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第十六話 ワープ

 朝、目が覚めると、ドラゴはすでに起きていて、ミレーヌ大身槍の手入れをしていた。デジャヴである。


 寝起きの俺は普段の百倍くらい機嫌が悪い。完全に目が覚めるまで、目を開けたり閉じたり、寝返りを頻繁にうったりしながら時間を過ごす。


「おはようドラゴ、今何時だ?」


「おはようございますご主人様、八時八分です」


 俺の頭の中で、朝の子供向け番組で流れていた歌というかリズムが流れてきた。


 この世界にも時計はある。十二時間で一周する時計なので、おそらく元の世界と同じく、一日は二十四時間なのだろうと勝手に思っていた。


 そこらへんを確かめるために今さらではあるが聞いてみる。


「ドラゴ、一日って二十四時間で合ってるよな?」


「はい、一日は二十四時間でございます」


 ドラゴの話によると、週や月、年も元の世界と全く同じらしい。週休一日なところと、祝日などは全く違っていたが大した違いではない。


 そもそも俺らみたいな冒険者に、休日や祝日なんてあってないようなものだ。


 朝食を食べ終わると、昨日買った白雪のローブを身にまとい、ロッドを手に持つ。鏡を見ると、立派な魔法使いらしき男が立っていた。馬子にも衣装である。


「ひげ伸びてきたな」


 特に意味もなくぽつりとつぶやく。髭剃りがあるが、刃が剥き出しになっていて、使ってみるのはちょっと怖い。ただ、この世界での生活に慣れるためには、この髭剃りも覚えなくてはいけないだろう。最低限の身だしなみくらいはしなきゃな。髭を生やすのもオシャレなんだろうが、俺には絶望的に似合わない。


 ドラゴも昨日買った防具を身につけ、ミレーヌ大身槍を持って部屋の外に出る。部屋に入る時もそうだったが、この槍、でかすぎて持ち運びにはかなり不便だ。だが、俺の本に入れるために取り上げてしまうのもなんか気が引ける。


 宿屋のカウンターで鍵を返すと、なぜかサインを頼まれた。チェックアウトの確認のサインではなく、芸能人とかがするあのサインである。


 俺は有名人になったらこんなサインを書こうと、日夜一人でサインの練習をしていたので、羽根ペンでさらさらっと羊皮紙らしき紙に書いていく。あの練習が本当に役に立つ日が来るとは思わなかった。やはりなんでもやっておくものだな。


 宿屋を出て町中を歩いていると、なんか妙に注目されてる気がする。周りのひそひそ話に耳をそばだてると「魔導師」とかなんとか言っていた。


 ミレーヌも驚いていた気がするが、魔導師がそんなに珍しいんだろうか。しかし、今日の俺はいかにも魔導師って感じの格好をしているとはいえ、昨日は全く騒がれていなかったのに、今日に限ってこんなに騒がれるのはおかしい。


 俺は屏風に描かれた虎を捕まえる方法を考える時のように思索して、一つの結論に達した。ち~ん。


 ミレーヌが昨日の夜、俺のことを町の人間に吹聴しまくっていたに違いない。


 魔法を使える。特に希少魔法である光魔法を使えることは秘密にしておくべきだった。昨日、ちゃんとドラゴが進言してくれてたのに、ノリや売り言葉に買い言葉で他人に魔法を見せたのが間違いだったのだ。


 口止めもしてなかったし、完全に俺のせいである。面倒なことになる前にこの町から早く出るべきかもしれない。


 すると、張本人であるミレーヌが現れた。


 いや、まだこいつが犯人だと決まったわけじゃないけど、状況証拠的にはほぼ有罪確定。


「おい、ミレーヌ。お前ちょっとこっち来い」


「あら、ソラ。今日は素敵なローブを着てるわね」


「いいから来い!」


「な、なによ!」


 ミレーヌを無理矢理町の外に引っ張り出して問い詰める。


「俺が魔導師だって噂を広めたのはお前だな?」


「別に噂を広めたつもりはないけど、何人かにあんたたちのことを話したわね。あたしのつくった大身槍を持ってる召喚獣の召喚者が魔導師だったのよ! って自慢したわ」


 やっぱりこいつが犯人か。しかもその、俺の友達の友達の遠い親戚が芸能人なんだぜ的な自慢はなんだ。虚しくならないのか。


「町中で俺が魔導師だってことが噂になっててこっちは迷惑してんだよ」


「別に誰に魔導師だと知られようが何の問題もないでしょ。なんか魔導師であることを他人に知られたら困るやましいことでもあるわけ?」


 まあ、魔導師だって知られること自体はそこまでまずくないかもしれんが、変に注目されることで俺のボーナス補正、特に魔法が全て使えることが他人にバレるのは明らかにまずい。


 だが、そんなことをミレーヌに言うわけにもいかないので、適当に話をでっち上げる。


「俺はある任務を負ってお忍びでこの町に来てるんだよ。目立った行動をとるといろいろと支障が出る」


「なるほど。魔導師先生ともなればいろいろと人には言えない事情を抱えてるものなのね。でも、秘密にしろとも言われてなかったんだからしょうがないでしょ。それにもう噂は取り消せないし、沈静化するのを待つしかないわね」


 ですよねー。どう見ても自業自得です。本当にありがとうございました。


 でも、俺が悪いとはいえ、こいつを無罪放免にするわけにはいかない。どんな罰を与えてやろうか。ただ、問題が大きくなるとあれだから、セクハラだけは止めておこう。


「おい、なんでもいいからお前が知ってる情報を俺に教えろ。今日はこれくらいで勘弁してやる」


「相変わらず偉そうなのね。感じ悪い。魔導師ってのはこういう連中ばっかりなのかしら。もう知ってるかもしれないけど、この町の近くには洞窟があるわ。最深部にはめちゃくちゃ強いモンスターがいるって言われてる。そいつを倒すクエストもあるみたい」


 ボスか。俺とドラゴでどうにかなりそうだったら倒しに行っても面白いな。それに俺はちょうどLv二十になって、ある特別な魔法を覚えていた。


『ワープ』


 である。


 時魔法の中で初めて取得した魔法だ。今までスモール○○って魔法を覚えてたから、時魔法もスモールタイムとかだろうと思っていたが、最初に取得したのはこの魔法であった。


 ちなみに、時魔法を覚えたおかげかはわからないが、職業が『伝説の究極魔導師』とかいう厨臭い肩書きになっている。


 さすがに今度ばかりは俺も、真面目に魔法の詳細説明を読んだ。


 まず、消費MPは一。そして、今まで自分が行ったことがある場所なら、どこでもワープができるらしい。それに、ワープできるのは自分を中心とした半径十メートル以内の人か召喚獣だけで、物体は人が触れているか身につけているもの以外はワープできないそうだ。


 つまり、物体だけをワープで飛ばして攻撃に使うことは、できないようになっているみたいである。あと、人と一緒にワープする物体も、地面や大きすぎる建築物や岩などはワープできないらしい。


 いろいろと面倒な制約があるみたいだが、要はワープできるのは人と召喚獣、その装備品とアイテムだけって解釈でいいだろう。


 さらに、モンスターと戦闘中であってもワープできると書いてあるので、戦闘回避にも使える。


 この魔法があれば、もう死ぬことはないはずだ。


 その洞窟のボスモンスターとやらを倒すのが無理だと判断できたら、チラ見して帰ってくればいい。


 新たなるリーグへの移籍を目指していても、契約条件が合わなければ帰ってくればいいのだ。


 あと、まだ使ったことがないのでどのような方法でワープするのかはわからない。瞬間的に消えるのだろうか。それとも穴みたいなものができてそれを通るのだろうか。


「ちょっと! 人がせっかく教えてやったんだから、黙ってないでなんか言いなさいよ!」


「ああ、悪い。ちょっと考えごとをしてた。情報ありがとう。じゃあな」


「また、あたしたちを置いていこうとする気? どうせこの後クエストを受けにいって、洞窟のモンスターを倒しに行く気でしょ。あたしも行くわ」


 相変わらずめんどくさいやつだ。これ以上一緒に行動して、未確認魔法である時魔法のワープまで見られると本格的にまずい。


 ……撒くか。


「ドラゴ! 俺だけを連れて飛べ!」


「承知いたしました」


 ドラゴに乗り、町に入ってクエスト案内所まで行く。下の方ではミレーヌが俺たちを追って走っていた。


 俺がクエスト案内所に入ると、すぐにミレーヌも現れた。さすがにこの距離じゃ撒けないか。まあいい。後ろでギャーギャー騒いでる馬鹿は無視して、窓口のおばさんに話しかける。


「洞窟の最深部にいるモンスターのクエストを受けたいんだが」


「ボスモンスター討伐クエストですね。パルア洞窟でよろしいでしょうか?」


「洞窟の名前は知らんがこの近くにある洞窟だ」


「パルア洞窟ですね。あそこの最深部にはミノタウロスが生息しています。このクエストではそのミノタウロスを倒すとクエスト達成となります。報酬は二万ゴールドです。期限はありません。多くの方が返り討ちにあって死んでいるので気をつけてくださいね」


 俺はクエストを受ける。前のアイテムクエストの時もそうだったが、別に特別な儀式もないし、身分や名前を確認されることもない。


 詳しいことはわからんが、クエスト案内所は依頼者と受注者をつないでいるだけで、誰がクエストを達成したとかには興味がないし、情報としてまとめることもないのだろう。さばききれないほど膨大な数のクエストがあるんだろうしな。


 俺はふと疑問に思ったことを聞いてみる。


「そういえば、どうやってミノタウロスを倒したと証明するんだ?」


「ボスモンスター討伐クエストでは、基本的に状況証拠を提示してもらうことでクエスト達成となります。具体的には、ミノタウロスが落とすミノタウロスの斧とミノタウロスの肉を提示してもらい、その後、係の獣人族の者と一緒に洞窟最深部へ行ってミノタウロスがいないことを確認させてもらいます。確認が済み、係の人間とここまで戻ってくればクエスト達成です」


 なるほど、そうすればたしかに限りなく百パーセントに近い証明になるな。別ルートで斧と肉を事前に用意して嘘をつくこともできるだろうが、見に行った時にちょうどミノタウロスが留守でいませんでした、ってこともまずないんだろう。


 あと、複数人で倒すと報酬でいろいろ揉めそうだが俺には関係ない。


「ありがとう。よくわかった」


 窓口のおばさんにそうお礼を言って外に出ていこうとする。


「ソラ、待ちなさい。ちょっと待ちなさいって!」


 そういえば、なんとかとかいうエルフがいたが無視しよう。名前すら忘れた。たしか、ミなんとかだ。

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