ユリシアーナは愚かな令嬢だと皆嗤う
貴族やめて平民になるを実行させたかった。(結構、スローライフしたいとか王子妃になりたくないと言っているのに結局なっている人多いので)
ユリシアーナ・デイアンヌ公爵令嬢はディアンヌ公爵領の片隅でほとんど蟄居同然で暮らしている。
「こんなところで暮らしてお辛くないですか……」
そんな彼女の元に一人の青年が尋ねに来た。
彼は、ユリシアーナの8人目の婚約者候補だ。
最初は彼女に大勢の求婚者が来ていたが、悪い噂が流れると求婚する輩はいなくなり、醜聞を嫌う公爵が何とか結婚してもらいたいと青年を脅して婚約者候補に仕立て上げたのだ。
「――辛くないわね」
強がりではなく本音。
「――ならいいですね」
あっさりと切り返してきた青年にユリシアーナは驚かされる。今までの婚約者候補はユリシアーナが正直に告げても強がりだと決めつけて本当はお辛いでしょうと勝手に悲劇の令嬢扱いしてきたのだ。
「おつむに花が咲き誇っている第一王子の尻拭い。そのうえ、真実の愛に目覚めたと寝ぼけた頭で言い出しての婚約破棄。そこでいきなり隣国の王子からの求婚。それを丁重にお断りをしたら空気が読めないとばかりに社交界の笑いもの。………………ひっそりと暮らしたいと思っても当然ですよね」
「………………詳しいわね」
ほぼ事実だったので正直驚いた。
「今回の話を持ち込まれて、調べましたので」
青年の言葉に調べようと思えばそれくらい調べられるのかと感心する。上流階級……いわゆる貴族は淡い色合いの髪が多いが、青年は黒髪。平民に多い色合いなのでてっきり平民だと思ったが、平民が公爵家と繋がりがあって、婚約者候補になる時点で、ただものではないと判断すべきか。
(なんらかの武勲を立てて出世したのだろうか……)
それならありそうだ。
「で、その後。あなたの地位や能力を買って、婚約を申し込んだ方々に次々と不幸が舞い込んできて、ついた噂が【不幸を呼ぶ令嬢】でしたっけ?」
「まあ、そこまでご存じでそれでもわたくしを婚約者にさせたいのですか? 父は貴方にどれだけの貸しを作ったのか」
「貸し……。まあ、いろいろと」
詳しいことは秘密ですと告げられて、こっちは一方的に知られているのに不公平だわと思ったが言わないでおく。
「とは言っても、それでは不公平なので、こちらの事情を少し」
長い脚を組んで椅子に腰かける。
「おつむの軽い。脳の栄養が花を咲かせることだけに回っている第一王子は、真実の愛の相手と共に公務をしようとしたが、当然うまくいかない。まだ正式な処分がされていないのは、自分に正式な処分が下されたら水面下にあった王位継承の争いで血が流れるからとさすがに気づいたようで、ユリシアーナ嬢を側室、または正当な地位につければ自分の首が繋がると気付いて、かといって婚約を破棄した相手に下手に出ることはできないので、ユリシアーナ嬢に婚約を申し込んだ輩を裏で手を回して酷い目に合わせています」
「……………残念な頭ね。わたくしをどこぞの王子にどうぞと渡そうとしたのに」
「渡そうとした? それは知らなかったですがっ」
慌てたような顔にこんな顔もするんだと親近感がわく。というか、先ほどまで余裕そうな顔よりも断然好みだ。
というか、この人。武勲で出世したとしたらかなり歳上かと思っていたけど、実は年齢近いのでは……。
「……知らないのも無理はありません。わたくしだって、直接聞かなかったら信じなかったのですから」
ああ、思い出す。あの屈辱的な会話を。
第一王子の頭にお花が咲いているのは知っていた。でも、まだやり直せると思っていた。
「今度の夜会であの女との婚約を破棄しようと思っているんだ」
学園の生徒会室の前に多くの書類を抱えて途方に暮れている時にそんな声が聞こえた。
第一王子の手伝い……という名目で仕事を押し付けられて、やっと終えて確認してもらおうと思ったのに信じられない思いで自分が何をしようとしていたのか一瞬忘れた。
「俺にはディーナがいるからな」
「嬉しい♪」
楽し気な会話。
「じゃあ、ユリシアーナ嬢をもらっていいか? お前に婚約破棄されて傷心の彼女なら簡単にものに出来そうだしな。恩があるからこっちの言いなりになりそうだし」
生徒会室には名目だけの生徒会長の第一王子以外に名目上は庶務の第一王子の真実の相手。そして、同じく名目上は副会長の留学しに来ていた隣国の王子までいた。
「そりゃいいな。あのプライドだけ高い女がお前の恩義で奴隷になるのか」
「じゃあ、奴隷になったらどこまでさせるんですかっ?」
楽しげに人を馬鹿にした言葉。
「そうだな……。夜のこともさせれたら最高だなっ!!」
そこまで聞いてその場を後にした。
信じたくなかったし、許せなかった。どこまで人をコケにすれば気が済むのかと。
「で、それがことの顛末……。人を馬鹿にしているとは思っていたけど、そこまでするとはな~。…………ああ、道理で」
そんなセリフと共に深々とため息。
「婚約者候補に対する嫌がらせ、半分はその隣国の王子が手を回していました」
「やりかねないわね……。女性をモノ扱いしていましたし、わたくしが一歩外に出たら誘拐されて都合のいい玩具にしそうな方でしたから」
「うっわ~。最悪~」
心底嫌そうな顔でそんなことを告げてくる青年は最初の印象の胡散臭い人物像からかなりずれてきている。それどころか。
「そうね。最悪よね」
くすくすと笑ってしまうのはわたくしの正直な気持ちを彼は代弁してくれた気がしたから。
誰もかれも隣国の王子の手を取らなかったことを責めて、嗤った。事情を知らないから仕方ないとは思ったけど、誰か一人は気付いてほしかった。
婚約破棄されたばかりの女性がそんな簡単に他の男の手を取ることなど貴族令嬢なら、淑女なら気付いてくれるはずだと。
不幸を呼ぶ女という蔑称もなんでそうなったかを調べてくれたのも彼が初めてだった。
「でも、そんな理由があるのなら隣国にこの情報を提供したらその王子さまを蹴落としたい一派が頑張ってくれそうですね」
「あら、面白そう」
良い考えねと二人して笑う。
「証拠も必要ですね。いい魔道具あったかな」
「もしかして、魔道具開発で名をあげたのかしら?」
わたくしの婚約者候補になったのは。
「名をあげたくないんですよね。ひっそりと暮らしたいから」
「あげたくない」
「ええ。俺は貴方の父君に借りがあると言ったでしょう。これでも命狙われているんですよ」
そちらの事情だけ知っているのは不公平だと言って話し出すのは、それもまたとんでもない話。
「これでも、自分は王族の血を引いているそうで、継承権こそ低いですけど、自分が生きていたら王位争いで足を引っ張る弱点だと思っている方がいるんですよ」
「まあ」
「なので、公爵に保護してもらっています。その代わりに」
そっと差し出される手。
「自分の愛娘を安全な場所で幸せにしてくれと頼まれました。こちらとしたら為人を知ってからと思ったけど、どうやら相性も良さそうなので」
一緒に行きませんか。
そんな風に言われたら頷くしかない。
「ええ。貴方とならゆっくりとスローライフが出来そうね」
勢力争いに疲れたから丁度いい。そんな風に思ったので迷わず手を取る。
「さて、行きましょう」
「まあその前に証拠をいろんなところにばらまきましょうか」
笑い合い、すぐに蟄居をしていた屋敷から出る。もしかしたら、おつむの軽い王子たちの刺客がいるかもしれなかったけど、どうやら潰し合い。あと、公爵家の護衛の手によって証人として王都に送られたとか。
わたくしの様々な噂は払しょくされたけど、いまだわたくしは笑い話にされている。
貴族を捨てた令嬢として。
事実はどうであれ。
おあいにく様。わたくしはわたくしのことを考えてくれた人のおかげで幸せなので。




