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第一話 二十歳が見る夢

 今日は成人の日。二十歳である俺は、市が用意した成人式会場へと向かわなければならない。


 だが、行くのがだるくて家で昼寝をしてしまった。


 べ、別に友達がいないから行かないわけじゃないんだからね! 勘違いしないでよね!


 突然何者かに呼ばれる声がした。


「あなたにはこれからある世界で冒険をしてもらいます」


「へ?」


 突然すぎて間の抜けた声で返答してしまう。


「ですから! あなたにはこれからある世界で冒険をしてもらいます!」


「いや、何を言ってるのかさっぱりわからないんだけど」


 俺の疑問を完全に無視して、かわいい声のお姉さんは話を続けた。


 そもそもこれは夢だろう。俺、寝てたはずだし。


「これからあなたが行く世界はあなたが今まで住んでいた世界とは全く異なる世界です。ちなみにこれは夢です」


 夢なんだ。ならどうでもいいや。


「しかし、これから飛ばされる世界で何十年と生きた後にこの夢は覚めます」


「どういうこと? 何十年も俺は目覚めないわけ? 俺の体はどうなるの?」


「質問が多いですね。安心してください。あちらの世界の十年はあなたが今いる世界の一時間になりますので、どれだけ長く生きてもこちらの世界では十時間くらいでしょう」


 なんかイライラしてるし、このお姉さん……。てか昼寝の十時間って結構長いような……。そもそも、しょっぱなから夢オチ宣言って常識的に考えてどうなの……。確実に大先生に怒られるよ。


「イライラなんてしてませんし、昼寝が多少長くなるのは仕方ありません。それに夢は本当のことなので」


「俺の思考を読んで話をするな」


「勝手にあなたの心の声が聞こえてきちゃいますから。では話を続けますよ」


 勝手に聞こえてきちゃうのなら仕方ないな……。ってなるか!


 俺の拙いノリツッコミにツッコむこともせず、あちらの世界とやらの話になる。


「あなたの世界にあるRPGやMMOのような世界に行ってもらうことになります」


 RPGとかMMOとか、ゲームのやりすぎですよお姉さん。もしくはファンタジーもののラノベの読みすぎ。


「そこには剣や魔法があり、人間以外のいろんな種族やモンスターも存在します。それらの詳しい説明はヘルプをご利用ください。ヘルプのご利用方法は、まず左手の親指と中指を素早く二回こすることです」


 言われた動作をやってみる。すると瞬間的に少し古ぼけた分厚いハードカバーの本が左手の近くに出てきた。


 突然出てきたのでその本を落としそうになるが、なんとかキャッチして読んでみる。


「その本の最後の方がヘルプとなっております」


 一ページ目にはステータスらしきものが書かれていて、その次のページをめくると装備品と書かれている。


 さらにその隣のページにはアイテム欄とも書かれていた。


 一向にヘルプが見つからないので最後の方を見てみると、解説書らしき文字が並んでいる。


 が、めんどくさいので読みたくない。


「本を消す時も同じ動作をすれば消えます」


 左手の親指と中指を素早く二回こすってみる。すると、たしかに本が消えた。


「魔法ってどんなのがあるの?」


 この異常な状態を受け入れつつあり、普通に質問とかしちゃう自分がちょっと怖い。


「魔法の種類は火/水/土/風/金/雷/音/氷/毒/光/闇/時の十二種類で、発動条件はその魔法を取得してから魔法名を唱えることですね」


「結構あるんだな」


 十二種類あるってのは覚えたけど、個別の種類についてはほとんど覚えきれなかった。火、水までは覚えてる。俺の記憶力は会話限定で半端無く悪いのだ。人の話をちゃんと聞いてないともいう。


「また、魔法とは異なりますが、召喚獣が使えます」


「おお、召喚獣。なんかかっこよさそう」


「召喚獣といっても見た目自体は人間や他の種族と変わらず、外見だけでは見分けがつきません。普通の人と異なるのは召喚者が消したり出したりできることと、死んでも時間が経てば復活できるところ。あとは、召喚者が死ぬと召喚獣も死ぬ点です。また、一般的には一人一匹だけ召喚獣を持っており、召喚獣はその人物の分身と言っても過言ではないでしょう」


 このお姉さん、お喋り大好きだな。何でも聞いてみよう。


「一般的にはってことはたくさん持つことができる人もいるの?」


「私はお喋りではありませんが、特別に話してあげます。というか、この後あなたが選ばれるボーナス補正にも関わってくる話ですので、話さなければなりません。ボーナス補正は、


『死んでも生き返ることができる

レベルが上がりやすい

幸運に恵まれている

全ての魔法属性が使用可能

全ての武器が扱える

全ての種族の混血である

全ての職業になることができる

複数の召喚獣を持つことができる

勇者である

国王である』


の中から三つを選ぶことができます」


 全部ボーナス補正かと思ったのに、この中から三つだけかよ……。


 しかも途中を聞き逃しちゃって、最初の方と最後の方しか覚えてないし……。


「それは大丈夫です。もう一度あの本を出してください。それの表紙に今述べたボーナス補正が箇条書きで書いてあります。では、ボーナス補正の選択が決まりましたらお呼びください」


 もう一度親指と中指を素早く二回こすって本を出してみると、さっきは書かれていなかった文字が本の表紙に書かれていた。


 にーしーろっぱーじゅう。十個の中から三つを選ばなくてはならない。どれも魅力的でなかなか難しい。


 しかし、一人ファミレスで鍛えあげられた俺の決断力が発揮される。


「もう決まった」


「早いですね。ではどれを選びますか?」


「死んでも生き返ることができる。全ての魔法属性が使用可能。複数の召喚獣を持つことができる。この三つだ」


 まず、一つ目の『死んでも生き返る』は当然の選択だった。


 死んでしまってはなんの意味もない。死んで元の世界に戻れる保証はどこにもない。いやむしろボーナス補正を裏読みすると、死がメリットになる可能性はかなり薄い。


 人は死んで学ぶのだ。そうやって俺はゲームで何度も死んで学んできた。もし俺をどこかで監視して楽しんでるやつがいたら、さぞ残念だろうな。ざまあ。


 次の『全ての魔法属性が使用可能』もかなり魅力的である。


 魔法を何種類も使うことができるのはかなり強いはずだ。


 それに、もしレア魔法が使えるとなれば、日の本一の魔法使いになることだって不可能ではない。魔法って時点でこれから行くところは明らかに日本じゃないだろうが。


 そして、最後に選んだ『複数の召喚獣を持つことができる』は最高だ。


 友達を百人つくる俺の長年の野望が果たされる。


 というのはまあ冗談だが、実際百人でも一万人でも仲間を増やして大軍隊をつくり強大な力を手に入れることだってできる。


 さっきのお姉さんの話から推測すると、俺だけが召喚獣を複数持つことになるのかもしれないし、これほど大きなアドバンテージはない。


 そもそも勇者や国王になっても、中身が伴っていなければなんにもならないどころか、石を投げられることだってありうるからな。逆に力さえ手に入れれば勇者にだって国王にだってなるのは簡単なはずだ。


「わかりました。では準備はよろしいですね。ちゃんとヘルプを読みましたね。読んでなくてももう知りません。あなたが異世界でどう過ごされるかは自由です。頑張ってください。では、最後はカウントダウンで締めます。スリー! ツー! ワン! ゴー!」

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