミレーヌとカザ以外が寝るベッドもないのに泊まれないだろうが」


「別に床に寝ればいい」


「とりあえずセリアン、俺の部屋に戻るぞ。ミレーヌ、セリアンが邪魔して悪かったな」


「別に邪魔じゃなかったけど、セリアンが部屋に戻ってちゃんと寝られるなら、それに越したことはないわね。で、話ってのは終わったの? 言いたくないことなら言わなくていいけど」


 そのあと、俺はミレーヌとセリアンとカザにも、俺とドラゴの今後や、さっきの話と似たような話をしたが、反応は三者三様で、それぞれがどう思っているのかはよくわからなかった。


 そして、俺たちは深い眠りにつく。


 次の日も俺たちは絶好調でモンスターを倒していった。特にドラゴはふっきれたようで、今までで一番激しい動きをしていたように思える。


 昨日と同じように稼いで、日が暮れたころに宿屋へ向かうと、宿屋の主人からこう言われた。


「ソラ・サン様にジェニファー・スチュアート様からお手紙が届いております」


「誰それ? 俺に手紙?」


 白い封筒に赤い蝋で判を押されたものを手渡される。


 この手紙が、俺たちの今後の運命を大きく左右するものだとは、この時は微塵も思っていなかった。

ここで第三章は終了です。

重ね重ね、ここまで読んでくださって本当にありがとうございます。


第三章ではソラの新たな召喚獣セリアンが出てきました。

周りの機微に敏感でこれからも物語を動かしていくことでしょう。

毒舌も最初は酷かったですが、作中のようにだんだんと収まってくるはずです。今後も時々出てくるかもしれませんけど。


引き続き第四章も読んでいただけると嬉しいです。

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