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ディヴァイン・アーカイブ~罪の影を斬り、黎明を呼ぶ者~  作者: するめ
第2章 魔術戦争編

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第9話 親父の過去

あの理不尽な最初の模擬戦から数日が経った。

結論から言うと、俺はこの数日間、あの冷徹なマスターにボコボコにされ続けている。


「いまだ、私に掠らせることもできないようだけど。……防ぐことばかり上手くなって、そのまま肉盾にでもなるつもりかしら」

「俺をサンドバッグにしてんのはマスターでしょうが!!!」

「……実戦で、敵相手に同じ言い訳をするつもり?」


氷のように冷たい声が、俺の怒鳴り声をあっさりと切り捨てた。

直後、視界から純白のコートが掻き消える。


「ガッ……!?」


みぞおちに深々と叩き込まれた蛍の無慈悲な蹴りが、俺の肺からすべての空気を強制的に絞り出す。


「隙がないなら、無理矢理創り出しなさい。……私はあなたに綺麗に戦えなんて一言も言っていないわ」


床に崩れ落ち、血の混じった唾を吐き出して咳き込む俺を、蛍は虫けらでも見るような冷たい瞳で見下ろした。


そんな理不尽極まりない評価のもと、俺の異常な再生力をいいことに、骨が砕け、肉が裂けるような対人訓練を連日叩き込まれていたのだ。おかげで、精神が擦り切れるように疲弊している。


そんな地獄の合間の、わずかな休息時間。

俺は特務防衛局の医療棟に併設された食堂で、車椅子に乗った大きな男とテーブルを囲んでいた。


「……ふん。相変わらず、ここの唐揚げはうまいな。俺が開発局にいた頃は合成の不味い飯ばっかりだったくせに、今はやけに豪勢にしやがって」


点滴の管を外されたばかりの親父――鉄が、山盛りの唐揚げ定食を口に運びながら、どこか懐かしそうに、かつ忌々しげに愚痴をこぼした。


「……にしても、あの蛍がなぁ。俺の弟子だった頃は、もうちょっと可愛げがあったんだが。まさかこんな立派な局の設備をタダで使わせてくれるとは」

「……」


何も知らない親父の言葉に、俺は少しだけ目を伏せた。

タダなわけがない。


(俺が防衛局の所有物として、このバケモノの力をあの人のために使い潰す。それが、親父の命を繋ぎ、安全な暮らしを保障してもらうための対価だ)


だが、そんなこと口が裂けても言えるわけがない。

スラムの片隅で、記憶もない得体の知れないガキだった俺を拾い、温かいスープを飲ませてくれたこの不器用な男に、これ以上余計な心配をかけるわけにはいかないのだ。


「……まぁ、あの人なりに気を使ってるんじゃないのか? 親父は元師匠なんだろ?」


俺は適当に誤魔化しながら、自分のトレイに山積みにされた特盛の白米とステーキを胃袋に放り込んだ。

超再生と液状化の連続使用は、尋常じゃないカロリーを消費する。こうして馬鹿みたいに食わないと、次の地獄の訓練で本当に餓死しかねない。


「気を使う、ねぇ。あの蛍が……」


親父は胡散臭そうに鼻を鳴らしたが、俺の凄まじい食べっぷりを見て、呆れたように笑った。


「まぁいい。それにしても、お前よく食うようになったな。まぁスラムじゃあんまり量は出してやれなかったがな」


そんな他愛のない会話をしていると、不意に背後から声が掛かった。


「あーっ! 黎くん、こんなところでサボ……じゃなくて、ご飯食べてる! ずるい!」

「おいコラ黎。てめぇ一人で美味いもん食ってんじゃねえぞ」


トレイを持ったのどかさんと、獅狼だ。

二人は俺の向かいに座る親父の姿を見ると、ピタリと足を止めた。

獅狼が少し気まずそうに姿勢を正そうとした、その時だった。


「あれ~? もしかして、鉄さんじゃないですか~?」


のどかさんが、いつものふにゃりとした笑顔をパチクリと瞬かせ、驚いたように声を上げた。


「ん? ……お前、のどかか?」


親父も唐揚げを箸で摘んだまま、目を丸くしている。


「お前さん、まだ前線でやってたのか。相変わらず間延びした声しやがって」

「も〜、鉄さんお久しぶりです〜! 相変わらず口が悪いんだから〜。って、生きてたんですね! 開発局を辞めてからずっと行方不明だったから、みんな心配してたんですよ?」


「……親父、のどかさんとも知り合いだったのか?」


俺が素っ頓狂な声を上げると、隣で獅狼も目を白黒させている。


「私がA級に上がった直後くらいに、鉄さんには専用デバイスの調整とかでずっとお世話になってたんだよ〜。局内でもトップクラスの天才エンジニアだったんだから」


のどかさんがニコニコしながら、とんでもない過去をあっさりと暴露した。


(天才エンジニア……? 開発局にいたのは知ってたけど……)

「昔の話だ。今はただのポンコツ親父だよ」


親父はバツが悪そうに頭を掻くと、俺と獅狼、そしてのどかさんを交互に見回した。


「……まさかお前ら、同じ小隊なのか?」


「あぁ、俺とこいつが前衛で、のどかさんが後衛だ。隊長は……言わなくてもわかるだろ」


「あぁ、あいつはなんでもできるからなぁ……」

「……そうか。蛍が隊長で、のどかが支援で、うちの馬鹿息子が前衛か。……なるほどな。あの不器用な小娘なりに、自分の手の届く範囲で最高の布陣を敷いたってわけだ」

「最高の布陣?」

「なんでもねえよ。……のどか、うちの無鉄砲な馬鹿息子をよろしく頼むな。獅狼って言ったか? お前さんもだ」


親父が深く頭を下げるのを見て、獅狼は慌てて直立不動になった。


「あ、いや! こちらこそ、こいつには……その、前衛で背中を任せてるんで」


明日もまた、あの冷徹なマスターに理不尽にボコボコにされるのだろう。

だが、親父の過去を知る信頼できる先輩と、背中を預ける熱い馬鹿がいる。


俺は、何度肉体が砕け散ろうと明日も立ち上がれる。そう確信しながら、冷めかけたステーキを勢いよく口に運んだ。その時だった。


『――緊急警報、緊急警報』


突如、食堂内の空気を切り裂くように、けたたましいサイレンと冷たい合成音声が鳴り響いた。


『灰原小隊、各員は直ちに第一ブリーフィングルームへ出頭せよ。……繰り返す――』


「……お呼び出しみたいだな」

「行け、黎。……死ぬなよ、お前は俺の大事な息子なんだからな」

「ああ。行ってくる」

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