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第二十四話 ロンギヌス

 町に戻るとまずは武器屋に入った。もちろんセリアンの銃を買うためだ。


 銃のコーナーでいろいろな銃を見てみるが、違いがよくわからない。


 俺がよくやっていたストラテジーゲームでは、マスケット兵とライフル兵が出てきていたが、マスケット兵は(笑)がつくほど弱かった。侍にボコボコにされるレベル。


 そのあと、ちょっと興味を持ってネットで調べてみると、日本の戦国時代に活躍した火縄銃もマスケットの一種である、ってことくらいはわかったがそれ以上のことは覚えていない。


 ここは俺なんかより、よほど知識があるはずのセリアンに任せるのがいいだろう。そういえば、槍選びの時もドラゴに任せてたな俺。


「どれがいい? 今日にはこの町を発って大きい都市に行くつもりだから、いいのがなかったら別にここで無理して買わなくてもいいぞ。都市へはドラゴに乗って移動するしな」


「じゃあとりあえずこれで」


『マドファ 三十ゴールド』


 セリアンが指した銃はかなり安い銃であった。てか、銃じゃなくてただの棒にしか見えない。せめて、こっちにある火縄銃っぽいやつにすればいいのに。よくわからんが遠慮してるのかな?


「めちゃくちゃ安いな」


「タッチホール式だからね。相当使いにくいけど別にそれでいいよ」


 ん? タッチなんだって? まあ、これでいいならこれを買おう。次に行く都市ではもっと高い銃を買ってあげてもいい。おじさん、遠慮しがちなかわいい子にはたくさん貢いじゃうぞー。


 俺の杖も新しいのを買おうかと思ったが、次の都市で買えばいいだろう。


「じゃあ、出るか」


「ちょっと待ってよ。弾の火薬も買ってくれないと一発も撃てないじゃない。買ってよ」


 言われてみればそのとおりだ。


 銃と同じくよくわからないので、銀貨一枚を渡してセリアンに買わせる。何発分買ったのかは知らないが、おつりがいっぱい返ってきた。


 防具屋にも行くが、結局セリアンの下着以外は何も買わずに店を出る。俺も靴くらいは買ってもよかったが、まあいいやって気分になって買わなかった。というか、俺の分だけ買うのはなんかもやもやする。


 約束した時間にはまだ相当早いがミレーヌの家へ向かう。五分前行動が肝心だ。実際は三十分以上前だけどね。


 そういえば五分前行動って、学校でのイベントごとの時には毎回教師に言われてたな。刷り込み効果ってのは怖い。子どもを教育するのが学校で、大人を教育するのが刑務所だ。つまり、学校=刑務所。


 扉が開いていたので勝手に入らせてもらう。一度入ったことがあるし、この家はもう俺の家みたいなもんだ。まあ、それは言いすぎだろうが、別に入っても構わないだろう。


 初めてミレーヌの家に来た時にはちゃんと見ていなかったが、一階の鍛冶場にはいろいろな道具が置いてあって溶鉱炉みたいなものもある。作りかけなのか失敗作なのか、何本か武器らしきものが放置してあった。


 触れてはいけない領域のような雰囲気が漂っていて、置いてあるものを動かさないように歩いていく。


 しかし、主がいない仕事場ってのはこんな風に異様に静かなものなんだろうな。


 そこを通り抜けて、一階とは違い生活感あふれる二階へと上がったが、ミレーヌの姿が見えない。


 あれ? もしかして、今の俺らの状況って傍から見ると泥棒と一緒じゃね?


 勝手に家にあがって……、こっそり二階まで来て……。


 ――ガチャ。


 いきなり扉が開く音が聞こえたと思ったら、一糸まとわぬ産まれたままの姿のミレーヌがそこにはいた。


「きゃああああああああああああ!!!」


 ミレーヌは反射的に俺たちに背中を向けてしゃがみこみ、腕で胸を隠すが完全にこぼれている。


 それに、滑らかな背中と張りのある尻は丸見えだ。


「お嬢様!」


 そう叫びながらカザがどこからかやってきて、俺たちを見つけるとさらにでかい声をあげながら俺に鉄拳制裁を加えようとしてくる。


「ソラ様! 何をしているのですか!」


 その瞬間、俺の後ろにいたはずのドラゴが俺の前に立ってカザのパンチを受け止め、逆にカザを跳ね飛ばす。


「ご主人様、ミレーヌ様がお困りになられているので、少しの間だけ後ろを向いていてください」


 若干だが、ドラゴの語気がいつもより強い気がする。嫌な寒気を感じた俺はその言葉に素直に従った。


 俺が後ろを向くと、セリアンが氷魔法を使えそうなくらい冷ややかな目で俺のことを見ている。何も言わないのが逆に怖い……。


 数分後、服を着たミレーヌが脱衣所らしきところから出てきた。髪はまだ濡れていた。


「それで、なんであんたがここにいるの? 言い訳くらいは聞いてあげる」


 明らかにお怒りモードだが、ここはなんと言えば正解なのだろうか。残念ながら正解らしき解答が全く思い浮かばない。


 テレフォンで友達に意見を聞くこともできない。まあ、元いた世界に友達なんていないから、テレフォンが使えてもテレフォンルームに誰もいないんだが。もちろん応援席にも。


 俺があれこれ無駄なことを考えていると、


「黙秘ね。もしかしてこれからこういうことが定期的に起こるのかしら?」


「い、いや。不可抗力だ」


「事故なら許されるとでも思ってんの?」


「許されると思ってません」


「そもそもあたしに何か言うべきことがあるんじゃないの?」


「すみませんでした」


 ネチネチネチネチと質問攻めをされる。俺が悪いとはいえ、こいつに責められるのは慣れない。


「まあいいわ。もう済んだことだし、寛容な精神で許してあげる。あたしの慈悲深い心に感謝することね」


 一応お咎めなしにしてくれた。ただ、前にそのセリフを吐いたのは俺だったはずだが、なぜか立場が逆転している……。


 俺は気持ちを切り替えてミレーヌたちに今後の話を切り出した。


「俺たちはタラシア都市に向かうつもりだ」


 ドラゴの話によると、ここから一番近くて栄えている都市はタラシアという都市らしい。


 ちなみに、人が住んでいる場所の分け方は村→町→都市→首都となっているそうだ。


 しかも、今から行くタラシア都市は、この国で首都の次に人口が多い都市で、このロレム町よりも格段に大きいとのこと。日本で言ったら大阪みたいな位置づけの都市なんだろう。


「あたし、一度タラシアに行ってみたかったのよね。どんな武器が売ってあるのか楽しみだわ」


「そういえばドラゴ、四人も運べるか?」


「それぞれ手足に捕まっていただくので人数に関しては問題ありません。しかし、落ちる可能性がないわけではないので、もし落ちそうになったら早めに言ってもらえると私も助かります。最悪の場合、加速して載せなおします」


 最初から安全性と危険性を考慮し、話をしてくれているだけでも安心できる。無責任に安全安心を謳って事故を起こしてるどっかの企業も見習ってほしい。


「ところで、普通にこの場に溶け込んでるけど、その女の子は誰?」


 ミレーヌがセリアンを見ながら俺に質問する。


 そういえばバタバタしてて忘れてた。ミレーヌにセリアンのことをなんて言おう。親戚の子とでも言うか? いや、不自然だしいつかはバレるだろう。ここは普通に本当のことを言うのが一番なはず。一応、ミレーヌとは俺に関しての情報を他言しないって約束はしてあるからな。


「俺の二人目の召喚獣だ。名前はセリアン。俺は特例で召喚獣を複数持つことができる。あと、お前には言ってなかったと思うが、俺は十二種類全ての属性の魔法を使うこともできる。当たり前だけど、このことは絶対に他人に言うなよ」


 いいな、絶対だぞ! 絶対に言うなよ! 芸人的な振りじゃないぞ!


「うちはシルバーウルフのセリアン。いろいろあって主の召喚獣になった。よろしく」


 無愛想な自己紹介だが、まあいいだろう。


「いや、こちらこそよろしく。ミレーヌ・スミスよ。こっちはあたしの召喚獣のカザ」


 ミレーヌは口を開けたまま相当驚いた顔をしているが、ワープがアイテムでなく時魔法だということを告げると、完全にではないが信用したようで、召喚獣を複数持つことができることも、同じく心ここにあらずな表情ながら一応納得したようだった。


 とりあえず、そのぽかんと口を開けたままの驚いた表情はもう止めろ。お嫁にいけなくなるぞ。かわいいエルフのお顔が台無しだ。


「それにしても未確認魔法の時魔法まで使える上に、召喚獣もたくさん持てるなんて、そらソラは強いはずだわ」


 今度はうまいこと言ったみたいな顔をしてるが、別にうまくないから。


「俺が強いんじゃなくてドラゴが強いんだけどな」


 俺がそう言いながら、ミレーヌに出された紅茶を飲んでいると、ミレーヌが突然思い出したようにでかい声で話し始める。


「そうだ! ドラちゃんにプレゼントがあるのよ!」


 人の召喚獣をたぬき型ロボットみたいな名前で呼ぶな。


 ミレーヌは一階に降りて何かを探し始める。俺たちもそれに続いて一階に降りた。


 ミレーヌは作業場の隅にあった木でできた縦長い箱を見つけると、その蓋を開けて中から大きな槍を取り出した。


「この槍をドラちゃんにあげる」


 ドラゴがどうしたらいいかと俺の顔をうかがう。


「もらっとけ。良さそうな槍じゃねーか」


「良さそうどころじゃないわよ。爺さんがつくった最高傑作のうちの一つよ。他のは全部国王とか貴族とか商人とかに渡っちゃったけどこれだけは残してたの」


 爺さんとは、すでに故人であるミレーヌの鍛冶の師匠のことだろう。金持ちでエロジジイだったってことしか覚えてないが。


「ありがとうございます。ですが、私にはすでにミレーヌ様がつくられた槍が――」


「そんなのは売るかここに置いていくかすればいいのよ。この槍は長さを二段階に調節できてね、狭い場所でも広い場所でも使えるし、持ち運びにも便利なの」


 高枝切りバサミみたいなもんか? あれのおまけほどいらないものはない。


 ドラゴがその槍を丹念に調べる。


「柄が二本あって、それを筒でつなぎ合わせているようですね。そのようなつくりになっているのに、柄の強度やしなりも全く問題ないようですし、長槍にも短槍にもできて汎用性が高そうに見えます。そして、なんと言っても槍頭の出来が素晴らしいです。こんな素晴らしい槍を私にはもったいないですが、ありがたくちょうだいいたします」


 どうやら凄い槍のようだ。ドラゴが今まで使っていたミレーヌ大身槍は、俺の本の中にしまう。火を噴く槍も一時おあずけだ。


 ミレーヌに本のことを質問されたので、機能だけ簡単に説明してやったが、理解したかどうかは知らない。


 あと、爺さんがつくったその槍の名前はロンギヌスというそうだ。昔あったといわれている聖槍から名前をとったらしい。厨二臭い名前だ。


「よし、じゃあそろそろ行くか」


 そんなこんなで俺たちはタラシア都市へと旅立った。

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