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内情

「──ラウニャドールの対策会議はどうだ?」

「つつがなく進んでおります」


 ジクターはダリオットの御前で片膝をつき、(こうべ)を垂れて報告をおこなっていた。


「ふむ、そうか。星祭りの方は?」

「開催の方向で準備を進めておりますが、難しいと判断した場合には即座に中止も視野に入れております」

「分かった。引き続き任せるぞ」

「はい、陛下」

「ところで、魔塔の主とはどうだ? お前は彼の者をどう見る?」


 カーネリアの魔法使いが黒い魔法使いだとジクターが突き止めたことを、ダリオットは知らない。どこまで答えるべきか、一瞬のうちにジクターは考えた。


「なかなか扱いの難しい相手かと。やはり三百年関わらなかっただけに、魔法使いと分かり合うのは容易ではありません」


 アルデバランの第一印象は最悪だった。国王相手に、堂々と傲慢に振る舞う者を見たことが無かったからだ。だが、その評価は案外すぐに変わった。

 一見こちらを敬う態度を見せながら、その裏で寝首を掻こうと画策する貴族ばかりを見てきた。その中で、アルデバランは良く言えば新鮮だった。誰にでも分け隔てなく不遜な物言いをするアルデバランに、好ましさすら覚えるほど。

 そして話が合理的で無駄が無い。かといって利益で動くわけでもなく、そこいらの貴族よりよっぽど信用できる。


 だからこそ迂闊なことは言えない。この王城では、どこで誰が聞いているか分からないのだから。


「あまり友好的に思われていないようですから、もう少し協力と連携を要請する必要があります」


 ジクターの報告に、ダリオットは「そうか」と言うだけだった。

 父王が何を考えているか分からないし、分かったところで頼ることはできない。ダリオットが敵になることは無いが、味方になることも無いのだから。


──家族とはなんだろう。


 謁見の間から戻る道中、ジクターはふと考えた。もう何度も自身に問うた疑問だった。


 家族とはなんだろう。家とはなんだろう。心が休まる場所を家と呼ぶなら、王城(ここ)は一体なんなのか。

 数年前までは、自分の居場所がどこにあるのかと考えては苦しんだ。悩みに悩んだ挙句辿り着いたのは、結局ここで生きるしかないということだった。

 王家の元に産まれた以上、国を、民を導くのが使命だ。それを果たす以外の道は用意されていない。


 ジクターが前方から来る人物に気づいた。蘇芳の髪を持った少年が、見せつけるように配下を引き連れている。

 ジクターにはそれが、周りの大人に操られるマリオネットにしか見えなかった。


「兄上」


 アトラスの目がジクターを捉えた。同じ色の瞳なのに、両者の温度は全く違っている。異母弟がこちらを見る視線には敵意が滲んでいた。


「アトラス、父上に謁見か?」

「兄上には関係のないことです」


 ジクターはアトラスに対し、憎しみや嫌悪といった感情は抱けなかった。ただ哀れだと、そう感じていた。

 異母弟が産まれたのは、自分が今のアトラスと同じ歳の頃だった。あの頃の自分が無知で世間知らずだったかと聞かれれば、違うと言える。自身を取り巻く環境がどう変わったか、感じ取ることはできたから。

 だからアトラスも理解できるはずなのだ。自分の置かれている環境が、いかに歪なものかということを。


「今年も星祭りの開催を担っているそうですね」

「ああ」


 アトラスは催事を任せるにはまだ幼い。彼本人がそれほどジクターの脅威でないのは、年齢ゆえだった。

 現状のまま数年経てば、第二王子派はより厄介になるだろう。いよいよアトラスも王太子の座を奪いに来るはずだ。


「どうやら、魔物が我が国を襲おうとしているとか」

「それについても、各騎士団長と話を進めている。問題無い」

「そうですか。何事も起こらないといいですね」


 アトラスがジクターから視線を外し、配下を促した。すれ違って行った異母弟(おとうと)の小さな背中は、彼を囲う大人によって既に見えなくなっていた。


 ジクターも再び歩き出す。確認しなければならない書類がまだ沢山あった。


(……そろそろ、騎士団の配置を考えなくては)


 騎士団の配置もそうだが、アルデバランの言う結界についても詳細に知る必要があった。気の休まらない日々はしばらく続きそうだ。明日以降の会議も、考えただけで頭が痛い。


(そういえば、ロードナイト姫君はたしか白薔薇姫と呼ばれていたな)


 今の活発な印象から忘れかけていた。当時と比べると、彼女は随分伸び伸びしているように見えた。

 彼女を羨ましく感じるものの、自分も同じようになりたいとは思わない。ロゼアリアと自分では立場が違う。


(信用、か。家族すら信用できない私に、信用できる友など無理な話だ)


 アルデバランはなぜ秘密を打ち明けようと思ったのか、少し気になった。腹の(うち)を他人に明かすことの危険を、ジクターは誰より知っていたから。






 邸宅にいる時も、ロゼアリアは父の書斎で打ち合わせをしていることがほとんどだった。


「王都を手薄にはできない……しかし領地の方にも人を送らなければ」

「星祭りは各領地でもおこなわれますからね。騎士団が所有していない領地にも警備は必要ですし……」


 白薔薇騎士団が有する騎士団員は多いが、それでも賄える場所には限度がある。どの領地にどれくらい騎士を置くか、いくら話し合っても納得のいく答えは見つからない。


「せめて、星祭りまでラウニャドールの襲撃が無いと分かれば良いのだが」


 悩ましげにカルディスが眉間を揉んでいる。その姿は伯父とよく似ていた。


 魔塔の方で進めたいことがあるのか、ここ何日かアルデバランは会議に参加していない。そのため、魔法使い側の調査がどこまで進んでいるのか分からなかった。


「王都の警備は、やはり他の騎士団と混合でおこなうしかないかと。そこに割く人数が決まらなければ、他の場所も決められません」

「例年よりも多く配置するとなると、星祭りの空気が物々しくなりそうだ。民に混乱を与える要因にならないか、懸念されることもいくつかありそうだ」

「それもそうですね……」


 賑やかな祭りの中であちこちに騎士がうろついていては、祭りを楽しむに楽しめない。グレナディーヌの民には例年通りの祭りであるように、というのがジクターの要望だった。

 水面下で様々な物事を進めるのも大変だ。気づけば、星祭りまで半月を切っていた。


「明日の会議は午前で終わる予定ですよね? その後、私は魔塔に行こうと思います」


 アルデバランが忙しくて魔塔を離れられないのなら、自分が情報共有しなくては。


「分かった。では、魔塔の主とのやり取りは引き続き任せたよ」

「はい」


 久しぶりにアルデバランに会える。いやいや、これは仕事の話なのだから、浮かれてはいけない。オロルックも連れて行くのだし。


「第二王子派の動きにも気をつけなければ。特に混乱が生じた時に、何かあるかもしれない」


 父の言葉に頭が星祭りへと戻される。


「ジクター殿下は、ベルレリザ妃が動かれていると仰っていました」

「殿下が仰るなら間違いない。星祭りが無事終わるまで、気を引き締めていこう」

「はい」


 夕食の時間が迫り、ロゼアリアはカルディスと共に書斎を出た。


「ロゼは、もう贈り物を用意したのかな?」

「はいお父様。お父様とお母様、それから騎士団の皆に、リブのも。伯父様とアレクお従兄様、ロディお従兄様にも用意したけれど、今年は渡す機会がなかなか無いかもしれないわ」

「星祭りが終わってからでも良いんだよ。ロゼの気持ちが大事だからね」


 アルデバランにも贈り物を用意しているのだが、それを父に話すのはなんだか気恥ずかしくて言えなかった。


「お父様はお母様に何を用意したの?」

「新しい髪飾りを。ロゼッタが気に入っていたものが壊れてしまったから、新調したんだ。まだ内緒にしていてくれ」


 人差し指を唇に当てる父に、ロゼアリアがこくこくとうなずいた。母のことだから、きっと大喜びするはずだ。

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