第二十七話 食あたり
眠い。でもそろそろ起きる時間だ。ドラゴほどじゃないが、セリアンもなかなか抱き心地がよかった。
すでに二人とも起きているようだ。
「主、起きるの遅すぎ」
「あぁん? 俺は長く寝ないと寝た気にならねーんだよ!」
セリアンがごちゃごちゃ言ってくるので、俺は頭をかきながら怒鳴りつける。何度も言うが、俺の寝起きは相当機嫌が悪い。でもさすがに起きよう。
「そんなに怒鳴らなくたっていいでしょ。それにそろそろミレーヌたちと約束した時間よ」
眠たい目をこすりながら、淡々と出かける準備をする。顔を洗って、髭を剃って、歯を磨いて、やっと目が覚めてきた。それとなぜかよくわからんが腹が痛い……。
するとドラゴがいつもどおりの朝のあいさつをしてくる。
「おはようございます、ご主人様」
「ああ、おはようドラゴ。体調はどうだ? 厳しそうだったら今日は休んでもいいぞ」
「いえ、大丈夫です。全く問題はありません」
ドラゴがそう言うなら大丈夫だろう。一日で疲れがとれてよかった。また、無茶をさせてしまったかもしれないと心配だったが、問題ないようだ。
そして、セリアンも俺に話しかけてくる。
「おはよう主。今日は何するの? モンスターと戦う?」
「セリアンもおはよう。とりあえずミレーヌたちと合流して、まずは買い物をしたい。買いたいものが結構あるからな」
この馬鹿でかい都市に売ってないものはほとんどないだろう。
タラシア都市は港町で、都市の三分の一くらいは海に面している。残りの三分の二を高い城壁が囲んでいて、空か海から大軍が侵入しない限り、都市が攻撃を受けることはなさそうな、かなり堅固なつくりになっている要塞都市であった。
俺たちはドラゴに乗って空からこの都市に入ったわけだが、別に攻撃されることもなく普通に都市の中に入ることができた。
聞くところによると、この都市は空の監視を昼夜問わずしっかり行なっていて、非常時には無差別に攻撃することもあるそうだ。非常時じゃなくて本当によかったと、ほっと胸を撫で下ろす。
ミレーヌたちと合流して、武器屋などが密集している商業地域へ向かった。
ミレーヌも俺と同じで体調が悪そうだ。もしかして、昨日の昼食で食あたりになったのか? 召喚獣の三人はなんともないようだが。
一応宿屋のフロントで商業地域までの道は聞いたのだが、都市が広すぎて道がわからず、商業地域に着くだけでかなり時間がかかるわ、ミレーヌは常にキョロキョロしておのぼりさん丸出しだわで恥ずかしかった。
ただ、広い道で馬車が走ってるのを見た時は俺もちょっと感動したから、あんまり人のことは言えないが。
今までの村や町と違って何軒も店があり、どこに入るかすら迷ってしまう。ただ看板はどこも一緒で、例えば武器屋なら剣の看板で統一されている。
俺たちは剣の看板と鎧の看板が掲げてある店に入ることにした。中に入ると武器も防具も置いてあり、異常なまでに広い。とにかく、まずは銃が置いてある場所へ行く。
すると、セリアンが俺に聞いてきた。
「先に主の武器とかを買わなくていいの?」
「ああ、セリアンの武器を買う方が重要だからな。多分あの銃じゃまともに撃てないだろ」
「まあ、主がそれでいいならうちはいいけど、普通は主の装備を先に買って、余ったゴールドで召喚獣の装備を買うものなんじゃないの」
誰が先にやるとか、そういうので序列を決めたり、遠慮しあったりするのは本当に面倒くさい。
カラオケも人に気を使いながら曲を入れるくらいなら、一人でフリータイムで八時間歌えばいいのだ。終わった時は喉がガラガラで、魚市場のおっさんみたいな声になるけど。
「別に、誰のが先とかどうでもいいだろ。それに、ゴールドは結構あるから心配しないでいいぞ。とりあえず二千ゴールドちょっとで買える武器の中で、一番良さそうなやつを選んでくれ」
俺はドラゴにミレーヌ大身槍を買った時と同じくらいの値段の武器をセリアンに買うことにした。
「そんなにいいの? 昨日もスイートルームに泊まったし、やっぱり主って魔導師だから金持ちなんだね」
別に魔導師だから金持ちってことじゃないだろうが、とにかくセリアンは慎重に銃を選んでいる。
「これで」
『国友筒 千八百ゴールド』
俺は銃に関する知識はほとんどないが、見た目的にも名称的にも火縄銃みたいだな。たしか歴史シミュレーションゲームで聞いたことがあるようなないような気がする。
それにしても予算二千ちょっとって言ったのに、千八百ゴールドの銃を選ぶってのは俺に遠慮してるのかね。それともこれが相当しっくりきたんだろうか。まあ、どっちにしてもセリアンがこれでいいって言うならこれを買おう。あと弾も。
セリアンに防具も買ってやるからと言ったら、一式揃えてたら高くつくから別にいらないと言われた。
万が一、セリアンに死なれると困るんだけどなあ……。いくら召喚獣だから生き返るとはいえ。
「ミレーヌたちは買うものあるか?」
「いや、あたしたちは特にないけど……。それよりめちゃくちゃお腹痛い……」
実は俺も宿屋でトイレには行ったのだがまだ腹が痛い。
ミレーヌはそんな俺よりもだいぶ酷そうに見える。タラシアの商業地域を見てみたいからと無理矢理来たのも仇になったようだ。
「なんか酷そうだから先に宿屋に行って休んどけよ。どうせ今日はもう日暮れまでそんなに時間はないし、きっちり治してから明日か明後日には一緒に近くの森に行こう」
「ごめん……。そうさせてもらうわ……」
そう言って店を出ていくセリアン。
送っていこうか迷ったが、「あんたたちは森に行ってきなさい」的なことを言われたので見送るだけにした。
しかし、あいつってほんとエルフっぽくないよな……。腹痛でとぼとぼと辛そうに歩くエルフとか聞いたことないぞ……。
そのあと俺は、
『ウィザードワンド 千五百ゴールド』
『魔法使いの靴 四百ゴールド』
というのを買って、店をあとにした。詳細はよくわからんが、ウィザードとか魔法使いって名前がついてるくらいなんだから俺にはぴったりなはずだ。




