表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
25/59

第22話 鉄道が繋ぐ城下町 鉄の獣、走る 初めての汽笛が、森に響いた

半年かけて、線路が繋がった。

鉄の獣が、初めて森を駆ける。

夢が、現実になった――でも、それだけでは終わらなかった。


■半年の月日

半年が経っていた。

湖畔から森へ延びる線路は、ついに東の森の入口に到達していた。石橋を越え、カーブを描き、斜面を登る。さくやたちが一本一本レールを敷いてきた証だった。

森の入口には駅ができている。木の香りが漂う手作りの駅舎。柱にはʕ•ᴥ•ʔの焼き印、屋根の両端にはおなじみのマークが笑っていた。駅の名は「森陽駅」。森に陽をもたらすように――そう師匠が名付けた。

だが、師匠の姿はそこにはなかった。

「海外の研究機関で、新しい技術を学んでくる」そう言い残して旅立ってから、すでに二ヶ月が経っていた。最初こそさくやたちはしょんぼりしたものの、やがていつものように奮起した。「師匠がいないときこそ、がんばらんと!」

毎朝の朝礼は続いている。図面の確認も、安全チェックも、すべて自分たちの手で。師匠から学んだことを、一つ一つ実践しながら。


■爆音社長の傑作

その頃、爆音社長は本気を出していた。

「どっしゃあああ!できたでぇええええ!!」

拠点の一角に響き渡る爆音。並んださくやたちが、耳をふさぐ暇もなくその"物体"を見上げた。ゴトンと重厚な音を立ててレールに載ったのは――鉄の獣だった。

ディーゼル機関車・ヤマネコ号。

「試作品や!まだ改良の余地はあるけどな、魂は入っとる!」爆音社長が胸を張る。

深緑色の車体に金色の装飾ライン。ボンネットにはʕ•ᴥ•ʔのエンブレムが誇らしげに輝いている。窓から覗く操縦席には、さくやが二人。すべての計器が手の届く範囲に配置されていた。

後ろにはトロッコ型の客車が三両、貨車が二両。すべて手作りながら、どの車両も丁寧な仕上がりだ。座席にはふかふかのクッション、窓には透明なアクリル板。貨車の床には滑り止めのマットまで敷かれている。

「細かいところまで……」誰かが呟いた。「ほんまに、すごい」

さくやたちは、しばらく言葉を失っていた。図面で見ていたものが、今、目の前にある。それが信じられなかった。


■歴史的な出発

その日がついに来た。

「最終チェック完了ッス!」「レールにゆがみナシ!」「連結確認、ブレーキ圧OK!」声が飛び交う中、朝日が昇り始めた。

ヤマネコ号がシュルシュルと軽く煙を吐く。エンジンの鼓動が、まるで生き物の心臓のように響いた。操縦席のさくやたちは、緊張した面持ちで計器を確認している。

「出発、進行!!」

汽笛が鳴った。

「ポォォォォーーー!」

森に響く、希望の汽笛。その音は湖を越え、山を越え、遥か彼方まで届くかのようだった。乗り込んだのは百人のさくやと、山のような物資。土木資材、農具、布、医薬品、そしてチュール(なぜか他の荷物より丁寧に梱包されている)。

車輪が回り始めた。

トロッコがカコンと音を立てて動き出す。ガタガタガタン……そのリズムに合わせて、乗ったさくやたちが一斉に叫んだ。「師匠ー!見てるぅー!?」「ʕ•ᴥ•ʔーーーいくよぉおお!」「初の営業運転だぁぁぁ!」

見送るさくやたちが手を振る。ヤマネコ号は、ゆっくりと、でも確実に加速していった。


■森を駆ける

ヤマネコ号は森を駆けた。

木々の間を縫うように、半年かけて敷いた線路の上を。あの時苦労して切り開いた道、石橋を渡り、カーブを曲がる。窓の外に流れる景色は、全部みんなの手で作った道だった。

「あ、あそこ!」一人のさくやが叫んだ。「あの橋、作ったとこだよ!」

「うわぁ……」別のさくやが窓に張り付く。「上から見ると全然違う……」

「線路って、こんなに長かったんだ…」

ヤマネコ程度の速さで、しかし確実に進んでいく。森の動物たちも、初めて見る鉄の獣に驚いているようだった。リスが木から顔を出し、鹿が遠くから見つめている。

そして、数匹のヤマネコが線路の脇を走っていた。

あの白いヤマネコたちだ。まるで先導するように、軽やかに、森の奥へと続いていく。

「ヤマネコちゃんも一緒や……!」

「一緒に走ってくれてる……」

車内に、温かい空気が流れた。半年間、ずっと見守ってくれていたヤマネコたち。今日も、一緒に走ってくれている。


■東の村の歓迎

たった一日で、東の村にたどり着いた。

「き、来たぞーっ!」

東の村の入り口で、ジュウベェたちが両目を輝かせていた。「な、なんじゃあれは!」「すごい音にござる!」見たこともない列車に、村の小さきものたちが群がった。

「拙者の村に……鉄の馬が……!」一人のジュウベェが、感動で言葉を失っている。

ヤマネコたちは、最初びっくりしていたものの、すぐトロッコの陰にひょいっと隠れてのんびりし始めた。まるで、ここが自分たちの居場所だと言わんばかりに。

「これが、噂の鉄道…」「本当に来てくれたんだ…」「こんなにたくさんの人と物資が…」

物資が降ろされていく。屋根を補強できる材料、畑に新しい肥料や道具、布や医療品。ジュウベェたちは一つ一つ手に取りながら、目を輝かせた。

「この工具があれば、家の修理がもっと楽になる」「新しい種も手に入るんですね」「薬草だけじゃなく、ちゃんとした薬も…」

さくやたちは何度も肩をぽんぽんされて照れていた。「いえいえ、みんなでやったことですから…」「師匠のおかげです」「爆音社長が機関車を…」

だが、一人のジュウベェが真剣な顔で尋ねた。

「拙者、一つ気になることがあるにござる」

「ん?何?」

「この鉄の馬……なぜ、こんなに煙を出すにござるか?」


■森が咳き込む

確かに、煙が出ていた。

ディーゼル機関車はパワーもあったが、排気ガスがかなり出る。黒い煙が立ち上り、森の清らかな空気に混じっていく。重く、濁った空気が、少しずつ広がっていった。

ヤマネコたちが、少しだけ遠ざかった。鳥たちも、普段より高く飛んでいる。

さくやたちは、それに気づいた。

「これは…ちょっと問題かも…」一人のさくやが呟いた。「せっかくきれいな村なのに…」別のさくやが続ける。「環境に優しくないよね…」

ジュウベェが静かに言った。

「拙者、鉄の馬は素晴らしいと思うにござる」

少し間を置いて、続けた。

「でも、森が咳き込んでいるようにも見えるにござる」

その言葉に、さくやたちははっとした。確かに、木々が煙に包まれている様子は、まるで森全体が苦しんでいるように見えた。風が吹くたびに煙が揺れ、木の葉が震える。まるで、助けを求めているかのように。

リーダーさくやが言った。

「……師匠に、報告せな」

「もっといい方法、あるはずや」

全員が頷いた。問題が見つかった。でも、それは終わりじゃない。次の一歩を探す、始まりだ。


■星空の下で

夜、駅のホームに座って、ジュウベェがつぶやいた。

「この村にも……風が、通り始めたでござるな」

さくやが隣に座る。「ほんまやなぁ。なんか、次の時代がきた感じする」

ジュウベェが続けた。「拙者、思うにござる。最初は、できないことばかりでござった。橋も、測量も、何もかも」

「うん」

「でも、やってみたら、できたにござる」

「せやな」

「だから、この煙の問題も、きっと解決できるにござる」

さくやは、ジュウベェの横顔を見た。あの時、木の陰から見学していたジュウベェ。転んで切腹しようとしたジュウベェ。測量機器に「にござる」をつけたジュウベェ。

成長していた。

「ジュウベェ、成長したなぁ」

「えっ?」

「前は、すぐ切腹しようとしてたやん」

「……拙者、今も切腹したい時はあるにござる」

「でも?」

「でも、それより先に、やるべきことがあるにござる」

さくやは、ジュウベェの肩を叩いた。「それや。それが大事やねん」

星空は変わらず美しかった。でも、何かが確実に変わっていた。村に活気が戻り、人々の表情が明るくなった。問題はある。でも、解決する方法もある。それを信じて、また明日から進んでいく。

「師匠、きっと喜んでくれるよね」一人のさくやが呟いた。

「帰ってきたら、一番に報告しよう」

「『よくやった』って言ってくれるかな」

「絶対言ってくれるよ」


■新しい時代の始まり

翌朝、復路の準備をしながら、みんなで話し合った。

「定期運行、できるかな」「週に一回くらいなら…」「物資だけじゃなくて、人も運べるよね」「村の人たちも、湖の街に来れるかも」

新しい可能性が次々と浮かんでくる。鉄道が繋いだのは線路だけじゃない。村と街、想いと想い、小さきものたちの未来。

そして確かに感じられた。どこか遠くで、また誰かが走り始めている気が。師匠が蒔いた小さな種が、あちこちで芽を出し始めている。

鉄の獣は、ただの機械じゃない。希望を運ぶ、夢の乗り物だった。

問題はある。煙も出る。完璧じゃない。でも、それでいい。問題を見つけたら、また解決すればいい。失敗したら、また改善すればいい。それが、前に進むということだから。

汽笛が鳴った。

「ポォォォォーーー!」

ヤマネコ号は今日もまた希望を運んで走っていく。煙を吐きながら、でも確実に、未来へ向かって。小さな手が作った、大きな夢を乗せて。






#鉄の獣走る

#森に響く初汽笛

#ヤマネコ号発進

#小さな手の大事業

#半年の軌跡

#希望を運ぶ鉄道

#森が咳き込む

#成長するジュウベェ

#夢は走り出す

#次の課題へ


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ