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■第72話 西のトンネル掘削編 謎めくマダムと黒スーツの男たち

喫茶店のマダムが突然の訪問。

しかし彼女の正体は想像以上に謎に満ちていた。

黒スーツの護衛たちが日常に加わり、また新しい風が吹き始める。


■ 異変の始まり

師匠の家の前に、艶やかな黒塗りの高級車が音もなく停まった。朝の巡回から戻る途中だった30センチのさくやは、その異様な光景に足を止める。

「なんや、あれ……」

思わず声が漏れ、好奇心に突き動かされてぺたぺたと駆け寄る。車から降り立ったのは、黒いスーツに身を包んだ大柄な男性。無言で後部座席のドアを開ける。

そこから現れたのは——あの喫茶店のマダムだった。

いつもの優雅で夢見るような雰囲気とは明らかに違う、凛とした存在感を放っている。さくやは小さな身体を震わせながら、その変化を見つめていた。


■ 豹変した印象

いつもはアンニュイな笑みで、夢見るような雰囲気を漂わせる彼女。しかし、今日の姿は明らかに違っていた。

高いヒール、ひらりとした白いコート。その立ち姿には、気品というより——"重み"が感じられた。まるで別人のように。さくやは息を呑む。

「これが……あの喫茶店のマダム?」

普段カウンターで穏やかにコーヒーを淹れている姿からは想像もできない、威厳に満ちた雰囲気。まるで重要な会議に向かうビジネスリーダーのような風格があった。


■ 緊張の応接

応接室には既に、マダムと護衛らしき黒スーツの男性が待機している。師匠が珍しく階段を急ぎ足で降りてきた。さくやは、その様子に少し驚く。いつも落ち着いている師匠が、こんなに慌てることなんて——

「今日は視察に来たの」

マダムは穏やかな声で告げる。でも、その声には普段の喫茶店では聞いたことのない、静かな威厳があった。

「お待ちしていました。作業着はどうしますか?」

「とりあえずこのままでいいわ」

師匠はそのまま、マダムとSPらしき二人を連れて湖方面へと出発する。新しく改良された大型トレーラーは、荷台にクッションシートが敷かれ、人も座れる設計だ。

さくやは背筋を伸ばし、見送りながら思った。

「なんか……今日は、すごいことが起こってる気がする」

小さな身体でも感じ取れる、ただならぬ雰囲気。きっと重要な視察なのだろう。


■ 満足の帰還

半日後、師匠たちは無事に帰還した。マダムの表情は満足げで、頬がほんのり紅潮し、目尻はやわらかく下がっている。

「とても良かった。感動したわ」

「あなたに賭けると決めたのは、やっぱり正解だった」

そして、少し照れたように付け加える。

「空いてるスペースに、私たちの家も作ってくれる?手が空いたらでいいから」

師匠は微笑み、静かにうなずいた。その瞬間、さくやは理解した。マダムは単なる喫茶店の経営者ではない。もっと大きな存在なのだ。


■ 真実への推測

その夜、オフィスの一角でOLがポツリと推測する。

「マダム、喫茶店の経営は趣味でしょうね。たぶんこの土地の大地主。重機開発にも出資してるかも」

爆音社長はマグカップを傾け、「へー……」と感心したような一言。

さくやは指を天に掲げ、興奮して叫ぶ。

「きっとこの街の裏ボスやーっ!」

みんなが苦笑いする中、さくやだけは得意げだった。30センチの身体で精一杯の推理を披露している姿が愛らしい。


■ 新しい日常の始まり

以後、マダム本人の姿はあまり見えなくなったが、黒スーツの男たちは時折現れるようになった。最初はその存在感に戸惑ったさくやたちも、すぐに慣れた。

彼らは思っていた以上に——優秀だった。

さくやの中の忍者部隊が得意の偵察に出ても、即座に捕まってしまう。

「え?バレた?なんで!?」

「まさか、逆に捕まるとは……」

忍者部隊は敗北感をにじませて戻るが、黒スーツの男たちは捕らえられた30センチの忍者たちに穏やかに微笑み、手ほどきまでしてくれる。

「君たち、基本はできてるね」

「でも、気配を消すにはまだコツがあるんだ」

武術の心得があるらしく、今では忍者部隊の師範のような存在になっていた。


■ 意外な一面

さくやたちも交代で、その稽古に混じるようになった。30センチの身体で一生懸命に構えを取る姿に、黒スーツの男たちも優しく微笑む。

「そうそう、重心はもう少し下に」

「小さいからこそ、素早く動けるはずだよ」

大きな手で、30センチのさくやの姿勢を丁寧に直してくれる。その優しさに、さくやたちの心も温かくなった。

ある晩、稽古の後でスーツの男がぽつりとつぶやいた。

「高地のジャングルに、行ってみたいなあ……」

その表情は、まるで少年のように好奇心に満ちていた。

「でも、人間は無理なんだよな。あの狭い道じゃ」

さくやたちはその言葉を心に留めた。彼らも"ただの護衛"ではない。案外、冒険心豊かな人たちなのだ。

「今度、写真撮ってきてあげるよ」

さくやが小さな声で提案すると、男性の顔がぱっと明るくなった。

「本当に?それは嬉しいな」


■ 広がる温かさ

夜になると、そのうちの一人がJDたちを家まで送るようになった。

「マダムのご指示です」とぶっきらぼうに言いつつ、車内では柔らかい会話が流れる。

さくやたちも一緒に乗り込み、和やかな空気が広がる。

車のダッシュボードには、いつの間にか30センチ用の小さなシートが設置されていた。

「これ、作ってくれたの?」

「ああ、安全のためにね」

黒スーツの男性が照れたように答える。その優しさに、さくやの胸が温かくなった。

「ありがとう」

小さな声だが、確かに伝わった。男性の表情が、ふわりと柔らかくなる。


■ 相変わらずの師匠

一方、師匠は相変わらずスーパーマンぶりを発揮していた。全拠点の状況を正確に把握し、設計図に目を通し、要請に応じて現場を飛び回る日々。とても人間とは思えないスケジュールだ。

「最近、師匠の分身がいるんじゃないかって本気で思ってる」

OLが静かに頭を抱える。

「スケジュールの空きが無いのよ。しかも最近、海外研修に行くって言ってる」

「ジェットファン技術の研修で、次はどこかの国に行くんだって。もちろん爆音社長も同行」


■ 小さな計画

爆音社長はカバンに何かを詰めながら嬉しそうに歌っている。その横で、さくやたちはこそこそ相談する。

「誰があのカバンに隠れてついてくか決めよか」

「もうジャンケンしかないな!」

「でも、みんなで行けるように大きなポケット作ってもらおうよ」

「そうやな、みんなで海外見てみたい」

カバンのサイズを考慮して、より現実的な計画を立てる小さきものたち。その健気さが愛らしい。


■ 変わらない日常

今日も師匠の周りは、騒がしくも静かに、確実に動き続けていた。マダムという謎めいた存在が加わり、黒スーツの護衛たちが日常に溶け込み——それでも、この小さなコミュニティの温かさは変わらない。

むしろ、新しい仲間が増えるたびに、その温かさはより深く、より豊かになっていく。

夜、稽古の後でさくやたちは黒スーツの男性と一緒にお茶を飲む。30センチ用の小さなカップで、温かい紅茶を分けてもらう。

「君たちがいると、この場所が本当に温かくなるね」

男性がぽつりと言う。

「こちらこそ、優しくしてくれてありがとう」

さくやが答えると、みんなが微笑んだ。

「みんな、最初は怖そうに見えても、結局はいい人なんやな」

そんな小さな気づ

きが、また一つ心を豊かにしていく。新しい世界への扉は、まだまだ開かれ続けそうだった。

30センチの小さな視点から見える大きな世界で、今日もまた新しい家族のような絆が生まれている。黒スーツの男性も、もはや大切な仲間の一人だった。



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