第十七話 口は災いの元
クエスト案内所を出てからは、ドラゴに乗って洞窟を探してもらう。
すぐに見つかった。空から見た感じ、割と広そうだ。
降りて洞窟の入口を探す。地味に広いからどこが入り口なのかを探すだけでも一苦労である。
洞窟の入口らしきでかい穴を見つけたので入ってみる。ここ以外にも入り口があるのかもしれないが、とりあえずここでいいだろう。行き止まりだったら戻ればいい。
「スモールライト」
洞窟の中は暗いのであたりを照らす。しつこいようだが、物が小さくなったりはしない。
まずは、入り口付近にモンスターがいないかドラゴに聞く。
「ドラゴ、モンスターはどこにいる?」
「この近くにたくさんいるようです。八体ですね」
入り口からずいぶんと派手なお出迎えだが、まあ俺とドラゴなら簡単に全部倒せるだろう。最悪、ワープを使えばいい。
それにワープ以外にも新しい魔法を試したかった。前に覚えた魔法だけど、昨日は使う機会がなかったからな。
「今からドラゴに魔法をかける」
「承知いたしました。ですが、どのような魔法でしょうか?」
「スモールアタックパワーライズって魔法だ。これでドラゴの力をさらに上げられる」
Lv十で覚えた火魔法で、十分間攻撃力を上昇させることができるらしい。
「詳しく聞いたことはありませんが、本来その者が持っている力をさらに引き出す魔法があると聞いたことがあります。その魔法でしょうか?」
「まあ、だいたいそんなところだ」
とにかく、この魔法をドラゴにかけてみる。
「スモールアタックパワーライズ!」
「ご主人様。先ほどよりも力がみなぎってくる感じがいたします」
どうやら魔法をかけられた方も、変化を把握できるみたいだな。
「今から似たような魔法を同じようにかけるから、そんな感じで魔法をかけられた感覚をそれぞれ覚えといて」
続けて他の魔法も使ってみる。
「スモールヒットレートライズ!」
「スモールディフェンスパワーライズ!」
「スモールアボイドレートライズ!」
「スモールマジックライズ!」
「スモールスピードライズ!」
それぞれ、水の命中率、土の防御力、風の回避率、金の魔力、雷の素早さ、のステータス上昇魔法だ。
もういっちょ、魔法を唱える。今度はLv十五の時に覚えた魔法。
「スモールヒットポイントライズ!」
「スモールマジックポイントライズ!」
光魔法で最大HP、闇魔法で最大MP、のステータスを上昇させる魔法である。
一回の詠唱で一人にしかかけられないのと、効果時間は十分間だけって制約がいまいちだが、基礎ステータスの一時的な底上げは結構有意義な魔法のはずだ。
俺にも攻撃力と命中率以外のステータス上昇魔法をかける。攻撃力と命中率は魔法攻撃に関係ないみたいだからな。
「ドラゴ、この魔法の効果は十分間だけだ。常にかかってるわけじゃないから気をつけろ」
まあ、ドラゴにとっては言うまでもないことだろうが、一応忠告しておく。
「では、早めに戦闘を終わらせて先を急ぎます。一分一秒が惜しいですので」
「いや、焦るな。焦るといつか足元をすくわれる。あくまでこの魔法は補助だと考えて動け。補助魔法の効果時間に気をとられて、拙速な動きになるのは本末転倒だ。今までどおり普通に戦えばいい」
「承知いたしました。私の浅はかな考えをお許しくださいませ。なんなりと処罰をお申しつけください」
「じゃあ、帰ったら俺の攻撃力を上げて、ドラゴの翼をマッサージな。十分間」
「……やはりあれは罰であったのですね」
ドラゴはちょっと嫌そうな顔をしたが、俺にとってはいい楽しみができた。
俺とドラゴは入り口の八匹を軽く倒して、さらに洞窟の奥へと進んでいく。
洞窟の中は、中学生の時に修学旅行で行った鍾乳洞を、さらに薄気味悪くしたような感じだ。
グループ活動だったはずだが、俺が迷子になったことをクラスメイトに気づかれたのは、クラスメイトが鍾乳洞内での活動を終えて、外で集合していたあとだった。スパイばりに気配を消してたからな俺。気づかれなかったのは俺のスパイとしての素質がかなり高いといえる。でも、俺は敵に捕まったら拷問される前に全ての情報を喋るけど。だって痛いのとか怖いし。
そういえば、この洞窟に来て初めて、ウィークバットとウィークモールを見かけた。
今までのおなじみモンスターもこの洞窟にはいたが、この二種類が出現するのはここだけなのかもしれない。
残念ながら、その二種類のモンスターは部位破壊らしき攻撃を仕掛けても、普通のドロップアイテムしか落とさない。他の一部のモンスターもそうだが、なにか特殊な方法で倒さなければならないのだろうか。
さらに洞窟の先に進むと、森の奥よりもモンスターがうようよといた。
前のことを考えると、ここが引き時かとも思うが、Lvが上がったおかげか、ステータス上昇の魔法をかけているおかげか、武器が変わったおかげか、疲労が溜まっていないおかげかはわからないが、俺たちはほぼ無傷でそこにいたモンスターを倒すことができたので、まだまだ洞窟内を探検してみる。
すると、地下へと続く階段を見つけた。
当然セーブポイントなんてものはない。
ちょっとあの魔法を使ってみよう。
「今からワープという魔法を使う」
「承知いたしました。私は何をすればよろしいのでしょうか?」
「ドラゴがやることは特にない。ただ、事前にワープを使うと言っておきたかっただけだ。いきなり使うとびっくりするだろうしね」
「あの……、ワープとはどのような魔法なのでしょうか?」
「俺も使ったことはないからよくわからないが、移動魔法だよ。じゃあいくぞ。ワープ!」
どうやら魔法が成功したようだ。行き先は洞窟入口。ちゃんと俺もドラゴも着いている。瞬間的に消えるタイプのワープ魔法だったようだ。
魔法に問題はなかったのだが、一つだけ問題があった。洞窟入口にミレーヌたちがいたことだ。あ、ミなんとかたちがいたことだ。
「よう」
「よう、じゃないわよ! ここまで来るのにどれだけ大変だったと思ってるの!」
相変わらず興奮した時の声がでかい。そのでかい乳を後ろから揉みしだいて、もっと興奮させてやろうか。
女とうまく会話はできないが、そういったエロ妄想だけは一流なのである。当然、死んでも口には出せないが。
「そもそもなんでこんなところにいるんだ。そんなにクエスト報酬の金が欲しいのか守銭奴」
「ええ、欲しいわよ。なんか悪い?」
「別に悪くないけど……」
とりあえず、ワープのことはごまかせたようだ。
「ところであんた、急にあたしたちの目の前に現れたけど、一体どういうこと?」
全然ごまかしきれてませんでした。
こうなった時のために、事前に考えておいた嘘をつく。
「アイテムだよ。移動アイテム。もしかして知らないのか? 田舎者め」
「悪かったわね田舎者で。でも、そんなアイテムがあるなら、あたしに一個くらいちょうだい」
「たかりか。高貴なエルフ様も落ちるところまで落ちたもんだな」
侮蔑の表情を送ってみる。てか、これ以上この問答をしてたらかなりまずい気がする。確実に俺の嘘がバレる。
しかし、何か言い返してくるかと思ったら、ミレーヌは黙ったままであった。しかも、今まで見たことがないくらい悲しそうな顔をしている。
女相手にちょっと言いすぎたか。女はそこらへんの距離感がわからん。まあ、男との距離感も全然わからないんだけどね。なんなら動物や植物にも嫌われてるレベル。
「お嬢様……」
ミレーヌの召喚獣のカザも、落ち込んだ顔をしてミレーヌを慰めている。
なんだよ。俺が悪いのかよ。たしかに無遠慮な発言だったかもしれんが、そこまで落ち込むことはないだろ。
「俺たちは洞窟の奥にある階段のところまで行くから」
そう言って、この険悪な雰囲気が漂っている場所から逃げ出す。
その瞬間、肩をつかまれた。デジャヴだ。
「待ちなさい。あたしたちも行くわ」
ミレーヌは普段よりも低い声でそう言って、無言で俺たちについてくる。
謝れば機嫌を直してくれるのか? あーもうよくわからん。誰かこの雰囲気を変える答えをください!
これができたら百万円! 炎のチャレンジャー求む!
洞窟奥にある階段までの道のりはさっきよりも楽だった。おそらく、俺たちがモンスターを結構倒したから、モンスターの数が減っていたんだろう。
階段の前に着く。この階段を降りると、この先はどうなっているんだろうか。まだ洞窟が続くのか、それともボスであるミノタウロスがいるのか。
最初にここに来た時もそうだったが、なんか階段下からの威圧感がものすごい。後者の可能性が高そうだ。
俺はドラゴに重要なことを耳打ちで告げる。ドラゴの体からは水仙の香りと汗が混じった匂いがしていた。
「ドラゴ、もしミノタウロスが現れたら最優先でミレーヌを守るんだ。俺が攻撃されそうになっても守りに来なくていい。あと、ミレーヌほど優先しなくてもいいが、カザも守ってやれ」
これは俺からすると当然の話であった。最悪、俺は死んでも生き返る。ドラゴやカザだって召喚獣なのだから生き返る。だが、ミレーヌは生身の人間だ。死んでしまったら生き返らない。
それに、俺の余計な一言で気分を悪くしたようだから、冷静な判断をできない可能性もある。
一番いいのは全員無傷でミノタウロスを倒すことで、二番目はワープで全員逃げきること。三番目はミレーヌだけでも生き残ることだ。
「ですが、ご主人様に死なれてはご主人様も私も困ります。ご主人様を守りつつ、ミレーヌ様をお守りするという形ではいけませんでしょうか?」
「ダメだ。ミレーヌを守れ。主人命令だ。万が一ミレーヌが死ぬようなことがあれば、俺はお前を一生許さない」
ちょっとキツく言いすぎたかもしれんが、このくらい言っておいた方がいいだろう。人の生死がかかってるからな。
「承知いたしました」




