第21話 魔力の結晶
お待たせしました。第21話投稿いたしました。
獅子堂の号令から大隊の歓声が響いた後、そこからは一方的な蹂躙が始まった。
「ガハハハッ!お前ら全部まとめて逝かせてやれ!!」
獅子堂が避雷針を天に突き上げると、槍を中心に極大の雷が降り注ぐ。
轟音と共にアスファルトが爆ぜ、十数体の異形が一瞬にして灰になる。
「オラァ!!散々手こずらせやがって!」
「死体になっても魔力は残らねぇ!どんどん殺せェェェ!!」
副隊長をはじめとする隊員たちも、これまでの鬱憤を晴らすかのように容赦ない連撃を叩き込んでいく。どうやら敵の強さも魔力で強化されていたようで、先ほどまでの力が無くなった異形達はなすすべなく殺されていく。
俺と獅狼が、引きつった笑いを浮かべた。
「うわぁ……これが正義側の姿かよ……」
「すげぇな……獅子堂大隊は戦闘狂の集まりだっていう話は聞いてたが、まさかここまでとは……」
血気盛んに異形をミンチにしていく先輩たちの姿に、俺も思わずドン引きした声を漏らす。
異形が絶命するたびに立ち昇る魔力は、四隅のアンテナに強引に吸い上げられ、光の帯となって俺たちの背後にあるメインデバイスへと流れ込んでいく。
『黎、すごいペースだよ! どんどん魔力がたまってる!』
「そういえばこれどれくらいの魔力なら結晶化できるんだ?」
『黎の最大魔力量をベースに作ったからね、アダムカドモンが持っていた魔力量くらいまで行けると思うよ!』
(アダムカドモン……神レベルの魔力なのか……)
ヴィヴィの恐ろしい例えに冷や汗を流しているうちにも、戦場では着々と殲滅が進んでいた。
やがて、狂乱の叫び声が収まっていった。道路上に無数の死体が広がり、戦場から異形の姿が完全に消え失せた。
そして、空気中から魔力を吸い上げた魔力結晶化装置は一際高い排気音と共に、中心にあったコアが回転を速め、最後にひとつの物体がコトン、と俺らの前に転がり落ちた。
「これが、あの魔力量をまとめた塊……」
「こんなに小さくなるのか……」
「ヴィヴィ、どれくらいの魔力量が溜まったんだ、これ?」
『ほぼ許容値の限界まで溜められたよ!』
俺と獅狼は、アスファルトに落ちたそれを見て息を呑んだ。
膨大な魔力が極限まで圧縮されているはずなのに、間近で見ても何も感じない、何も感じれないのだ。
戦場を埋め尽くしていた数万の異形から吸い上げた膨大な魔力が、こんなに小さくまとり、透き通るような青と黄色の光が内側で静かに揺らめいていて――不気味なほどに綺麗だった。
「……触っても、何も感じねぇな。ただの綺麗なガラス玉みてぇだ」
その美しさに見とれていると後ろから声がかかった。
「おう、できたのか」
血濡れの避雷針を肩に担ぎ、獅子堂が近づいてくる。
「ん? なんだ、そんなに小さくなったのか……」
獅子堂が後ろから声をかけた。
ただ、獅子堂はしゃがみ込み、警戒しながらもその結晶を見つめて鼻を鳴らした。そして、ふうと息を吐いて立ち上がり、避雷針を肩に担ぎ直す。
「まぁいい。なんにせよ、これで神様の顕現はおじゃんだ、よくやったお前たち」
「ありがとうございます……」
俺がホッと息をついたのを見て、獅子堂は俺の頭にポンと大きな手を置いた。
「黎、お前はもう限界だろ。そこから動くな、お前はここで待っていろ」
「……はい」
獅子堂は顔をしかめ、避雷針の先で結晶を突っつこうとした手を止めた。そして、地面に座り込んだままの俺と、その肩で俺をサポートしているヴィヴィに視線を向けた。
ヴィヴィが俺の体内で魔力の回復と体内の修復をしてくれている。ここで俺が動けば、ヴィヴィのサポートが乱れ、俺の体が内側から破裂しかねない。
魔力切れで座り込んでいる俺にそう言うと、獅子堂は残りの隊員たちに事後処理の指示を出そうと振り返った。
戦いが終わり、ようやく大隊の間に安堵の空気が流れ始めた――その時だった。
「……おい。おい、嘘だろ……?」
俺の隣にいた獅狼が、ハッと顔を上げ、周囲の死体の山を血相を変えて見回し始めた。
「どうした、獅狼」
獅狼の様子が急変したことに気づき、俺が声をかける。
獅狼は地に突き立てた大剣の柄を握りしめ、震える声で叫んだ。
「のどかさんが……のどかさんがいねぇ!」
その悲痛な叫びに、俺も、獅子堂もハッと息を呑んだ。
「さっきまで後方で索敵支援をしてたはずだろ!? 通信も……くそっ、繋がらねぇ! もしかして、あのバケモノどもの群れに……!」
最悪の想像をしたのか、獅狼の顔からサァッと血の気が引いていく。
大剣を杖にふらつく足で立ち上がり、今にも瓦礫と死体の山へ向かって駆け出そうとした――その時だった。
「あ、よかったぁ~みんな、無事だったんだねぇ」
戦場の硝煙と血の匂いを切り裂くように、ひどく場違いな、のんびりとした声が響いた。
「え……?」
獅狼の足がピタリと止まる。俺も、獅子堂も一斉に声の方向を振り向いた。
ひしゃげた信号機と、黒焦げになったトラックの陰。そこから、ひょっこりと顔を出したのは――
「ごめんね、獅狼くん。途中で通信機落として壊しちゃってねぇ~、ずっと民間人の保護に当たってたよ~」
困ったように眉を下げて、えへへ、と愛想笑いを浮かべながら埃一つなく、きれいな姿で歩いてくる穏田のどか、その人だった。
「の、のどかさん……ッ!」
獅狼は手にしていた大剣をその場に放り出し、今にも泣き出しそうな顔でのどかの元へ駆け寄った。
「大丈夫ですか?怪我はないですか!?」
「大丈夫だよ~」
獅狼は「へへ、こんなの自分の血じゃないッスから」と照れくさそうに笑い、獅子堂も「チッ、A級の支援要員が通信機落としているとはな。……まぁ、民間人もろとも無事ならよしとするか」と鼻を鳴らして警戒を解いた。
「……本当によかったです、のどかさん。通信が途絶えた時はどうなることかと」
俺も、心底ホッと息を吐き出した。
魔力切れで座り込んだままの体に、全員が無事だったという安堵感と、どっとした疲労が波のように押し寄せてくる。
「ごめんね、黎くん。心配かけちゃったね。……でも、黎くんもヴィヴィちゃんも本当にお疲れ様! 遠くから見てたけど、すごいお仕事だったね」
のどかはふわりといつもの優しい笑顔を向けると、俺の目の前に転がっている魔力結晶を不思議そうに見下ろした。
「うわぁ、これがさっきの魔力の塊?…こんなに小さくなるんだ。すっごく綺麗だね」
「あぁ。見た目はただのガラス玉みてぇだがな、とんでもねぇ代物だ。触らねぇ方がいいぞ」
「うん、気をつけるね」
獅子堂の忠告に、のどかは素直に頷いて結晶から一歩距離を取った。
それを見て、獅子堂はふと視線を俺に戻した。
「黎、その石ころはお前が持っとけ。お前が死ぬ気で作ったもんだからな、お前が好きに使えばいい」
「分かりました」
俺は慎重に手を伸ばし、手のひらに収まるそのひんやりとした結晶をポーチにしまった。
「のどかさん、本当にどこか痛いところはないッスか? 立てますか? 喉渇いてないですか?」
「ふふ、大丈夫だってば、獅狼くん。私は後方で民間人の保護を優先してただけなんだから、獅狼くんたちこそ大変だったんでしょ?」
世話を焼こうと必死な獅狼と、それを笑ってなだめるのどかが平和なやり取りを見ているとさきほどの寒気が戦闘の極度の緊張がもたらした気の迷いだったように思えてくる。
俺は肩の上のヴィヴィと顔を見合わせ、ようやくこの地獄のような長い戦いが落ち着けるのだと実感していた。
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