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第十五話 花を摘みに行ってきます

 宿屋の受付のおじさんにスイートルームを頼んで、俺の所持ゴールド全部の銀貨三枚が入った袋を渡す。


 これで俺は素寒貧。宵越しの銭を持たない俺かっこいい。こういう、フーテン野郎みたいな生き方を一度してみたかった。


 生まれも育ちも下町ではないし、悪そなやつは全員他人だが。


 係の人に誘導されて最上階のスイートルームに入ると、かなり綺麗で広い部屋であった。壁と床にはじゅうたんがかけてあって、高そうな絵画や壷も置いてある。窓はガラス窓で鏡も置いてあった。


 ベッドもキングサイズっぽいふかふかしたベッドで、元いた世界の俺の部屋よりも圧倒的に豪華だ。


 食事は運んできてくれるらしい。洗ってほしいものがあれば、そこの木のカゴに入れておいてくださいとも言われた。


 トイレと風呂場もある。


 トイレは底が深く、レバーを引くと下の方で水が流れる音がした。ちょっと違うが、水洗トイレみたいなものなんだろう。また、おしりを拭くためのものなのか、薄い布が何枚も置いてある。


 風呂は石でできた浴槽みたいなものが二つあり、片方が熱湯、片方が水であった。風呂に入るというよりは、その熱湯と水を混ぜ合わせて湯を浴びろという感じだろうか。あと、体を拭くための布と石けんらしきものもある。


 不注意に熱湯を触った時に指先を少しやけどしたが、まあいい。かなり上等な部屋で嬉しい。


 一昨日は教会の使用人の人が、昨日はドラゴが、俺の寝ている間に俺の体を拭いてくれたと後で聞いたが、今日一日の疲れを癒すためにまずは風呂に入る。


 今の俺は完全にスケベじじいであった。


「じゃあドラゴ、とりあえず一緒に風呂に入ろう」


「承知いたしました」


 断られるかと思ったが、ドラゴはあっさりと承諾した。


 俺は小汚い服を脱いで全裸になる。脱いだ小汚い服は全部木のカゴの中に入れておく。ローブはすでに本の中だ。


 チラッとドラゴの方を見てみると、ドラゴも全裸になっていた。「恥ずかしいです……ご主人様……」的なのが見たかったのだが残念。


 ていうか、本当に一緒に風呂に入っていいのか?


 やばい死ぬほどドキドキしてきた……。ぶっ倒れるかも……。


 こんなことを聞いていいのかはわからないが、ちょっとドラゴに聞いてみる。


「ドラゴは俺に裸を見られて恥ずかしくないの?」


「いえ、恥ずかしいですが、風呂場が汚れるとご主人様のお体も汚れてしまいますので。服を着ていた方がよろしかったでしょうか?」


「いや、そのままでいいよ」


 個人的には全裸より着衣の方が好みなのだが、せっかく脱いでくれているのにわざわざ着せるのももったいない。


 なぜ俺が着衣派なのかというと、服はその人間を表す記号の一つであって、その記号を剥ぎとってしまったら、その人間が何者であるかが視覚的に理解できなくなり興奮しにくくなるからだ。


 なんか小難しいことを言っちゃったけど、服を着た人のエロっていいよねってだけです。


 しかし、ドラゴはその俺のこだわりすらも凌駕する存在なのだ。


 MOTTAINAIって海外の偉い人も言ってたしね。もったいないもったいないもったいない……、と心の中でお経のように唱える。俺は無宗教だが、もったいない教は信仰してやってもいい。


 ドラゴが俺の体を洗ってくれるので、俺もドラゴの体を洗おうとしたら、別に嫌がる素振りは見せなかったので、俺もドラゴの体を洗う。


 お互い入念に体を洗い合いっこするが、ボン・キュッ・ボンで肌もすべすべなドラゴの体を布越しに触っているうちに鼻血が出そうになった。


 全体的に柔らかく、一部はもっとふかふかで、この体のどこに、あれだけのパワーを秘めているのだろうか。もっとドラゴの体を洗って、もっと俺の体も洗ってもらおう。研究が必要だ。これは研究である。


 風呂からあがってお互いにすっきりした所で、部屋には食事が二人分届いていた。さらに箱に入れてあった洗濯物もどこかへ持ち去られている。


 ふっふっふ、今日の夜のイベントが風呂イベントだけだと思うなよ。俺はイベントをあと二回残している。


 今日買った下着を身につけ、部屋に元から用意されていた部屋着に着替える。そこまで上等ではないが、バスローブや浴衣みたいなものだ。


 同じく部屋着に着替えたドラゴと一緒に食事をする。ドラゴの部屋着姿はめちゃくちゃ色っぽい。それに、今まで食べた中で一番うまい料理だった。パンや洋食でなくご飯や和食も恋しくなってくるが、それは贅沢ってもんだろう。


 食事が終わって、宿屋の人に皿を引いてもらった後、ドラゴにいろいろと命令する。


「ドラゴ、ちょっとそのテーブルをあっちに動かして、そのあと、あの壷をそこに置いてくれ。あと、あそこに掛けてある絵画もそこに」


 淡々と俺の指示に従って、ドラゴは物を運んでいく。


「ベッドのそばで床に膝をついて。ベッドに手はついていいから」


 不思議がってはいたが、特に嫌がる様子もなくドラゴは俺の指示どおりの体勢になった。


「翼を出してみて。この部屋の広さならギリギリ広げられるはず」


「出しました。ちょっと窮屈ですが。んっ」


 部屋いっぱいにドラゴの翼が広げられ、壁か天井に翼が当たったせいか、ドラゴが少しだけ声をあげる。


「今から俺がドラゴの翼をマッサージしてやる。今日頑張ったドラゴへのご褒美だ」


 ドラゴが驚愕の色を見せる。当然これはドラゴへのご褒美ではなく、俺へのご褒美だ。


「いえ、ご主人様にそんなことをしていただくわけにはまいりません」


 そう言って翼を引っ込めようとするドラゴ。


「問答無用!」


 ドラゴの翼を揉んだりさすったりすると、ドラゴは喘ぎ声を噛み殺していた。


「んっ、んんんっ。あっんっんん」


 その声にならない声が俺の加虐心をさらにかきたてる。


「はぁあああ、んっあっはっ。ごしゅ、じんさま、あんっ。やめて、はっ、くださぁい」


 十分に翼マッサージを楽しんだ後、ドラゴを解放する。


 ドラゴはぐったりとベッドに顔を伏せていて、表情をうかがい知ることはできない。


 一緒に風呂に入ってからの勢いでやっちゃったけど、やりすぎたかな? と、不安になる。


 ドラゴはベッドに伏せたまま、力のない声で俺に話しかけてきた。


「ご主人様、私は翼を触られると弱いので、翼の手入れは私が行います。ご主人様がどうしてもとおっしゃるのであれば別ですが、基本的には私にお任せください」


 よかった。そんなに怒ってないみたいだ。


 本当はもう一つ、ドラゴトイレ我慢イベントを決行しようと思っていたが、さすがに止めた。


 ちなみに、この世界に来てからトイレはほとんど森の中でしている。ドラゴが「花を摘みに行ってきます」と言った時に、勘違いしてそのままの意味で捉えてしまい「俺も行く」と言って、少し不機嫌にさせてしまったこともあった。


 ウォシュレットやトイレットペーパーはないが、部屋に水洗トイレがあるだけでも全然違う。


 ベッドといい、風呂といい、トイレといい、食事といい、洗濯といい、元の世界で当然のように存在していたものが、今もあるのは本当にありがたかった。それだけでもスイートルームに泊まった価値があったというものだ。


 動かした物を元に戻して、ふかふかのベッドにドラゴと一緒に横たわる。


 ドラゴは俺より少し小さい程度なので、すっぽりというわけにはいかないが、俺はドラゴを後ろから抱きかかえながらベッドに寝る。


 ドラゴの髪や体から石けんの香りと水仙の香りが混ざったようないい匂いがする。水仙の花言葉ってなんだっけか。思い出せないがなんとなく気持ちが落ち着く。


 今日はいろいろあったけど、無事に過ごすことができていい一日だったと思う。こういう普通の暮らしがいつまでも続くといいな、と思いながらドラゴを腕に抱いてまぶたを閉じた。

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