第1話 ブラック・ドッグ・ビー
むかし、むかし、あるところに一人の青年と黒い犬がいました。
青年は誠実で賢くて、仕事で小屋にいない時以外は、黒い犬のことを『ブラック・ドック・ビー(黒い犬のビー)』と呼んで、子供のように、とても、とても、かわいがっていました。
ミニチュアダックスフンドの黒い犬は、青年を親のように慕って、懐いていました。
一人と一匹は、大きな街はずれの草原に浮かぶ、小さな小屋に住んでました。
青年がそこに住んでいるのは、蒼い光を放って夜だけに咲く美しい花『ツキヨビジン』が、小屋の真下に群生していて、その美しさに魅了されていたからです。
ある時、一人と一匹が小屋でいつものように過ごしていると、一人の老人がやってきました。
「近所に住んでいるものなんだが、しばらくの間、入院するために家を留守にする。
留守の間、飼っている犬を連れていけないから、良かったら預かってもらえないか」
と老人は言いました。
初めて経験なので青年は返事に困っていると、その老人の後ろから白い犬が顔をのぞかせました。
つぶらな瞳をした、小柄で愛くるしい見た目のチワワでした。
「この子は『ビギ―』と言うんだ。可愛いだろう。
もちろんお礼は、はずむ。どうだろう、頼まれてくれないか」
老人の説得と、チワワの見た目に負けて青年は承諾しました。
一人と一匹は、一人と二匹となり、老人が留守にしているしばらくの間、仲良く楽しく過ごしました。
青年は二匹を膝に乗せて、小屋にぶら下がったブランコで遊ぶこともありました。
白いチワワのビギ―は、ビーと仲良くなり、老人が留守から帰ってきてからも、二匹は時折、青年の小屋で遊ぶ親友となりました。
そうして平和な日々は、しばらくの間続きました。