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ディヴァイン・アーカイブ~罪の影を斬り、黎明を呼ぶ者~  作者: するめ
第2章 魔術戦争編

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第10話 灰原小隊・初陣(灰原抜き)

食堂を後にし、第一ブリーフィングルームに向かうと、そこに隊長の姿は無かった。

その代わりのように、壁面の大型モニターに蛍の不機嫌そうな顔が映し出される。


『遅いわよ、あなた達』

「隊長! 今どこにいらっしゃるんですか?」

『私は今、上層部のジジイ共の護衛で第一区画から動けないのよ。……第8廃棄区域で、未確認の大型、あるいは暴走した廃棄兵器らしきものが暴れているわ。私が戻るまで、お前たち三人で掃除をしてきなさい』


画面越しの蛍は、氷のように冷たい目で俺たちを見下ろした。


『……いい? 私の小隊に、隊長不在で全滅するような無能はいらないわよ』


プツン、と非情にも通信が切れる。


「相変わらず無茶苦茶言うな、あの理不尽マスターは……」

「まぁ、いつも通りだな」

「そうだねぇ……慎重に行こうか〜」




第8廃棄区域。


そこは、防衛局が失敗作として見捨てた兵器や怪物の死骸が山のように投棄される、隔離された巨大なゴミ捨て場だった。

現場に到着した俺たちは、静まり返ったその荒野で絶句した。


「……嘘だろ。何があったんだよ、これ」


見上げるほどのスクラップの山が、まるで巨大なミキサーにでもかけられたかのように粉砕されている。

数十メートル級の廃棄戦車は真っ二つに両断され、そこに巣食っていたはずの怪物たちは、完全に生気を吸い取られたカラカラのミイラと化していた。


その地獄絵図の中心で、異常な光を放ちながら暴れ狂っている影があった。

ボロボロの服を着た、色素の薄い黒髪の少女。


彼女の背中や腕から、ドロドロの液状金属が間欠泉のように噴き出し、それが意思を持ったように巨大なチェーンソーや獣の顎へと一瞬で書き換わり、手当たり次第に周囲の空間を削り取っている。


「あァァァッ!!!」


少女は頭を抱え、涙と涎を撒き散らしながら絶叫していた。

完全に理性を失っている。


「おいおい、なんだあれ……! まるで黎みたいなことしてんな!」


獅狼が巨大な大剣を構え、顔を引きつらせる。

後ろから、のどかさんが暴風に髪を揺らしながら目を細めた。


「多分違うね〜。だって黎くんは、あんなミイラみたいな死体作れないでしょ。あの子は、防衛局が作ろうとして廃棄された自律再編型(じりつさいへんがた)疑似生命体(ぎじせいめいたい)デバイスだね〜」

「デバイス……?」

「使おうとした隊員たちが魔力を吸われすぎてミイラみたいになっちゃったから、不良品という烙印を押されたデバイスだよ。いまさらになって暴走するなんてね〜」


不良品。

その言葉に、俺の胸の奥で何かが強くざわついた。


「グァァァァッ!!」


少女の背中から展開された無数の刃が、獲物を見つけたようにこちらへ切っ先を向けた。


「来るぞッ! 黎、のどかさん、下がってろ!」


タンクである獅狼が前に飛び出し、大剣を盾として構えた、その瞬間だった。少女の放った巨大なハンマーが、大剣ごと獅狼の巨体をトラックのように弾き飛ばした。


「ガハッ……!?」


防ぐ間すら与えられず、獅狼が鉄屑の山に激突して血を吐く。


俺が咄嗟に戦闘態勢に入った瞬間。

狂乱していた少女のシアン色の瞳が、ピタリと俺を捉えた。


「……ア、ァ……?」


言葉にならない掠れた音が、彼女の喉から漏れる。

肉食獣が極上の獲物を見つけた時のような、異常なほど飢えた光。


「黎くんの体はいわば魔力の塊! 狙われるよ!」


少女の周囲を取り巻いていたすべての銀色の流体が、俺を喰らおうと一斉に巨大な大砲や刃へと変異し、砲口を向けてくる。

四方八方から迫る、圧倒的な暴力。


(俺の魔力が欲しいなら……!!)


肉体が液状化し、再構成される。

俺は片腕を巨大な銃砲へと変異させた。


「喰らいたいなら……真正面から喰らってみろ!!」


俺の肘だった部分を圧縮させ、巨大な魔力砲弾を発射する。

迫り来る死線を感じたのか、少女はドロドロの流体を一瞬で硬化させ、分厚い盾を作り出した。


「ガァァッ!!」


金属がひしゃげるような不快な音が廃棄区域に響く。

俺の砲弾は、少女が展開した大盾を粉砕し、彼女の肉体を構成する銀色の流体を大きく撒き散らした。


だが、撒き散らされた銀色の流体は、床を這う蛇のように瞬時に再構成され、俺の魔力を直接吸い取ろうとする飢えた獣となって、足元から襲いかかってくる。


「サポートするよ〜」


後ろから、のどかさんのいつもと変わらないふんわりとした声が響く。

彼女の放った精密な支援射撃が、俺の足元に迫った流体の蛇を正確に撃ち抜いて弾き飛ばした。


(助かる……ッ!)


俺はのどかさんが作ってくれた隙を見逃さず、両足の流体を爆発させて一気に距離を詰める。しかし、少女もすぐさま体勢を立て直し、無数の刃やチェーンソーを俺へと放ってきた。


そこへ、真横から凄まじい咆哮が飛んできた。


「オラァ!!」


鉄屑の山から這い出た獅狼が、大剣デバイスを構えながら突っ込んできたのだ。


獅狼の大剣が少女の放った無数の刃を強引に弾き飛ばし、彼女の体勢を大きく崩す。


(今だ……!!)


俺は獅狼の突撃が作ったさらなる隙を掻い潜り、少女の体が剥き出しになった瞬間を捉えた。


「……見つけた!!」


俺は自身の流体そのものを極限まで圧縮して撃ち出し、着弾の直前で形を網状に解除して、少女の身体を壁ごと拘束した。


「ガ、アァァ……ッ!?」


少女の絶叫が止まる。

俺の流体でできた拘束を引き千切ろうと暴れていた彼女だったが、不意にその動きがピタリと止まった。


彼女の背中から展開されていた巨大な大砲やチェーンソーがドロドロに溶け落ち、乾燥していた皮膚が、柔らかい肌へと戻っていく。


「……おいしい……あったかい……お腹、いっぱい……」


うわ言のようにそう漏らすと、彼女はふにゃりと全身の力を抜いた。

そして、そのままコクンと首を傾け――スゥ、スゥ、と穏やかな寝息を立て始めたのだ。


「……は?」


あんなに災害レベルで暴れ狂っていた少女は、腹いっぱい飯を食って満足した赤ん坊のように、壁に縛られたまま無防備に眠りこけていた。

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