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ディヴァイン・アーカイブ~罪の影を斬り、黎明を呼ぶ者~  作者: するめ
第1章 魔術戦争編

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第23話 神格の顕現

お待たせしました、第23話更新です。

◆◆◆


――A級隊員たちが本局へ向けて撤退した後。


「……おい、急いで負傷者を運べ! まだ息があるぞ!」

「周囲の警戒を怠るな! 異形の残骸が完全に消滅するまで油断するなよ!」


獅子堂大隊の副隊長である男は、血と硝煙の匂いが立ち込める交差点で声を張り上げていた。

黎と名乗る新人とA級の主力たちが、神の顕現という最悪の事態を防いでくれた。とはいえ、街は半壊し、至る所にクトゥレヴィア教団とハリストゥール教団が呼び出した異形の死骸や残滓が散乱している。


(まさか、本局に緊急警報が出るなんてな……。だが、こっちの現場は俺たちB級でなんとかするしか――)


小隊長がそう気を引き締めた、その時だった。


……ボコッ、ボコボコボコッ……!!


「……え?」


足元から聞こえた異音に、近くで瓦礫をどかしていた若い隊員が間抜けな声を漏らした。


アスファルトの上にブチ撒けられていた、青黒いヘドロのような異形の残骸。

それが突如として意志を持ったように沸騰し始めたのだ。瞬く間に、黒く濁った泥の海が大地そのものを侵食するように広がっていく。


「なんだ……!? 残骸が、集まって……ッ!?」


その中心から、巨大な人型の上半身がゆっくりとせり上がってきた。


だが、その姿は安定していなかった。腰から下は完全に崩れ落ち、液体となって地面に広がり続けている。腰から上の皮膚は剥がれ、青白く光る骨が露出し、肉は溶けては再生し、再び崩れるというおぞましい状態を繰り返していた。


顔は原型を留めておらず、縦に裂けた口は顎が外れたまま閉じることなく開き続け、その周囲には大小不揃いの眼がボコボコと増殖し、それぞれが狂ったように別の方向を見ている。


「おい、離れろ! 全員そこから離――」


小隊長の制止は、間に合わなかった。


かろうじて人の形を残していた両腕が途中から異様に肥大し、無数の触手へと分岐する。多くは途中で千切れ、液体のように垂れ下がる不完全な器官だったが、その中に混じった太く強靭な数本が鞭のように弾けた。


「ひっ!?」


悲鳴を上げる間もなく、一番近くにいた若い隊員が触手に巻き付かれ、宙へと吊り上げられる。


「あ、アァァ……ッ、隊長ォ……たす、け――」


万力のような触手の収縮。血の雨が降り注ぎ、若い隊員の言葉は永遠に途切れた。

その巨体は、崩壊と再生を繰り返しながら、ただ無機質にそこにたたずんでいた。


◆◆◆


――同時刻。


「おい、なんなんだこれは……!」

ハリストゥール教団の狂信者たちが残した痕跡の処理に当たっていたB級隊員の一人が、引きつった声を上げた。


ありふれた黄色い魔力の残滓が、突如として現実世界の物理法則を拒絶し始めたのだ。

何もないはずの上空の空間が、まるで壊れた映像のノイズのように激しく、不快な高周波を立てて明滅を繰り返す。


――キィィィィンッ……!!


直後、鼓膜を突き破るような耳障りな音が鳴り響き、その異常な空間の脈動の中心から、巨大な人型のようなものが現世へと強引に浮かび上がった。


だが、その輪郭は絶望的なまでに安定していない。

内側にあるはずの本体が、パズルのピースを掛け違えたかのように部分ごとに激しくズレ、繋がらず、人型として成立していないのだ。


右腕と思しき箇所は周囲の景色が万華鏡のように歪むほど異様に膨れ上がり、肥大化した重力の塊となっている。一方で、左腕や下半身にあたる箇所は霧のように欠け、途切れては空間の彼方へ霧散し続けている。


その上には、ボロボロに裂けた黄色い布切れが、肩や首元に引っかかるように不自然に漂っていた。顕現の失敗により完全に崩壊したそのローブは、重力や風を無視してスローモーションで動く部分と狂ったように乱高下する部分が混在し、時間の流れすら局所的に壊れていることを示している。


本来顔があるべきフードの奥は完全な空洞であり、光すら吸い込むようなドス黒い虚無が渦を巻いていた。


周囲では、鼓膜を破るような暴風が突発的に吹き荒れたかと思えば、次の瞬間には絶対的な無音と共に大気が消失し、息をすることすらできない真空の空白を生み出す。

それは確かに人の形をしていた――だが、その形を保つことに失敗し続け、存在しているだけで世界を吹きあらす、崩れた狂風のようだった。


「逃げろ! 離れ――」


叫んだ隊員の身体が、突発的に生じた目に見えない『風の断層』に巻き込まれた。

一切の抵抗も許されず、彼の身体はまるでサイコロ状にズレて、音もなく崩れ落ちた。


「ヒィィィッ!?」

「あ、あ、あああ……ッ!!」


見えない刃と歪む空間が、無差別に隊員たちを細切れにしていく。

ただそこに存在するだけで周囲の空間を道連れに切り刻んでいく理不尽な災害を前に、B級隊員たちは為す術もなく蹂躙されていった。


◆◆◆


「……この二つの異常な固有波長……クトゥレヴィアとハリストゥールです!!」


先ほどまでサポートやオペレーターに徹していた隊員が、血の気が引いた顔で報告した。

外を見ると空が黒く濁り、巨大な影が二つ伸びていた。影は不定形のスライムのようにうごめいている。


「マジ? すでに回収していた魔力と死骸を苗床にして、無理やり顕現したってわけ?」

いろはが背負った双大剣の柄を握り直し、ギリッと鋭い犬歯を剥き出しにする。


俺は神の顕現を防げたと思っていた。だが、狂信者たちは、残された泥水すらすするような執念で、強引に神をこの世界へと引っ張り出したのだ。


「……このタイミング。これも黒幕の計画の内ということね」

蛍が苦汁を飲んだような顔で、状況を分析する。


「不完全とはいえ相手は神格。放置すれば街が壊滅するのは事実。しかし、これは黒幕が用意した最大の囮。私たちがこの巨大な災害に対処せざるを得ない状況を作り出し、その隙に本命であるアダムカドモンの魂をと死体、この2つを手に入れるつもりよ」


アダムカドモンの魂が奪われ、防衛局の目が潰されたタイミング。

今、取り残されたB級隊員たちや避難し遅れた市民は、ただの一欠片の抵抗すら許されない蹂躙に晒されている。

蛍はその被害の大きさを痛いほど理解した上で、一切の感情を殺し、盤面全体を見下ろしていた。


「クソがッ! 行くぞ、あいつらが街を破壊しつくす前に、俺たちでぶっ叩く!」


獅子堂さんが巨大な避雷針を担ぎ上げ、血走った目でエントランスの向こうの空を睨みつける。


「全員、待ちなさい。全員であの囮に釣られれば、魂を奪った黒幕を完全に取り逃がすことになる……部隊を分けます」

怒りに任せて飛び出そうとした獅子堂さんを、蛍が冷徹なまでに響く声で引き留め、ロビーの中央に本局の立体マップと街の被害状況を即座に投影した。


「ええ、それが最善よね」


蛍の提案に、いろはが静かに頷き、指揮を引き継ぐ。


「私といろは先輩、そして獅子堂先輩。この三人で、クトゥレヴィアおよびハリストゥールの対処にあたります。残る大多数のA級隊員はこれより直ちに街へ降下し、市民の保護、および二柱の神格が巻き起こす余波からの防衛線構築に全力を注いでください」


「了解した!」

「任せろ、被害は最小限に食い止める!」


無傷で残っていたA級隊員たちが即座に呼応し、次々とエントランスから外の地獄へと飛び出していく。


「黎、獅狼、のどか。あなたたちには黒幕の追跡と開発局員の救出を頼みたい」


蛍が、立体マップの地下深くを指差して俺たち三人を振り返った。


「黒幕の真の目的はアダムカドモンの死体。それがこの地下深くにある。いろは先輩が黒幕に発信器をつけてくれたおかげで、これがわかったわ」

「さっきの戦闘のどさくさで、ちゃーんとオマケをくっつけといたからね。アタシを出し抜こうなんて百年早いっての」


いろは先輩が誇らしげに、しかし鋭い目でウインクを飛ばす。


「そして、先ほどから地下の開発局との通信が完全に途絶している。魂を奪った黒幕が、異形を使って開発局を襲いながら死体まで向かっていると考えて間違いないわ」


蛍がそこで言葉を区切り、より一層深刻な表情で俺たちを見つめた。


「加えて……地下には鉄師匠をはじめ、開発局の非戦闘員たちが多数取り残されているわ。異形が暴れ回っているなら、彼らの命は非常に危険な状態にある」


「親父が……ッ!」


黒幕の狙いが地下にあるなら、まだ間に合う。敵の掌の上で踊らされていたのだとしても、ここで立ち止まるわけにはいかない。

俺と獅狼、そしてのどかさんは顔を見合わせ、力強く頷いた。


「頼んだよガキども、それとのどかちゃん! 地上のデカブツはアタシたちがちゃーんとぶっ飛ばしておくからさ☆」

「死ぬなよ、お前ら。……野郎の首、絶対にとってこい」


獅子堂さんが牙を見せて笑い、そのままエントランスの向こう――狂風と泥が渦巻く戦場へと、凄まじい脚力で跳躍していった。それに蛍といろは先輩が続く。


「行くぞ、黎、のどかさん! 開発局の連中を助け出して、野郎をぶっ飛ばす!」

「ああ。奪われたものを取り返す!」


地上での神格同士の衝突により、本局の建物全体が悲鳴のように軋み、激しく揺れ続ける。

俺たちは暗闇に包まれた地下開発局へと続くエレベーターシャフトに向かって、一斉に走り出した。

2神の元ネタは結構わかりやすいと思います。

ちなみに本来なら顔を合わせた瞬間に殺しあうような関係です。

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