第十四話 白雪の魔導師
ロレム町に戻ると、ミレーヌとカザとはすぐに別れた。俺らは夜飯を宿屋で食べるし、あの二人にはまた別のつてがあるのだろう。鍛冶職人だって言ってたから、多分この町に住んでるのかな。
また会いましょうと言われたが、おそらくもう二度と会わないだろう。今日、一緒にモンスター討伐をしたのだって偶然みたいなもんだ。こういうのは一期一会なのが普通である。
クラスの打ち上げに無理矢理行って、会が終わったあとに「またこういうのやろうね」ってリア充っぽい女子が言ってても、再び食事会があった試しはない。俺だけハブられてるのかもしれんが、その可能性は考えないこととする。空気抵抗は考えないこととするのと一緒だ。違うか。
そういえば、宿に行く前にしておきたいことがあった。
ミレーヌがウィークラビットの耳を部位破壊した時に思い出したのだが、クエスト案内所でクエストを消化するのを忘れていた。
一昨日と今日でだいぶアイテムも貯まったので、なんかのクエストは達成できるだろう。
ちなみに、一昨日獲得したアイテムは消えたり半分になったりはしていなかったようだ。
∨マークの看板が目印のクエスト案内所に入って、窓口に座っている適当なおっさんに話しかけてみる。ここに入るのは二回目なのであまり緊張していない。
クエストの仕組はこうだ。
クエストの達成は早い者勝ちとなっていて、通常はクエストを受注してから依頼を達成し報酬を得るのだが、逆に依頼条件を達成したあとに依頼を受けて即座に報酬を貰うこともできる。
なので、アイテム関連のクエストに関しては、通常の売買の逆と考えてもいいだろう。依頼主が欲しい物を提示し、それを受注者が持ってくるという形である。
「クエストを受けたいんだけど、モンスターが落とすアイテムのクエストは今どんなのがある? この周辺に出るモンスターのやつね」
「モンスタードロップアイテムクエストですね。それでしたらたくさんございますが、全て見られますか?」
「じゃあ、まずウィークラットの皮から。二十二個ある」
「一クエスト十個、報酬は一律で五十ゴールドとなっておりますので、二クエスト達成で百ゴールドとなりますが、よろしいでしょうか?」
よくわからんが、それがウィークラットの皮クエストの妥当な値段なんだろう。どうせ無駄に持ってても意味ないしな。
「ああ、それでいい。次はウィークラットの尾だ。これは二十八個持っている」
「ウィークラットの尾は一個単位で依頼が出されておりまして、ただいまのところ三クエストしか依頼がございません。報酬はそれぞれ、百ゴールド/五十ゴールドと薬草十個/素材クリスタル一個、となっております。全て受注なされますか?」
薬草は回復アイテムだろうけど、素材クリスタルってのはなんだろ。クリスタル素材ならクリスタルでできたものってことになるものなんだろうが……。まあいいや。
というか、部位破壊アイテムは一個あたりの報酬は高いけど依頼数がかなり少ないな。部位破壊ばかりするのも考えものか。
「全部」
往年のクイズ番組で点数を賭ける時みたいな言い方になってしまう。俺は漫画家の人より女優の人を応援していた。顔が良くて頭も良い女の人なんて希少価値が高いしね。
え? 歳と番組放送時期が合ってないし、そもそもお前は全体的にネタが古いって? ちっちゃいことは気にするな。これも微妙に古いか。
そのあとも持っているアイテムを全てクエスト報酬に変える。
七百六十ゴールドとアイテム数個。予想よりゴールドは手に入らなかったが、まあいいだろう。まだ部位破壊アイテムが結構残ってるし、いつかは換金できるはずだ。
そういえば、初めてここに来た時にウィークバットと、名前は忘れたがウィークなんちゃらってのが出ると聞いていたが、一度も見かけなかったな。森では出ないモンスターなんだろうか。でも、じゃあどこに出るんだろう。
窓口のおっさんにお礼を言い、クエスト案内所をあとにする。
今の所持金はさっきのクエスト報酬と、モンスターが落としたお金を合わせて、千九百五十ゴールド。
まだ時間はありそうだし、初めてだが防具屋に行ってみるか。
防具屋の看板は鎧であった。
「いらっしゃい」
武器屋と同じような雰囲気だ。盾や鎧、兜などいろいろなものが置かれている。それに普通の服や下着も置いてあった。この世界では服や下着も防具の範疇なのだろうか。
武器の時と同じようにドラゴの防具から見てみる。ドラゴの武器は両手で扱う槍だから盾は必要ない。女にしては身長が高いドラゴに似合いそうな、かわいくてかっこいい服もあるが、戦闘でどのくらい力を発揮するのかは未知数である。かといって、鎧を着せてはドラゴの俊敏さが失われかねない。
結局、よくわからないのでドラゴに一任することにした。
「ドラゴ、ドラゴの防具はどれがいい?」
「背中から翼を出せるような防具がいいですね。例えばこれでしょうか」
そういえば前にそんなことを言ってたな。忘れっぽくて困る。
『皮の鎧 百五十ゴールド』
ちょうど背中は肩甲骨の下あたりまで守られていて、翼を出すのに邪魔にならないつくりになっているようだ。防御力が心配だが、軽いので逆にドラゴにとってはいいのかもしれない。それに安い。
これは決定として、他のはどうしよう。
今、ドラゴはホットパンツっぽいものをはいているが、これは俺の趣味に合っているので変えたくない。変えるとしても似たようなものをはかせるつもりだ。
靴はドラゴの速さを引き出すためにいい物を買ってあげたいな。
『革の靴 八十ゴールド』
これが軽い割に丈夫そうだ。これならサイズもドラゴにぴったりだろう。
次は、兜か。ドラゴの綺麗な緑がかかった黒髪を隠したくはないが、こればっかりはしょうがない。
『フリジア帽 百二十ゴールド』
これなんかはデザイン性もあってなかなかよさそうだな。帽子にどれだけの防御力があるのかはわからんが。
あとは、篭手だ。ドラゴが槍を振る時に邪魔にならなそうなやつがいい。
『革の篭手 百ゴールド』
これでいいだろう。手首の少しと手の甲と指の第二関節までを覆っていて、指の自由は効きそうに見える。
全部買っても四百五十ゴールドだ。残金、千五百ゴールド。十分俺の装備も買える。
やはり、魔導師の防具と言ったらローブだろう。
さっそくローブが置いてあるコーナーへ行くと、真っ先に目に飛び込んできたものがあった。
『白雪のローブ 千ゴールド』
名前的に女物なのかもしれないが、俺の大好きな白系統であり、白い生地を邪魔しないような刺繍が綺麗に施されていてとても魅力的なローブであった。
ちょっとお高いが買えない額ではない。高いだけあって多分効果も高いはず。
即決で買った。これで俺も召喚獣と間違えられることはないだろう。それと、前に宿屋で俺が主でドラゴが召喚獣と見抜かれたのは、俺が自ら進んで宿の値段を聞いたり、泊まる契約を済ませたりしていたからだとドラゴが言っていた。別にあの宿屋のおっさんが凄い目利きだったわけではないらしい。
あと、五十ゴールド使って俺とドラゴの下着を何枚か買う。ちなみに、ドラゴは今まで何もはいていませんでした。
残金、四百五十ゴールド。
杖も欲しいが、宿の値段を先に聞いておかないと野宿になる可能性があるので、先に宿屋へと向かう。
宿は一泊二食付きで『シングルが七十ゴールド、ダブルとツインが百十ゴールド、トリプルが百五十ゴールド、スイートが三百ゴールド』であった。
イニシウム村よりも全体的な値段設定が高い。
「また来ます」
と、言って武器屋へ向かう。杖が置いてあるところへ行くと、俺は迷わず一つの杖を手にとる。
『ロッド 百五十ゴールド』
いわゆる、魔法使いの杖っぽい、太い木でできていて、先端が細く、持つところが曲がって丸くなっている杖である。値段的に大した効果は見込めないだろうが、格好がつくのでこれはこれでいい。
それに、この杖を買ったのにはもう一つ理由がある。
今日はスイートルームに泊まる予定だからだ。
前の村で普通の部屋に泊まったら、次の日は体中が痛くて動けたものではなかった。この町の宿屋は多少マシかも知れないが、それでも一番良い部屋に泊まれるに越したことはない。




