第一幕
龍河は三里弱、北東に歩いた。
すると、大きな街に入った。
まだ昼間であるせいか、街は人々で賑わっていた。
早速、尋ねる事にした。
「御免。」
龍河は薪売りの商人に声を掛けた。
「なんだい、にいちゃん?」
薪売りの商人は威勢良く応えてくれた。
龍河は懐から一枚の紙を出した。
そこには、龍河が描いた天蓋の男の絵があった。
その絵を突きつけ商人に言った
「この男を見たことがあるか?」
龍河は絵の才能はあまりないがそれなりにうまく描かれていた。
男はその絵を見て
「う~ん、こんな奴見たことないな…」
商人は首を傾げた。
「そうか。」
龍河は再び、その紙を懐にしまい
「失礼する。」
と言ってその場を立ち去った。
「力になれなくて悪いねぇ。」
その言葉を背にまた聞き込みを再開した。
街中の人々に尋ねたが、誰一人としてその男を見た言う者はいなかった。
龍河は諦め、次の街に向かおうとした。
そこに走り回る二人組みの子供が目に入った。
すると、一方の子供が、木箱を運んでいる痩せ型の男にぶつかった。
その衝撃で男は木箱を落としてしまった。
すると男は
「何してんだクソガキッ!!!」
と怒鳴りつけた。
子供はひどく驚いたようで腰を抜かしていた。
するとその子供の母親らしきものが現れ
「申し訳ありません!私の不注意で、どうかお許しを…!」
母親はとその後も何回も頭をさげていた。
すると男は
「あれ~?あんた、この間もそのガキに俺、迷惑かけられてるんだよ。」
「えっ…?」
「え?じゃねぇよ、慰謝料よこせや。」
「しかし、今はまったくお金を…」
「じゃっ、死ね。」
男はそう言うと刀を抜いて、母親に振りかぶった。
「誰か~っ!!!」
母親は子供をかばい、叫んだ。
-ドサッ
その直後、男は倒れた。
倒れた男の前に龍河が立っていた。
疾風の如く走りぬけ、男の首を峰打ちしたのだ。
周りでは拍手や歓声がわいていた。
「ありがとうございます、助かりました。」
「この間とも言っていたな、何者だ?」
龍河は母親の言葉をさえぎる様に聞いた。
「はっはい、あの秋川組という極道の手下だと思います。」
「極道?」
「はい、よくこの街でいろんな人達にたかってるんですよ。博打なのでお金を使いきった時など…」
「くだらぬ、今後気をつけるのだぞ。」
「はいっ、ほら、あんたもお侍様にお礼を言いな。」
母親が囁くように子供に言い聞かせると
「あっありがとう、お侍さん。」
顔を赤く染めながら言った。
龍河はそれを聞き街の出口へと向かった。
その様子を一人の女が影で見ていた…