第十話 夢再び
登場人物紹介
ソラ・サン : この物語の主人公。死んでも生き返る、魔法を全て使える、召喚獣を複数持てる、という能力を持つ。一人称は俺。
ドラゴ : ソラが最初に見つけた召喚獣。竜人族と呼ばれる人種で、槍での戦闘能力は非常に高い。一人称は私。
夢のお姉さん : 夢の中で定期的にソラにちょっかいを出してくる。姿は見えず声だけであり、名前もはっきりしていない。
あの後、俺はまた眠ってしまった。すでに丸一日くらい眠っていたのにまだ寝足りなかったようだ。
そういえばこの世界では一ヶ月は何日で一年は何日なんだろうか。日の出と日没がある時点で元いた世界に近い世界なのはおそらく間違いない。
それに、世界がどんな形をしているのかも全くわかっていない。結局わからないことだらけだ。
ふいにどこかで聞き覚えのある声がする。
「それはそうですよ。だってあなたはあの世界に行って、まだ三日しか経っていないんですから。」
俺を異世界に飛ばした張本人の声であった。まあ、このお姉さんの上に黒幕がいて、そいつが張本人な可能性もあるが。
ちなみに、声しか聞こえないが声は超かわいい。
「またお前か。なんの用だ? 元の世界に帰してくれるのか?」
「いやいや、この数日のあなたの言動や思考を観察していまして、区切りが良さそうなので出てきました」
「要はこれからも定期的にお前と会話しなきゃならないと」
「そうなるかもしれませんね」
なんか、初めにこの世界の説明をされた時とは雰囲気が少しだけ違うな。こっちがこいつの素か。
「二重人格者じゃあるまいし、どれが本当の私なんてものはないですよ。二重人格って正式名称は解離性同一性障害というらしいですね。勉強になりました?」
「だから俺の心を読むな。どうでもいい豆知識をどうもありがとう。てか、どうせ何か言いにきたんだろ。早く用件を話せよ」
「初死亡おめでとうございます」
「ぶっ!」
昨日の今日の出来事をいきなり嫌味混じりにいじられて吹いてしまう。
「いつかは死ぬと思っていましたが、こんなに早く死ぬとは思いませんでした。ですが、今回の事件をきっかけに、あなたの精神は成長を遂げるでしょう」
「そりゃどうも」
「お気づきになられているでしょうが、あなたが死んでも召喚獣は死にません」
僕は死にましぇ~んからね。あなたは嫌いですが。
「ですが、ちょっとおかしいとは思いませんでしたか? あなたは自分が死ねば召喚獣も死んでしまうと予測していた」
「でも実際死なないんだろ?」
「ええそうです。ちょっとだけヒントを出しますが、あなたに与えられたボーナス補正には、あの箇条書きで書かれた文章以外に裏ボーナス補正が存在します。例えば、あなたが選ばなかった『勇者である』でしたら、ステータスがかなり高く、強い武器や防具などを所持することになります」
「俺が死んでも召喚獣が死なないのは、俺が死んでも生き返ることの裏ボーナス補正ってことか。俺の得意武器が杖だったのも同じような感じみたいだな。魔法を全種類使える魔法使いが剣を持っててもおかしいしな」
「なかなか察しがいいですね。まあ、もう答えを言ってしまったようなものですが、そこらへんの細かい考察はあなたにお任せします。それに裏ボーナス補正といっても、変な矛盾が起きないようにするためにこんなボーナスもおまけでついてくるよ、って程度の話です」
キャラメルにおもちゃがついてくるみたいなものか。
「あれはおもちゃが本体でキャラメルがおまけですけどね。もっと言うと、シールが本体でウエハースがおまけでもあります」
やっぱこのお姉さんお喋り大好きだな。まあ、女はみんなお喋り好きか。
「女を知らないのにしったかして虚しくないんですか?」
どどどど童貞ちゃうわ! いや、童貞だけどさ……。
「そんなだから、あのドラゴとかいう召喚獣を奴隷のように扱って傷つけてしまうんですよ」
「………………」
……俺は何も言い返せなかった。貧乏ゆすりだけでなく、手まで震えてきて、頭もぐるぐるしてくる。
声だけのお姉さんはさらに言葉を継ぐ。
「でも、あなたは何度でも死ねるんですから、これから頑張ればいいんじゃないですか。たしか初めに言ってましたよね? 俺は何度も死んで学ぶんだーって」
「そうだな。だけど俺はもう死なない。そうやって生きると決めたから」
自然と体の震えも止まった。
「完全に死亡フラグビンビンのセリフですね。あーくさいくさい。これでもう私の話はおしまいです。もう一度言いますが、あなたはまだ三日間しかこの世界にいません。これから目を覚ますと四日目です。そのことをゆめゆめお忘れなきよう。夢だけに」
うまくねーよ。
それにわかってる。俺は圧倒的に経験が足りないって言いたいんだろ。




