第二十話 仲間を信じるということ (第二章完)
ミレーヌにやった二万ゴールドを差し引いても金は結構貯まったし、またスイートルームに泊まる。ただ、ミノタウロスを倒したことも含め、魔導師だなんだとだいぶ騒ぎになっていたので、明日にはこの町を出よう。
暇だし、道具屋にでも行こうかと考えていると、クエストの報酬で手に入れたあるアイテムのことを思い出した。
「ドラゴ、素材クリスタルって何か知ってる?」
「武器や防具などに特殊な機能を持たせるための素材となっているものでございます。例えば、ご主人様は魔導師でいらっしゃいますので、素材クリスタルに何か魔法属性を注入なされることで、その属性のクリスタルができあがります。その属性クリスタルを武器や防具と融合させると、その武器や防具は属性を得ることができます」
ん? つまりどういうことだってばよ。さっぱりわからんちん。
今の話から推測できたことをとりあえずなんとなく聞いてみる。
「火属性クリスタルをつくって、それを武器に埋め込めば、その武器で殴った時に火属性攻撃が付加されるってこと?」
「そのとおりでございます」
「じゃあ、具体的に火属性の攻撃ってどんな感じになるの?」
「火は水に弱いので、水系モンスターには与えるダメージが少なくなります。逆に火は金に強いので、金系モンスターには与えるダメージが多くなります」
属性の相性でダメージが増減するってことか。
「それ以外は?」
「威力はご主人様のスモールファイヤーほどではありませんが、火によって燃やすこともできます。これにより、やけどを負わせたり、より多くのダメージを与えたりすることが可能です」
属性の相性とは別に追加効果もあるって感じか。
「防具だとその逆と考えればいいのか?」
「防具ですと、例えば、水属性を付加すれば、火属性攻撃を軽減したり、やけどを防いだり、追加ダメージを軽減したりすることになります。ただし、ランクによって程度に違いがでてきます」
「ランク?」
「一種類のクリスタルを一つ融合させるとランク一、二つ融合させるとランク二となり、最終的にはランク十まで上げることが可能です」
つまり、最高のランク十にしたければ、一種類につき十個クリスタルが必要なわけね。
「俺、全種類魔法が使えるし、全属性を武器に付加すれば最強じゃね?」
「仮に、水と金を一つの武器に融合させると、火属性のモンスターを攻撃する際に、互いに相性を打ち消し合い、通常攻撃とほとんど変わらなくなってしまいます。それに加えて、一つの武器に融合できるクリスタルは六種類までと決まっております。また、属性付加以外にも力を高める効果や特殊能力の付加など、多数のクリスタルが存在しておりますので、強くて万能な武器を作るのは難しいかと思われます」
六種類までかー。いろいろと制約が多いんだなあ。それに、特殊能力の付加ってのが気になるな。なんか今までの話を聞いてると、属性付加は性能的に微妙そう。こればっかりは使ってみないとわからないけど。
「埋め込んだクリスタルの付加を消すことってのはできるの?」
「単に消すことはできませんが、上書きで消すことは可能です。六種類の付加が埋まってしまっている武器でも、上書きをすることで別の付加にすることができます。ただし、クリスタルは武器や防具に融合した時点で消滅しますので、上書きで消された分のクリスタルは戻ってきません。」
正直、今まで説明されたことの半分くらいしか覚えてないけど、とりあえず火属性クリスタルをつくって、ドラゴの槍に埋め込んでみるか。だって槍が火を噴くとか、なんかかっこいいじゃん。ものは試しだ。
「とりあえず試しにつくってみたいから、火属性クリスタルのつくり方を教えて。素材クリスタルは持ってる」
「素材クリスタルを両手で持たれてください。そのあと、魔法名は詠唱なされずに、クリスタルに向かって火属性魔法を発動させる意識を持たれれば、火属性クリスタルがつくられるはずです」
む、難しいな。魔法なんて適当に名前を叫んでただけだし……。魔法を発動させる意識、魔法を発動させる意識、魔法を発動させる意識。
ぺかー、とクリスタル周辺に光が出てくる。そして、透明だったクリスタルが赤くなった。色は本の魔法ページ欄の色分けと同じ色っぽい。
「おめでとうございます。それが火属性クリスタルでございます」
できたのはいいんだが、めちゃくちゃMP消費してるんですけど……。こりゃ回復までに相当時間がかかるな。
「これをドラゴの槍に埋め込んでみて。どうやるの?」
「意識を持って、槍とクリスタルを触れ合わせるだけで融合可能となっております。その意識次第で上書きか新規かが分けられます。今回は初めての付加なので新規一択になりますが」
槍とクリスタルが触れ合い、クリスタルがバラバラになり消滅していく。これで火を噴く槍になったらしい。さすがに室内で槍を振り回すわけにもいかないし、モンスターに当たった時に火を噴くらしいので、明日までのお楽しみだ。
お楽しみで思い出したが、ドラゴの翼をマッサージするんだった。
……ふう……。今日もいい喘ぎ声を聞かせてもらいました。余は満足じゃ。これが明日への活力につながる。ドラゴは犠牲になったのだ。
今日はミレーヌに会って、ミノタウロスを倒して、クリスタルのお勉強もして疲れたわい。
夕食と風呂は以下省略。ドラゴの体は相変わらずバインバインでしたまる。
ドラゴを抱きかかえながら寝床につく。おやすみ~。
朝六時ごろ、突然ドアがノックされる。宿屋にはモーニングコールはいらないと伝えているはずだ。この宿屋のセキュリティはどうなってんだ!
俺の眠りを妨げるものはなんぴとたりとも許さん。
俺は無理矢理起こされてイライラしていたので、ベッドに横になったままドラゴに指示を出す。
「宿屋の人間かもしれないから手荒な真似はできるだけするな。もし暗殺者だったら速攻で殺していいぞ」
ドアをノックしてくる暗殺者がいるとは思えないが、半分寝ぼけてたから許してくれ。
ドラゴがドアを開けると、そこにいたのはミレーヌだった。
「ちょっと、いい?」
「あ? なんだこんな時間に」
知らないやつじゃなく顔見知りだったのでまだよかったが、俺の睡眠時間を奪うとはいい度胸だ。もう一度言うが、俺は昔から寝起きは普段の百倍機嫌が悪い。
「やっぱり、このゴールドは返しにきた」
「そのゴールドはお前にやったって言ったろ。さっさと税金払ってこい」
俺がそう言うと、ミレーヌは神妙な面持ちになって、口に金貨をくわえながらつかつかと俺のいるベッドの方まで歩いてくる。
「ご、ご主人様、あ、あたしをす、好きにしてくだちゃい!」
ぶっ! 何を言ってるんだこいつは。早く救急車を呼ばないと。
「こ、これでいいんでしょ!」
声がでかい。いくら最上階のスイートルームだといっても、まだ外は人がまばらな時間だ。
「それと、ソラたちにあたしたちもついていきたいんだけど……だめ?」
「俺たちは明日この町を出るからな。もう一緒にモンスターと戦うのは無理だ」
「そうじゃなくて、別の町に行くのなら、あたしたちも一緒にそこに行きたいって言ってるの」
俺と一緒に冒険したいってことか? こいつの家はどうするんだ? それに、こいつには前に「俺はお忍びでこの町に来ているから云々」と言った気がするが。
「自分勝手な話だとは思うんだけど、今のままじゃ来年の税金は多分払えないと思うの。でも、ソラたちと一緒にモンスターと戦ってたら税金分くらいは稼げるはず。もちろん、ソラたちに甘えるつもりはないわ。ちゃんと自分の分は自分で稼ぐつもり」
だったら一人で冒険してりゃいいだろ、と思ったが言わないでおく。自分より強いやつと一緒に戦った方が効率良く強くなれるってことなんだろう。それに、俺はミレーヌのご主人様になったわけだからな。ミレーヌは召喚獣じゃないけど。
「まあ、いいだろう。俺はお前のご主人様になったわけだから、多少の義務を負うのはしょうがない。ノブレス・オブリュージュってやつだ」
「はあ? あんたを主人にした覚えはないんだけど」
ミレーヌの顔が「何言ってんだこいつ」と言わんばかりの顔になる。
「さっき俺に服従を誓っただろうが」
「あれはあんたがやれって言ったからやっただけよ! そんな意味でやったんじゃないわ!」
さっきの恥ずかしい自分を思い出したせいか、ミレーヌが顔を真っ赤にする。
「俺らと一緒にぶらぶら冒険したいってことでいいんだな?」
「あれ? ソラはなんか勅命を受けていろいろやってるんじゃなかったの?」
「そんなことを言ったような言ってないような気もするが、俺らはただその日暮らしをしているだけだ」
「また、騙したのね!」
「とりあえず、俺らと行動を共にするなら一つだけ約束しろ。俺の全てを他人に口外しないこと。俺が魔導師であることはもちろん、俺の何を見ても絶対に自分の心の中だけに留めておけ。もし、約束を破ったら……」
ちょっと脅しをかけておく。このくらい言っておかないとこいつ喋りそうだし。
「わかった。約束する。家で寝てるカザにも約束させるわ」
口約束がどれだけの効果を持つのかは怪しいが、俺はミレーヌを信用することにした。
さんざん邪険に扱った俺が言うのもなんだが、こいつらを放置しておくと危なっかしくてしょうがない。俺の中の女の子を守ってやりたい願望が少なからず湧いてくる。このままミレーヌたちと別れるのも寂しいとちょっと思ってたしな。ほんのちょっとだけど。
それに、元いた世界で誰も信用できなかったので、この世界では信用できる人間をたくさんつくりたかったのだとも思う。
仲間の作り方ならこの世界で少しは学んできた。もちろんドラゴが一番最初の仲間だ。
今日からはミレーヌとカザも俺の仲間。仲間を信じずに生きていけるはずもない。
人を信じないと、人からは信じてもらえないのは当然のことである。
万が一、裏切られたとしても、それは俺に人を見る目がなかったっていうだけの話だしな。
ミレーヌが部屋を出ていくと、俺は二度寝をする。
二度寝から起きて朝食を食べたあと、暇を持て余していたので、何気なく本を出してみると表紙に驚くべきことが書かれていた。
『ドラゴはミノタウロスを倒した
ミノタウロスの斧とミノタウロスの肉と五千ゴールドと獣人の魂を落とした』
その文字を見て、俺たちは急いでミノタウロスがいたパルア洞窟最深部ヘと向かった。
ここで第二章はおしまいです。
第一章のあとがきと被りますが、ここまで読んでくださって本当にありがとうございます。
主人公もそこそこ強くなってきていますが、それ以上にドラゴも強くなっているため、相変わらずドラゴ無双となっています。
また、ソラの口の悪さ、態度のでかさはかなり酷いものですけど、ドラゴを始め周りの人間に恵まれているため、少しずつですが異世界で脱ぼっち&ハーレム作りができているのではないでしょうか。
最後にはちょっと男らしい部分も見せましたし、ソラも第三章ではもっと丸くなっているといいですね。
また、第二章の最後で少しだけ語られていますが、第三章ではソラの新たな召喚獣が登場します。
少しだけネタバレをすると、巨乳で銃使いです。
第三章も引き続き読んでいただけると嬉しいです。




