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第十九話 地獄耳

「で、なんでお前はそんなに金が必要なんだ?」


「えっと……、税金を払えなくて……。土地代の五パーセントを毎年収めなきゃいけないんだよね。期限が明後日までで、それを払えないと国に土地を十分の一の値段で強制的に買い取られちゃうから……」


「毎年五パーセントってかなり高いな。単純計算で二十年住んだら土地代と同じ分の税金を払わなきゃいけないってことか。今年の分はいくらなんだ?」


「普通は国が持ってる土地に住まわせてもらうのが一般的だからね。今年の分の税金は二万五千ゴールド……。あ、でも六千ちょっとは貯めてるのよ」


「……つまりお前、今回のミノタウロス討伐クエストの報酬二万ゴールドを全てよこせと?」


 ミレーヌが胸のあたりで両手を横に振って慌てた様子になる。胸もたゆんたゆん揺れていた。


「いや、さすがにそこまで図々しいことは考えてないから! それにあたしたち全く活躍してないし、報酬をもらう理由もない。もう無理だから鍛冶屋をたたんで故郷に帰ろうと思ってるの」


 そのあとミレーヌの話を聞くと、エルフと仲の悪いドワーフの召喚獣であるカザのために故郷を捨てて、この町に流れ着いたこと。

 カザはそのことをずっと気に病んでいたこと。

 この町の爺さん鍛冶職人に弟子入りして鍛冶職人になったこと。

 スミスというファミリーネームは、鍛冶職人に代々伝わる名前だということ。

 その爺さんのセクハラがうざかったこと。

 爺さんがぽっくり逝っちゃって財産を全て引き継いだこと。

 五十万ゴールドの高い土地にかかる税金に悩まされていたこと。


 と、ミレーヌは森に引きこもりがちなはずのエルフにしては、波乱万丈な人生を送っているようだった。


 話を聞き終わったあと、ミレーヌの家の場所を聞いてミレーヌたちとは別れ、まずはクエスト案内所へと向かう。


 係員と一緒に徒歩で洞窟最深部まで行って戻ってくるのは思ったよりも面倒だったが、無事ボスモンスター討伐クエストを達成し、報酬の二万ゴールドを手に入れた。ついでに、モンスタードロップアイテムクエストも何個か達成し、小銭を稼いだ。


 ちなみに、金貨一枚が一万ゴールドであった。銀貨一枚が百ゴールド、銅貨一枚が一ゴールド、と百ごとに硬貨の種類が変わっていくようだ。いろいろと貨幣に対する疑問は残るが、まあわかりやすいからいいだろう。


 俺らは次の目的地へと進む。ミレーヌの家だ。


 家がめちゃくちゃでかいし、場所も町の一番栄えているところでかなりいい立地だった。先代の爺さんとやらはよほど鍛冶の腕が良かったとみえる。


 ミレーヌは俺たちの訪問に驚いた顔をしていたが、喜んで中に入れてくれた。


 一階が鍛冶場で、二階が生活をする場所のようだ。カザは傷を癒すために寝ているらしい。


 一階とは違い生活感あふれる二階へと俺たちは上がり、ミレーヌに出された紅茶を軽くすすると俺は本題に入る。


 ――チャリーン。


 実際は床にはじゅうたんが敷いてあったのでさほど音はなっていないが、金貨二枚を床に投げ捨てて、死ぬほど上から目線で俺はこう言った。


「俺に永遠の服従を誓うなら、その二枚の金貨をお前にくれてやってもいいぞ。そうだな、まず金貨を口に加えて動物のようにこっちに持ってこい。そのあと、ご主人様あたしを好きにしてください、とでも言うんだな。そしたらお前を俺の足で踏んでやる」


「………………」


 あれ? 返事がない。声が遅れて聞こえてくるのかな? それともただのしかばねなのかな?


「そんなことできるかボケええええええええええええ!!!」


 ミレーヌが俺に向かって烈火のごとく怒りだした。


 ドラゴが止めるがミレーヌの怒りは収まらない。頭から湯気が出ていて、ぷんすぷんす、いっているようにも見える。


 俺は投げ捨てた二枚の金貨を床から拾ってテーブルの上に置く。


「冗談だよ、冗談。お前にただで二万ゴールドくれてやる。ミノタウロス戦で全く貢献してなかったわけじゃないしな。まあ、それにしては多いが。俺の慈悲深い心に感謝することだ」


 ミレーヌが正気に戻る。


「え? いや……、こんな大金もらえないわよ。そこまでしてもらう義理もないし……。あたしのことだったら心配しないで。故郷に戻ってもなんとかやっていけるはずだから」


 半ば追い出されたような形で出ていった故郷に戻って歓迎されるわけがない。それは俺にでもわかる。こいつはここで鍛冶職人をやっているのがいちばん幸せなんだ。


 ミレーヌの口ぶりからいっても、明らかに鍛冶職人に未練があるみたいだし、故郷に戻ってもろくな生活ができないのはわかっているはず。


 いちいち押し問答するのもめんどくさいから、この二万ゴールドは有無をいわさず押しつけて帰ろう。


「そういうわけだからじゃあな。もう二度と会うこともないだろう。お前の師匠並とまでは言わんが、もっと鍛冶職人としての腕を磨いて、来年はちゃんと税金を払えるようにしろよ」


 そう言って飲みかけの紅茶を一気に飲み干し、さっさと立ち去る。俺はコーヒーより紅茶派だが、元いた世界のどの紅茶よりも香りがよく、おいしかった。おいしい紅茶の入れ方くらいは聞いてもよかったかな。


「ありがとう……」


 ミレーヌが後ろの方で、蚊の鳴くような声で俺にお礼を言っていたが、ばっちりと聞こえていた。


 別にお礼を言われるようなことじゃない。ただ、俺がそうしたかっただけで、偽善的な行為だとも言える。


 ちなみに、俺は人の話を覚えていないことはよくあるが、基本的には地獄耳なのだ。残念ながらどっかの主人公みたいに難聴ではない。

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