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ディヴァイン・アーカイブ~罪の影を斬り、黎明を呼ぶ者~  作者: するめ


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第8話 イエス、マイマスター

「……いっっつ……」


目を覚ますと、ひんやりとした消毒液の匂いが鼻を突いた。

視界いっぱいに広がるのは、見慣れない天井。


身をよじろうとした瞬間、顎から脳髄に突き抜けるような強烈な鈍痛が走り、思わず呻き声が漏れた。


砕けたはずの顎の骨も肉体の損傷もとっくに修復されているはずだ。なのに、蛍が放った蹴りの衝撃の記憶だけが、幻肢痛のように細胞に深く刻み込まれている。


「お、起きたかよ黎」


不意に横から声が掛けられた。首だけを動かして視線をやると、ベッドの横のパイプ椅子に、黒鉄獅狼がふんぞり返って座っていた。


相変わらず柄の悪い座り方だが、以前のような見下すような敵意は、その目からすっかり消え失せている。そして、俺は軋む身体をベッドの上で起こしながら、思わず目を丸くした。


「お前、名前……」

「……あ? なんだよ」

「いや、初めて名前で呼ばれたなって」


俺が素直に驚きを口にすると、獅狼はバツが悪そうにそっぽを向き、ガシガシと乱暴に頭を掻きむしった。


「……チッ、うるせえな。いつまでも嫌ってちゃ、連携も取れねえだろうが。……改めて名乗っとく。俺は黒鉄獅狼。この灰原小隊の前衛だ……あの隊長相手に、一矢報いようと戦ったんだ。お前みたいな規格外の奴が前衛で暴れてくれるなら、安心できるってもんだ」


顔を背けたままの不器用な歓迎に、俺は思わず小さく吹き出した。


「頼もしいな。……なら、隊長が理不尽な攻撃してきたときは、しっかり俺の盾になってくれよ?」

「なるかバカ! 隊長相手じゃ俺の盾ごと蒸発するわ!」


「あはは、獅狼くん照れてるー。黎くん、おはよ~! 丸一日ぐっすりだったね~」


獅狼の背後から、穏田のどかがひょっこりと顔を出した。


「一応私も自己紹介しておこうかな? 索敵・遠距離支援を担当してる、穏田のどかだよ~」


のどかがふにゃりと笑って手を振る。


「よろしく、のどかさん。……って、丸一日寝てたのか、俺」

「あぁ、隊長の蹴りを食らったんだ。1日で起きてるほうがおかしいレベルだぜ」


獅狼は腕を組み、忌々しげに息を吐いた。


「……お前、マジで何モンだよ。自分の身体の構造すら無視して、胴体から槍を撃ち出すとか……人間じゃねえだろ」


「俺にもよくわからない……記憶がないんだ。ただ、隊長が調べてくれた限りネフェリア族っていう種族らしい」


「へぇ~!!んじゃ黎くんはあの神話の生き残りなのかな?」


のどかがまるで珍しい動物でも見るような無邪気な声を上げた。

その言葉に、隣にいた獅狼がポカンと間抜けな口を開ける。


「神話……? ネフェリア?聞いたこともないですが、特級の怪異か何かですか?」

「獅狼くんは知らないか~。まぁ防衛局のデータベースでも、ごく一部の人間しかアクセスできない機密情報だもんね」

「機密……? いや、だから何なんだよそのネフェリアってのは!」


――コツ、コツ、コツ。


獅狼が声を荒らげたその時、医務室の廊下に、規則正しい足音が響いた。途端に、獅狼が肩を震わせて直立不動の姿勢になり、のどかも「あ、隊長だ~」とニコニコしながら姿勢を正す。


自動ドアが開き、姿を見せたのは、純白の制服に身を包んだ灰原蛍だった。

あれだけの死闘を繰り広げたというのに、彼女の姿には乱れ一つなかった。


「アダムカドモン。かつてこの地球を統治し、外宇宙からの侵略者との戦いの末に死んだとされる、地球の神ともいえる元支配者よ」

「ち、地球の神……?」


いきなり飛び出したスケールの違いすぎる単語に、獅狼が目を丸くする。蛍は俺を見下ろしながら、淡々と事実を告げた。


「ネフェリア族は、その神の骨髄から創り出された眷属。自身の質量や硬度を自在に書き換え、どんな姿にも変質させることができる生きた万能の兵器。それがこいつの正体」


「生きた、兵器……」


「でも、アイツらは独立した魂を持たない空っぽの器のはずよ。自律した感情は一切なく、ただ主の命令に従って肉の盾になるだけの化け物。神が死滅したあの日に魔力供給を絶たれ、泥のように融解して歴史の闇へ消え去った……普通ならね」


蛍は細い目をわずかに細め、俺の目を真っ直ぐに射抜いた。


「でも、こいつは生きている。どういうわけか人間の社会に紛れ込み、ただの人間に育てられ、本来持たないはずの自我を後天的に獲得した」


心を持たない空っぽの兵器。それが俺のルーツ。

だが、今の俺の胸の奥には、親父の作った炒飯を美味いと思う心があり、日常を守りたいという確かな意志がある。


蛍は表情一つ変えずに歩み寄り、手に持っていた黒いものを俺のベッドの上に無造作に放り投げた。


「……これは?」

「特務防衛局の正式な制服と、隊員章よ。サイズは合わせてあるわ」


広げてみると、それは特殊な防刃・対魔術繊維で編み込まれた、防衛局員としての誇りを示す重厚な黒衣だった。


「私の蹴りを食らって一日で起き上がった身体の頑丈さは評価してあげる。今日からお前は、この灰原小隊の正式な前衛よ……その牙を、これからは私のために振るいなさい」


「……イエス、マイマスター」

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