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ジクターの戦略

 背中に感じる魔塔の主の冷たい怒り。目の前にはロゼアリアとアルデバランを見据えるこの国の王太子。

 同席した以上、二人の橋渡しにならなくては。ジクターの意図をどうアルデバランに伝えるか、アルデバランの考えをどうジクターに伝えるか、ロゼアリアは必死に考えた。


「ええと、ですから、魔塔の主様はまだ人間に対して疑念を払拭できておらず」

「いや、いい。かけてくれ」


 二人に座るよう勧めたジクターの口元には緩やかな笑顔が浮かんでいた。

 ロゼアリアがアルデバランを振り返る。彼の眉間には不機嫌にくっきりと縦皺が刻まれている。


 ジクター自身も再び椅子に座り、手を組んで二人に視線を向けた。


「試すような真似をしてすまなかった。先程の発言は本意ではない」

「それは、どういう……」


 困惑するロゼアリア。そんな彼女をよそに、アルデバランがどかりと椅子に腰掛ける。


「冗談なら余計に不快だ」

「もちろん、魔塔が後ろ盾についてくれるなら喜ばしいに超したことない。だが、言われた通り私は貴殿を信用していなかった」


 アルデバランの指が苛立たしげに机をトン、トン、と叩く。そんな彼の隣にロゼアリアも座った。


「あの、殿下……魔塔の後ろ盾が欲しいというのは、王太子派を強固にしたいというお考えのためでは?」

「ロードナイト姫君の言う通り、魔塔を味方に引き込めば私の立場は磐石になる。しかし、そうなれば第二王子派も手段を選ばなくなるだろうな」


 現在の王太子はジクター。しかし、第一王妃を支持する貴族達は第二王子が王太子となることを望んでいた。


「第一王妃が表立って動き出すリスクを取ってまで、信用していない魔法使いを味方に入れようとは私も考えない」


 ジクターは王国が望んだ第一王子。ゆくゆくは国を背負い、民を導く者として産まれた時から教育されてきた。


 揺らぐことのなかった彼の立場が変わったのは、異母弟が産まれた時。蘇芳の髪、黄金の瞳。姿形だけならば、彼はジクターよりもよっぽど国王に似ていた。そして何より、彼の母は王国でも屈指の名を馳せる公爵家の血筋。

 伯爵家の娘である母が、第一王妃に太刀打ちできるはずもなかった。

 異母弟が産まれた後、実母も第二子を身篭った。しかし、第一王妃の一派によって知らぬ間に堕胎剤を飲まされ続けた結果、胎の子は流れてしまった。さらには二度と子を孕むこともできぬ身体となり、第二王妃の立場は圧倒的に弱い。


 そしてジクターは、異母弟が産まれたあの日から命を狙われ続けている。


「陛下は冷徹な御方だ。権力のために公女を正妃に迎え、確実な後継のために聡明な令嬢を側妃に召し上げた。その冷徹な陛下が、魔塔には強く出ない。我が王家は、何か弱みでも握られているのかと私は考えた」


 そうは言われても心当たりが無いのか、アルデバランは小首を傾げている。


「だが、いくら尋ねても陛下は何も教えてくださらない。そこで、貴殿に直接尋ねようと思った次第だ」

「お前達にとって何が弱みに当たるのか、俺の知ったことじゃない。お前が聞きたいことを聞いてこなきゃ、俺に答えられるものは無いな」

「なら、一つ。王国と魔塔は三百年以上、断絶した関係にあった。三百年前といえば世界が混沌に満ちていた時だ。そんな時に建国したグレナディーヌが、なぜ管理者(エリュプーパ)を頼らなかったと思う?」


 尋ねてはいるが、ジクターは何かに気づいている。そう思わせる目をしていた。


「頼るどころか、距離を置いた。そこで私なりに色々と考察してみたんだ。他国も同様に王家と管理者(エリュプーパ)が距離を置いていれば、そこまで気にしなかっただろう」

「何が聞きたい」

「三百年前、世界を殺した黒い魔法使いは貴殿の血筋ではないのか?」

「……」


 ジクターは聡明だ。だからこそ、蘇芳の髪を持たずとも、母方が大した権力でなくとも、彼こそが次の王として相応しいという支持がある。


「この見解は誰にも話していない。我がグレナディーヌ一族が魔塔との断絶を黙認していたのは、この秘密を知っていたのが理由じゃないかと考えた。弱みを握られているのではなく、自国の管理者(エリュプーパ)の大罪を秘匿しているのだと」


(殿下の仰ってることは当たってる……。アルデバラン、どうするつもり……?)


 ロゼアリアは何も言えない。たった一言でも、ジクターに確信を与えてしまうかもしれないから。隣に座るアルデバランをただ静かに待っていた。


「そうだ。お前らの言う黒い魔法使いの名は、ブレイズ・ステラ・カーネリア。俺の先祖だ」


 アルデバランは半分だけ真実を話し、もう半分は嘘を()いた。ジクターが黄金をスッと細める。


「まさか、こうも簡単に認めるとは思わなかったよ」

「別に隠していることでもない。ザジャの奴らも知ってたしな。で? これで俺を揺さぶるつもりだったか?」

「いいや。そんな真似はしない。私はただ、陛下が隠していることを知りたかっただけだ」


 今のジクターの発言から、この話は代々国王だけに明かされていると推測できた。ダリオットも、ジクターの即位が確実になるまでは話すつもりがなかったのだろう。


「ふん。お前の好奇心を満たすためだけに付き合わせるな」

「それは申し訳ない。けれど、他にも話しておきたいことがあるんだ」

「まだあるのか? さっさと言え」


 ジクターが短く息を吐いた。


「騎士団長達には気をつけろ。ロードナイト姫君は分かっていると思うが、騎士団長全員が私や貴殿を受け入れているわけではない」

「どうでもいい。俺は誰一人信用してないからな」

「アルデバラン、そういうことじゃないの」


 ロゼアリアの同席をジクターが許したのは、アルデバランがロゼアリアを信用しているからだけではない。ロードナイトが王太子派でなければ、この場に留まることは許されなかったはずだ。


「ベルレリザ妃殿下が動かれているのですか?」

「憶測の段階だが、間違いない」


 第一王妃、ベルレリザ。ジクターの命を狙う張本人。


「私は、会議の内容はベルレリザ妃に筒抜けてるものと思って行動している。星祭りを開催しようと中止しようと、向こうは何かしら問題を起こして私に責任を取らせようとするだろう」

「第二王子派は、ヴィヒカルト大公、シュレイン公爵、バーステス侯爵とそれからグリーマー伯爵……」


 ロゼアリアが今挙げた名は、どれも魔法使いに対し嫌悪的な騎士団長であった。ジクターがうなずき、アルデバランを見る。


「貴殿も発言には気をつけた方がいい。先程、グレナディーヌを覆う結界の話をしただろう。詳細を明かせば、必ず邪魔が入るはずだ」

「はっ、くだらない。そんなことをしてる場合か?」

「その通りだ。だが、彼らにとっては地下の異変など関係ないのだろうな。王国の危機こそ、私を失脚させる絶好の機会とでも思っているのだろう」


 道理で、毎度アルデバランに対しやたら強く反対する人がいるわけだ。アルデバランが呆れた様子でため息をつく。


「馬鹿馬鹿しい。人間ごときが俺の邪魔をできるわけないだろ」


 アルデバラン個人ではそうかもしれないが、第二王子派が魔塔とジクターを嵌めようとしているのならば放置できない。


「では、第二王子派に対抗するために協力関係を築いた方が良いということでしょうか」

「いや、その逆だ。私と魔塔は協力しない方がいい。少なくとも表向きは」

「それは一体……」

「決裂していると思わせた方がこちらは動きやすいはず。元より標的は王太子である私だ。魔塔まで彼らに狙われては、王国民に影響が出かねない」


 ジクターの考えがなんとなく分かってきた。第二王子派の狙いをこちらに引き付ける間に、ラウニャドールから国を守ってほしい。それが彼の狙いだ。


「私が貴殿を呼び止めたことは向こうにも知られている。あからさまに不仲と見せかければ、魔塔を自陣に引き込もうとして失敗した愚かな王太子として映るだろう。そうすれば、わざわざ魔法使いに手を出そうとは考えないはずだ」

「第二王子派が魔塔を引き込むとは思われないのですか?」

「考えにくいな。それに、魔塔の主殿は応じない」


 言い切ったジクターにアルデバランが片眉を上げた。


「なんでそう言える?」

「利益で釣った者は利益で裏切る。しかし先程、貴殿は報酬を持ち出しても私の話を断った。第二王子派が貴殿を誘ったところで、同じことだろう? あのやり取りで貴殿のことは信用できた」


 もし仮に、アルデバランがジクターの話に乗っていたら。こちらが提示した以上の報酬があれば寝返ると判断し、ジクターはアルデバランを信用しなかった。


「お前の話は分かった。だが、俺はお前の仲間になる気も協力してやる気もない」

「私は別に貴殿を味方に引き入れたいわけではない。敵に回したくないだけだ」


 アルデバランが鼻を鳴らし、立ち上がった。


「用が済んだなら帰る。行くぞロゼ」

「くれぐれも、貴殿の計画の詳細を明かさないようにしてくれ。それから、最後にもう一つ」

「これ以上何があるんだ」

「ロードナイト姫君を気に入っているのは、貴殿の秘密を彼女が知っているからか?」


 やはりジクターは侮れない。ジクターの考察、そしてアルデバランの答えを聞いて驚きもしなかったロゼアリアに気づいていたようだ。


「ああそうだ」


 王太子に背を向け、堂々と出て行くアルデバラン。その背中を、ジクターに深く礼をしてからロゼアリアが追いかけた。


「さすがジクター殿下ね……あんなことまで考えてられたなんて」

「ああいう思考をする人間は嫌いじゃない。だが、好きにもなれない」


 アルデバランが好きになれる人間などそもそもいないだろうに。


「ジクター殿下は素晴らしい方よ。アトラス殿下が劣っているわけではないけど……」


 第二王子アトラスはまだ齢九つ。常に第一王妃が傍にいる彼は、権利と欲に塗れた大人によって王太子の座へと押し上げられようとしている。

 もし彼が王太子に変われば、第二王子派はアトラスを傀儡にしようとするだろう。


「ふう。星祭りもラウニャドールを倒すのも、絶対上手くやらなくちゃ」

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