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土産話

 ザジャの旅はあっという間だと思ったが、それでも故郷の景色は懐かしく感じた。

 飛行船を降りたロゼアリアが伸びをする。太陽の光が気持ちいい。


「んー、すごく久しぶりな感じがする!」

「グレナディーヌを離れたのは初めてでしたからね」


 故郷の空気を胸いっぱいに吸い込む。しかしゆっくり休む暇は無い。今回の遠征の報告をすぐ国王にしなければ。

 一息つく間もなく馬車に乗り込み、そのまま王城へ向かった。


「なんで俺まで」

「当事者だから」


 無理矢理馬車に詰め込まれたアルデバランが、酷く不満そうにしている。背の高い彼はとても窮屈そうだった。

 王都グレナディアの中心に建つ白い城壁。城門前に毅然と立つ兵士が馬車を確認すると、至極重たそうに巨大な城門が左右に開いた。

 噴水を迂回し、馬車が停車する。


 国王陛下とこうして対面するのは初めてで緊張する。いつもは王室主催の舞踏会で姿を見るだけだったから。ロドニシオがいて本当によかった。

 あとは、アルデバランが無礼な口を聞かなければいいのだが。


「行こっか」


 ロドニシオに続き、一行は衛兵の案内の元王城の中を進む。光沢のあるカーペットを歩き、謁見の間へ。衛兵が一行の到着を知らせ、国章が施された扉が開いた。


「──ザジャからよく戻った」


 広い空間が広がる先、真っ直ぐに伸びた赤いカーペット。その奥、壇上の玉座に悠然と座る御方こそ、ダリオット・レムリアン・グレナディーヌ。第十三代グレナディーヌ国王、その人だ。


 蘇芳の髪は半分以上白が混じっているが、金色(こんじき)の瞳に宿る威厳は未だ衰えていない。


 ダリオットの隣には青年が座っている。白銀の髪色は国王とは違うが、金の瞳がよく似ていた。

 ジクター・アクロアイト・グレナディーヌ。この国の王太子だ。


「グレナディーヌ唯一の太陽、国王陛下。並びにグレナディーヌの若き太陽、ジクター王太子殿下にご挨拶申し上げます」


 皆を代表してロドニシオが挨拶をし、それに続いてロゼアリア達は跪く。アルデバランだけがそのまま立っていた。


「む? そうか、貴様が()の魔塔の主殿か」

「ああそうだ。魔塔は俺が取り仕切っている」


 ダリオットの前でなければその黒いローブを思い切り引っ張っていたところだ。いくら魔塔が王家に忠誠を示す必要が無いとはいえ、国王への無礼を許容できるわけではない。


「カルディスの娘が交渉を成立させたと聞いていたが、なにせ三百年はなんの親交も無かったのだ。こうして目にするまではなかなか信じ難くてな」


 興味深そうにダリオットがアルデバランを観察する。黄金と炎が静寂の中でぶつかった。


「王家に信用される必要は無い」

「無論、こちらも魔法使いを簡単には信用せぬ」


 束の間の静寂、張り詰めた空気にロゼアリア達は息を呑む。だがダリオットとてここでアルデバランとやり合うつもりはない。未だ(こうべ)を垂れたままの一行に、ダリオットは和らげた視線を向けた。


「して、貴様らはザジャの皇帝と話したそうだな」

「はっ。クシャ帝より、陛下にこちらを預かっております」


 ロドニシオがクシャの書状を衛兵に渡した。衛兵がそれをダリオットの元へと運ぶ。ザジャとグレナディーヌが同盟を結ぶという内容のものだ。普通に考えれば、グレナディーヌにとってそれほど悪い話ではない。


「……同盟か」

「陛下。ザジャ帝国は間もなく皇位継承戦が始まります」


 ロドニシオの言葉にダリオットの眉がピクリと動いた。


 皇位継承戦を控えた今、持ち掛けられた同盟。その意味をダリオットも分かっていた。


「……なるほど。たしかに受け取った。この書状を渡して来たということは、ザジャは交渉を保留にしたわけか?」

「いえ、各国の管理者(エリュプーパ)に声をかける、とのことでした」

「ふむ。事は順調に進んでいるようだな。あとは、マヴァロに黒翼騎士団を派遣する。そうだったな?」


 ダリオットがカカルクを見る。


「はい。その際、アルデバラン殿が祖国まで転送してくださると伺っています」

「魔塔の主の協力には余からも感謝を示そう。マヴァロの使者よ、帰国までの間ゆっくり休むと良い」

「ありがとうございます」


 クシャからの書状を渡し、無事ダリオットとの謁見は終了した。ようやく帰って休むことができる。


「このままうちの馬車で送ってもいいけど、ロゼはどうする? もう伯爵家の馬車を呼んでる?」

「ありがとうロディお従兄様。呼んでないけど、せっかくだから王都を回ってから帰るわ」

「元気だねぇ。今日はしっかり休むんだよ。カカルク君達は俺が送ってくよ。アルデバラン君は?」

「問題無い。転移でいつでも帰れる」

「じゃ、ここで解散だねえ。皆お疲れ様〜」


 馬車に乗り込むロドニシオ達を見送る。ここのところずっと行動を共にしていたから、呆気なく解散してしまったのが少し寂しかった。


「……アルデバランももう帰る?」


 隣に立つ長身の男を見上げる。彼のことだ。聞くまでもなく「帰る」と言うだろう。


「そのつもりだが、一緒に来るか? リブに土産を渡さなきゃだろ?」


 まさかアルデバランが、そんな提案をしてくれるなんて。リブリーチェの土産は全てアルデバランが持っているから、わざわざロゼアリアが魔塔へ行く必要も無いのに。

 思わず、ロゼアリアが数秒目を瞬かせた。


「一緒に? いいの?」

「俺一人で選んだ土産じゃないのに、俺だけが渡すのもおかしいだろ」

「そんなことは無いと思うけど、じゃあ行く」


 久しぶりの魔塔だ。冒険の時間が延びた気がしてわくわくした。


「お嬢、王都は回んなくて良いんスか?」

「また今度にする! フィオラも一緒に行こう!」

「わ、私まで良いのですか?」


 これまで魔塔へは行ったことの無いフィオラ。ロゼアリアに手を引かれて慌てている。


「ね、フィオラも一緒でもいいよね?」

「今さら一人増えたところで変わらん」

「ほら、アルデバランもそう言ってるし! 一緒に行こ!」


 アルデバランが指を鳴らす。次の瞬間には後ろに王城は無く、目の前に黒い塔がそびえ立っていた。


「えっ! ここは?」


 急に景色が変わり、狼狽えるフィオラ。


「アルデバランの転移魔法で魔塔まで移動したの。馬車より全然早いでしょ?」

「比べるまでもないだろ」


 そんなものと比べるなとばかりにアルデバランが口を挟む。その横で、初めて魔塔を間近で見るフィオラが圧倒されていた。


「これが魔塔……」

「フィオラこっち!」


 門の前まで駆けるロゼアリアをフィオラとオロルックが追う。その姿はまるで、すごいものを友人に見せびらかせたい子供のようだ。

 魔塔の主の代わりに友人を案内する少女の後を、本来の主はゆっくりとした足取りで歩いていく。


「お、お嬢様、本が宙に!」

「すごいでしょ? ちゃんと片付けないとアルデバランに怒られるんだって」


 フィオラの反応が新鮮で楽しいロゼアリア。何かを紹介する度に驚きを見せてくれる。

 あれもこれもとフィオラに話していると、懐かしい声がかけられた。


「あ!! おかえりなさい!! 僕ずっと待ってたんですよう!」


 リブリーチェが目を輝かせてこちらへ駆け寄ってくる。


「リブ!」

「ロゼ姉さんにオロルックも! あ、主様も帰ってたんですね!」


 順番にロゼアリア達の顔を見るリブリーチェが、最後にフィオラを見て首を傾げた。


「新しいお姉さんですか?」

「リブ、この子はフィオラ。私の侍女で友達なの」

「ロゼ姉さんのお友達だったんですね! 初めまして、僕はリブリーチェです!」

「いえいえ、こちらこそ初めまして! いつもお嬢様とオロルックがお世話になっております!」


 礼儀正しくちょこんとお辞儀をするリブリーチェに慌ててフィオラもお辞儀を返す。

 いつもの席にフィオラも加わった。久しぶりの再会にリブリーチェがずっとにこにこしている。


「リブにお土産をたくさん買ってきたの。アルデバランが持ってる」


 アルデバランがローブの内側からザジャで買った土産を出す。初めて見るお菓子に、リブリーチェの表情がさらに輝いた。


「わあ、美味しそう!」

「好きな物から食べてみて。私も市で色々食べたけど、どれと美味しかったわ!」

「じゃあ、今日はこのお菓子でお茶にしましょう!」

「お茶でしたら、私がお淹れいたします」


 フィオラが慣れた動作でお茶を淹れる。ザジャのお菓子にザジャのお茶。それらを味わいながら、ロゼアリアはリブリーチェにあの国での出来事を話した。

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