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第二十一話 三度目の夢

登場人物紹介


ソラ・サン : この物語の主人公。死んでも生き返る、魔法を全て使える、召喚獣を複数持てる、という能力を持つ。一人称は俺。


ドラゴ : ソラが最初に見つけた召喚獣。竜人族と呼ばれる人種で、槍での戦闘能力は非常に高い。一人称は私。


ミレーヌ・スミス : 鍛冶職人のエルフ。成り行きでソラたちと一緒に冒険することになった。一人称はあたし。


カザ : ミレーヌの召喚獣。小人族、別称ドワーフ。割と影が薄いが重要な役割を担うことも。一人称はボク。


夢のお姉さん : 夢の中で定期的にソラにちょっかいを出してくる。姿は見えず声だけであり、名前もはっきりしていない。

「おはよ~ござい、ます」


 寝起きドッキリみたいな小声で起こされる。


「ああ、おはよ、ん?」


 さっき起きたばっかりだったのにもう朝かと思ったら、俺はまたあの夢の世界の中にいた。


 今はあいつと喋りたい気分じゃないし眠っておこう。


「寝るなー!」


 おたまで鍋を叩いたような音をガンガン鳴らされる。


「寝るなってここ夢だろ」


「じゃあ、なおさら夢の中で寝るとか不自然でしょうが」


 たしかに一理ある。だが、そんな正論では俺の心は動かされない。


「心の中でかっこいいこと言ってるつもりになってるみたいだけど、結局めんどくさいだけでしょ」


 そうとも言う。


「いやー、今回も大変だったね。ボス自体は大したことなかったみたいだし、死ななかったけど」


「誰のせいで俺がこんな目にあってるのかその胸に聞いてみたいわ。あ、ボスで思い出したけど、獣人の魂って時間が経つと消えちゃうとかはないよな?」


「さあ? それは行ってからのお楽しみということで」


 消えないみたいだな。消えるならおそらくこいつの性格上消えると言うだろう。


「あと、クリスタルについてなんで何も教えなかった? 今までクリスタルのクの字もでてこなかったぞ」


「私は一から十まで教えてやるつもりは全くないから、自分で見つけたことは自分で考えて、理解し、行動しなさい。てかヘルプ読めよ。ったく近ごろの若いやつは説明書も読まないから困る」


 ヘルプに書いてあったのか。今度読んでみよう。今度読んでみようの今度はいつまで経っても来ない法則が適応されるかもしれんが。


「そういえば、最初のころより人とよく接するようになってきて、女の子ともちゃんと話せるようになってきてるじゃない。異世界冒険の賜物ね」


「異世界ってのは自己啓発セミナーかなんかか?」


「ほら、そうやって偉そうな感じになってきたし。でも、女を泣かせるのは感心しないわね。今度はもうちょっと逆ベクトルにコミュニケーション能力を上げたら? 性格悪い男はモテないよ」


「モテないのは余計なお世話だ。それに、俺がお前に対して偉そうなのは元からだろ」


 姿が見えない相手には偉そうになれるのが俺である。ネット弁慶ともいう。ただ、荒らし行為とかはしない。


 それに、ネットを楽しく使うには、反対意見を相手に向かって書かないことである。誰だって自分の意見を批判や否定されるとムカつくし、自分の意見が世界の真理だと思っている人間は多い。俺だってその一人だろう。不毛な言い合いなんてしても、得るものなんて一つもないしな。


「ネット中毒者らしい意見をどうも。でも、もうこの世界にはインターネットなんてものはないんだから忘れたら? それに人間嫌いなのに、インターネット上では他人との交流を求めるなんて矛盾してておかしいと思うんだけど……。まあ、それはどうでもいいか」


 それも俺の中で結論らしきものは出ている。他人と深くは関わりたくないけど、浅くは関わりたいんだろう。ネット上でのつながりなんて、リアルでの顔見知り程度の人間よりも、細い糸でつながってるようなもんだから楽でいい。


「あと、私だけじゃなく、ドラゴやミレーヌにもずいぶん偉そうにしてたじゃないの。カザは影が薄すぎてあなたとほとんど会話してなかったけど。そっちがあなたの本性なのかしらね」


「本当の自分なんてのはないって言ってたのはお前だろ。別にこれが俺の普通だ」


「まあ、少しずつでも変わってきてるってのはいい傾向だから、今後もどんどん変わること。頑固になりすぎると成長も止まっちゃうしね。ただ、一言言っておくと、この調子でいくといつか痛い目を見るよ」


 説教されるのは腹が立つが、たしかにそのとおりかもしれんな。


 それと、こいつは俺の何を見ているんだろうか。俺があたふたする様子を見て楽しんでいるのか、俺が変化していくのをにやにや眺めているのか。だとしたら、なんでわざわざこんなことをするのか、こいつの真意は謎だらけだが、考えたって無駄なんだろう。


 今の俺は檻に囚われた小鳥みたいなもんだ。あるがままを受け入れるしかない。


「そうね。あえて言えばあなたの心を見てるのよ。自分より弱い人間を助けて、悦に入って見下すのはさぞ気持ちがいいんでしょうね」


 たしかにミレーヌにゴールドを渡したのは俺の自己満足だったかもしれないが、別に見下しちゃいない。それにミレーヌは弱い人間ではない。戦闘では俺やドラゴの方が役に立つが、あいつにはあいつの強さがある。


 若干、いや相当やかましいところは直してほしいが、今では大切な仲間の一人だ。もちろんカザも。


「私には苦しい見解にみえるけどまあいいわ。そもそも強さとは何で、弱さとは何なのかしら?」


「肉体的にも精神的にも安定してるやつが強いやつで、そうじゃないやつが弱いやつだろ」


「六十点ってところかしら。及第点ではあるけど、その回答じゃ不十分ね。強くても弱い人間はいくらでもいるし、弱くても強い人間もいくらでもいる。まあこんなことをいくら考えててもお腹は膨れないから、とりあえず、お腹を満たす方法だけ考えて生きてりゃいいんだけど」


「じゃあ、さっさと俺をこの夢から解放しろ」


「もう話すことはなくなったから解放するわ。あなたの言うところの異世界にね。また会いましょう」


 こっちはもう会いたくない。

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