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王太子からの打診

 ロゼアリアとしてはアルデバランと関わることができる機会だが、他の者にとってはそうもいかない。星祭りの準備にも追われる中、ラウニャドールへの対策も考えねばならず、団長会議はピリピリしていた。


「──つまり、グレナディーヌ全土を調査している最中だと」

「そうだと言ってる」


 アルデバランに対し、ディートリヒが悩ましげに眉間を揉んでいた。


「……星祭りが終わるまで、王都の警備を弱めることはできない。同時に、王都以外の街にも騎士団を送る必要があると、そういうことだな?」

「難しいなら、王都に人間を集めればいいだろ」

「簡単に言ってくれるな。街一つにどれだけの民が住んでいると思っている。全ての国民がしばらく王都で暮らせるような余裕は無い」


 加えて、今は黒翼騎士団の半数がマヴァロにいる状態。例年よりも騎士団が手薄だというのに、地方へ人手を回す余裕など無い。


「魔塔の方で賄えないのか。ラウニャドールに対抗するという話では、我々は協力関係にあるはずだ」


 ディートリヒが腕を組んで座るアルデバランを見る。


「前にも話したが、魔塔にいる魔法使い全員が戦闘可能な魔法使いってわけじゃない。だからといって、お前達に全て投げるつもりでもない」

「ほう。では、魔塔の主殿はどのような考えを持っているのか、聞かせてほしいものだ」

「……最終的にはグレナディーヌ全土を覆う結界を展開する」


 静かに話し出すアルデバラン。そんな彼に各騎士団長が険しい視線を送っていた。


「確実に仕留めるためにラウニャドールの正確な規模を知る。それから魔法陣をグレナディーヌの端まで描くのにそれなりの時間を要するのは周知してくれ」


 何事にも準備が必要だ。しかし問題は、ラウニャドールがこちらを待ってはくれないこと。備えている段階で襲撃されれば太刀打ちできない。

 ディートリヒをはじめ、騎士団長達の表情はずっと渋いままだ。


「現段階でラウニャドールの襲撃が考えられる期間はいつだ?」

「ラウニャドールだけが地上に現れるなら最短でも三週間、侵蝕が地表まで到達するなら一年以上かかる見込みだ」


 アルデバランの見込みを元にすれば、三週間後にはラウニャドールと対峙できるようにしておかなければならない。

 数字だけ見れば十二分に時間はあるように感じるが、やるべきことの多さを考えると全く余裕は感じない。


「……今年の星祭りは中止するべきでは」


 誰もが薄々考えていたことを、蒼狼騎士団長のバーステス侯が呟いた。

 それが妥当だ。そうすべきだ。他の騎士団長もそう続けようと口を開いたところに、一人の青年が異を唱える。


「駄目だ。星祭りは開催する」


 発言の主はジクター。この会議に新たに参加することとなった王太子の発言に、何人かが呆れたような表情を見せた。


「殿下、お気持ちはよく分かりますがこのような状況では難しいかと」

「では、君達は中止の理由を民になんと説明する気だ?」


 ジクターが一人一人の顔を見回す。彼とて、決して楽観的な気持ちで開催を支持しているわけではない。


「ラウニャドールが襲撃してくる可能性があるからやめると、そう話すのか? まだ未確定のことの方が多いのに、無闇に民の不安を煽るつもりか?」


 そんなことを言えばどうなるか。勝手な推測や悪意ある憶測まで飛び交い、尾ひれのついた話が余計な混乱まで生み出すことは目に見えている。


「中止の判断はもっと状況が明らかになり、民の総避難が必要だと考えられる時だ。それまでは星祭りを開催する方向で動く。当然、魔塔側にも相当の協力はしてもらう」

「……」


 ロゼアリアがそっとアルデバランを見る。反対するだろうと思っていた彼は、どういうわけか何も言わずにジクターを見るだけだった。

 今日の会議でも大したことは何も決まらず、ベーチェル公爵家からどんどんと人が出ていく。


「この状態でどうやって開催できるって言うんだ」

「殿下のお立場を考えれば、そりゃ開催するって言うだろう」


 やれやれ、という様子で会話する声も聞こえてきた。全ての騎士団長がジクターに対し好意的であるわけではない。彼の立場については、貴族であればある程度は分かっている。


「魔塔の主殿」


 アルデバランを呼び止めるジクター。目の前の青年が王太子であるにもかかわらず、アルデバランは面倒臭そうだ。


「少し二人で話がしたい」

「ロゼ」


 二人で話したい、というジクターの要望を即座に無視してロゼアリアを呼ぶ。そんなアルデバランに当然のごとくジクターは眉をひそめた。

 国王によく似た黄金の瞳がロゼアリアを捉える。


「私は貴殿と二人で話がしたいのだが」

「俺はお前と二人で話したくない」


 両者の視線がぶつかる。おまけにアルデバランは堂々とジクターを見下ろすのだから、見ているこちらが気が気でならなかった。


「アルデバラン、殿下は貴方以外に聞かれたくないお話があるかもしれないの」

「知るか。俺が信用してる人間はロゼだけだ。それ以外の奴の頼みを、なんで聞く必要がある」


 人の気も知らずによくもまあ。ジクターの前でなければ頬を緩めていたかもしれない。


 しかしアルデバランはともかく、ロゼアリアは王族に敬意を払わなければならない立場。さらに、ロードナイトは王太子派だ。アルデバランに誘われたからといって、「魔塔の主が言うなら、じゃあ」とついて行くわけにはいかない。


「殿下に呼ばれてない以上私は行けないの。アルデバランが一人で行かなきゃ」


 ロゼアリアが言うと、アルデバランが鼻で笑った。魔塔の主でなければ確実に投獄されている。炎が挑発的にジクターを見た。


「つまりお前は、自分を信用してない魔法使いと二人きりになる度胸があるってことか? 大した奴だな。そこまで俺を信用してくれてるとは」

「アルデバラン!!」


 真正面から王太子を皮肉る魔法使いのローブを思いっきり引っ張る。度胸があるのは一体どちらか。もちろん褒められたことではない。

 ジクターの眼光は冷たかったが、彼がアルデバランの言動を咎めることはなかった。魔塔がグレナディーヌの支配下に無いことをジクターは弁えていた。


「……分かった。彼女の同席を許可しよう」

「だそうだ。よかったな」


 ロゼアリアは一言も「同席させてほしい」とは言っていない。アルデバランはジクターに感謝を述べるべきだというのに、まるでその素振りは無い。


「ジクター王太子殿下、寛大なお心遣いに感謝いたします」


 代わりにロゼアリアが礼を述べた。同席する許可は得たが、ここまでの流れで彼らと会話を交わすのは肝が冷える。

 深く頭を下げるロゼアリア、ジクターがもう一度視線を向ける。


「随分と彼女を気に入っているようだな」

「まあな」


 理由はロゼアリアが唯一秘密を知っている相手だからだ。アルデバランの声を聞いて弾んだ胸に、ロゼアリアはそう言い聞かせた。


 ジクターは三人以外の人が退室するのを待つ。心配そうな表情でこちらを見つめる父に、ロゼアリアは「大丈夫」と手を振って示した。


「アルデバラン、念の為外に話が聞こえないようにしてくれる?」

「構わん」


 アルデバランが頷き、指を鳴らす。これで聞き耳を立てられても問題ない。


「で、どんな大層な話をしようっていうんだ?」

「アルデバラン」


 わざわざ不敬な態度を取らないでほしい。ジクターと関係を悪くしたところでアルデバランにメリットも無いだろうに。


「率直に言う。魔塔に私の後ろ盾になってもらいたい」

「断る」


 低い声で即答したアルデバランは、不機嫌を通り越して激怒しているのが分かった。


「王族の後ろ盾? ふざけるな」

「ふざけてなどいない。真剣に話している」

「お前の脳は花畑でできてるのか? 王城ってのは何も教えないんだな? ええ?」

「アルデバラン落ち着いて」


 ラウニャドールへの対抗策を考えなければならない時に、魔塔と王国に亀裂が入るのは避けなければ。

 だがアルデバランが怒る理由も分かる。彼は魔法使いが不当に扱われることを決して許さないのだから。


「私が王太子という立場を強固にするには、もっと力を付けなければならない。そのために力を貸してほしいだけだ。もちろん、望むだけの報酬は払うと約束する」

「俺達を馬鹿にするのもいい加減にしろ。報酬? いるかそんなもん」


 このままではアルデバランがジクターに手を出しかねない。慌ててロゼアリアが両者の間に割って入った。


「お言葉ですが殿下、魔塔はこの三百年グレナディーヌとの交流を絶っていたのです。今すぐ殿下にお力添えするのは難しいかと」

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