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第二話 真のぼっち

 無駄にノリの良いカウントダウンから目が覚めると、たしかに俺は異世界にいた。


 いや、正確には異世界らしき森の中にいた。服はしょぼくれた服を着ていて、靴もはいている。


 この森の雰囲気はアマゾン奥地という感じだ。まあ、アマゾンどころか海外すら行ったことないんだけどね。コノザマになったことならあるが、もう絶対に新作は買わない。


 とかなんとか頭の中で会話しているうちに急激に寂しくなってきた。


 いつも話し相手はいないので普段から脳内会話はしているが、こうも危険そうな場所に一人取り残されるのはまた意味が違う。これが本当のぼっちか……。


 友達や恋人がいない程度でぼっちを名乗るのは甘かった。


 なんだかんだで人がいるだけでも寂しさは紛れるものなのだと、今さら悟ってしまう。


「やべえ……、どうしよう……」


 誰もいない場所で独り言とかもう完全に痛い人である。


「あひゃひゃひゃひゃ」


 モンスターの鳴き声ではない。俺の鳴き声だ。完全に痛い人を通り越してしまっている。今、俺のステータスを見たら確実に『状態:混乱』とか書かれてあるだろう。


 ん? ステータス? そうだあの本を読もう。何か大事なことが書かれているかもしれない。


 俺は左手の親指と中指を素早く二回こすり合わせて本を出してみる。


 四ページ目に良いことが書いてあった。


 『魔法』である。


 本を出した冷静な俺、GJ。自分を自分で褒めてやりたい。他人が褒めてくれないんだから自分で褒めるしかない。


 まだ混乱してるな俺……。とにかく武器がない今、頼れるのは魔法しかない。気をたしかに持たないと。


 一番上にスモールファイヤーと書かれている。とりあえずこの魔法を使ってみよう。


「スモールファイヤーあああああ!」


 と、プロレスラーばりに天に向かって指を指しながら叫ぶと、指先ではなく目の前に火が現れた。


 スモールファイヤーという名前から連想されるものとは違い、人が何人か入りそうなくらい大きな火である。


 魔法を使った後に気づいたが、こんな草木が多い場所で火なんて使ったら確実に火事になる。


 しかし、時すでに遅し。あったか~いというか熱い。キャンプファイヤーみたいになっていた。


 まあ、体育祭や文化祭の後夜祭によくあるキャンプファイヤーなんて、話で聞いたことがあるだけで、実際に見た経験はないんだけどね。あういうのは性に合わないというか、友達も恋人もいないから行きづらいというかなんというか……。


 くだらないことを考えてるうちに火はどんどん草木を燃やしている。止まってくれない。このままでは放火で前科一犯確定である。


 しかし、魔法発動から十秒くらい経つと火は完全に消滅していた。さっきまで勢い良く燃えていた木も燃え跡は残っているが、火自体は消えている。


 この世界の魔法ってそういう仕組なのかな。よくわからない。


 ちなみに地面はペンペン草も生えていない状態であった。比喩表現でなく文字通り何も生えていない。俺の頭皮は絶対にこうはならないはずだ。


 とにかく、この状況を冷静に考察してみる。


 魔法でつくりだした火自体は本物の火と同じ効果を持っている。そのため物を焼くことは可能だし、焼き尽くすこともできる。燃え広がりもする。


 だが、その火は時間が経つと完全に消滅してしまう。燃え広がった分も同じように消えた。


 つまり、この世界の魔法は実際に実物を出すのではなく、一時的に出現→消滅という風な魔法の仕組になっていると推測できた。


 実際に試したわけではないから確実ではないが、他の水/土/風/金/雷/音/氷/毒/光/闇/時の魔法もおそらく同じだろう。時魔法ってのがちょっとよくわからないが、まあいい。


 なんで他の属性をしっかり覚えてるかって? この本に書いてあるからだよ。


 誰かに向かって話しかけてるんだ俺は……。


 また、それとは別に反省すべき点も大いにある。


 不測の事態にあわあわ狼狽えることしかできなかったことだ。


 これがもし、命がかかってる場面であれば俺は死んでいた。死んでも生き返るとはいえ、死ぬのは痛いし怖い。それに死ぬ死なないの問題ではない。


 これからモンスターと戦う上で、不測の事態なんてのは何度でも起こりうるはず。そのたびに肉体的にも精神的にも硬直していては、勝てる戦いにも勝てない。


「よし! 反省終わり!」


 わざわざ口に出してこうでも言わないと、考えすぎな俺はネガティブ思考を止められない。


「そういえばまだあれがあったな」


 魔法の他に召喚獣というのがあったはずだ。


 ページをめくってみると、次のページに『召喚獣』と書かれてあった。


 しかし、書かれているはずの文字が書かれていない。


 召喚獣の名前が一人も書かれていないのだ。


 後ろの方にあるヘルプも読んでみるが、『召喚獣の名前+召喚と唱えてみましょう』と書かれている。召喚獣を召喚するのに召喚獣の名前が必要なのは間違いない。あのお姉さんも、一人につき一人の召喚獣を連れていると言っていた。


 世界が間違っているんであって俺は間違ってない!


 と、声高に叫びたかった。思春期の中学生か。


 なぜ召喚獣の名前が書かれていないのか、謎は深まるばかりだが、現状ではそういうものだと諦めるしかない。


 諦めることに関して俺は天下一だと自負している。得意技は逃げると諦める。勝ちはしないが負けもしない。そういう生き方をしてるから周りに人が寄ってこないんだろうな……。

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