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第九話 ドキドキと止まらない!鳴り石も止まらない!

 話ををまとめましょう。


 ライモ様はお城でとんでもない迷子になります。食堂に行こうとして謁見室の天井に登ってしまうのです。なのでライモ様には常に案内人が必要です。

 ライモ様支援チームのリーダーのダニエルさんが、そのお役目についていらっしゃいます。


 ダニエル様とライモ様は、叩くと音が鳴る石を二つに割って、それぞれ片割れを持っています。


 片方の石を叩くともう片方も鳴り、これは呼び出しとしてよく使われます。また、ライモ様が迷子になったときに石を叩くと、石は共鳴しあって片方も鳴り、近づくと音が大きくなるため、自分の居場所を教えることもできます。


 モールス信号のように叩くと音はリズムをもち、情報を発信することもできます。


 という便利で不思議な石のミステリー、開始です。

 二つに割ったと思われていた石は、実は「三つ」に割られていたのです。


 ダニエルさんはとても驚いています。蒼白になり額に手を当てています。この事実に今、気づいたようです。


 さて、ライモ様は?

 さっきまでダニエル様に甘えていたのに、いない。また天井に行ったのかな、と見上げるもいません。


「…………俺の耳が良いと過信しすぎたな。クソっ、あいつ。だいたい、おかしいと思っていた。なぜ都合よくライモが迷子になると、特定の人物がライモの居場所を教えてくれていたのか。その階層をたまにしか利用しない者たちだった。偶然にしてはできすぎていると」


 ダニエルさんが言って、天井を睨みます。


「出てきなさい、ライモ! 俺はおまえから石をもらった。石に細工をしたのはおまえだろ!」


 ダニエルさんが怒鳴り、胸ポケットから紐で編まれた石を出して指で叩きました。


 リーン、リーン、リーン。


 複数の音が聞こえてきます。廊下から足音が響き、私は一歩下がって壁に背中をつけます。


 絨毯がボコっとふくらみ、それは高速に移動して絨毯からはい出てきました。

 黒いローブに太い三つ編みおさげの女の子で、分厚いレンズのメガネを持っています。

 彼女は石のかけらを掲げて、ぎゃっははははと高笑いしました。


 パラパラと彼女から砂が落ちていて、よく見るとローブは泥だらけ。三つ編みの間に小石が挟まっていて、雨上がりの運動場のような臭いがたちこめました。


「石を加工したのは、この宮廷魔術師のヒガラ様だ! どうだーどうだー巧妙な加工だろう。鳴り石研究には金をかけるべきだろう。宮廷魔術師への費用を上げろ。ダニエル、出世したければ、わしと手を組むとよかろう?」


 ヒガラ様は高笑いして、ダニエル様に近づきます。

 ダニエル様はガッとヒガラの頭をつかみました。


「おい、災厄の魔術師め。おまえと手を組むなら、一生あの甘えん坊の世話をしていた方がまだマシだ。さっさと地下に帰れ。費用はもう存分に与えている、無駄遣いをするおまえが悪い」


 ぐぬぬと抵抗して腕を振り回すヒガラ様の手首をつかみ、ダニエル様は石の欠片を取り上げると床に投げつけて踏みつけました。鳴り石の弱点は硬度の低さです。石は砕け散りました。


「頭の硬い奴だな、まったく。わしが諦めると思うなよ。おまえが頭を下げて大金を積んででも買いたいと思う魔術道具を作ってやるからな!」


 ヒガラは怒鳴り、また絨毯に潜ってガタっと音をさせて消えました。


「さぁ、鳴り石で歩いてきた人たち。お入りください。そして石は没収します。事情は説明しなくて良い。ライモに洗いざらい白状させます」


 淡々とダニエル様がおっしゃると、ぞろぞろと謁見室に人々が入ってきました。


「まさか新人メイドにバレると思うとは。アレサ、あなたってとても耳が良くて勘が鋭いのね。やるじゃない」


 私はその方を見て、さらに後退しなければとじたばたしました。もうすでに背中は壁にひっついているので、これ以上は下がれないのですが。


 アイラ様です。


 ライモ様とダニエル様しか持っていなかったはずの鳴り石のかけら、その一人目はアイラ様でした。アイラ様は堂々と謁見室に入ってきて、私たちに微笑みかけました。


「夫の居場所をどうしても知っていたかったの。あなたはよく知っているでしょう、ライモがどんなに危なっかしいか。迷子になって心細いライモの元に駆けつけて、ぎゅっと抱きしめたくて」


 アイラ様、わかりますよ。さっき迷子だったライモ様、ダニエル様に抱きついたときめっちゃかわいかったです。


「ライモが一日に何度城の中を移動したかだけでも知りたい。ねぇ、ただ持っているだけではダメかしら。あなたの打つモールス信号のリズムって、とても切れ味があって、ただ音楽として聞くだけでも耳にいいのよ」


 アイラ様が続けておっしゃいます。

 ああこれ、駄々をこねてますよ。それも堂々と。

 ぎゅっと握った拳の中には欠片があるのでしょう。


「夫婦といえども行動のすべてを把握する必要はありません。あなたは女王です。ライモの案内は俺の仕事であり、あなたが鳴り石を持っていると私が混乱してライモ様の案内に支障をきたします。没収です」


 ダニエル様は女王相手にも怯むことなく、手を差し出しました。


 アイラ様は人差し指で顎をおさえ、しばし考えてから石をダニエル様に渡しました。むっとした顔で足早に去っていきます。

 愛する人の居場所をずっと知っていたい――お気持ちはわかりますが。


 次はジーモン様でした。親離れできてない重症度が上がりました。


 ジーモン様はダニエル様に石を渡し、けほんっと咳払いをしてから「すまなかった。私もアイラ女王と同じくだ」と言って去りました。


 次に現れたのは初めて見る方です。高身長でスキンヘッド、褐色の肌をした女性。細い腰に剣を帯び、黒い皮のベストに赤色の丈の短いジャケット、赤いズボンに編み上げのロングブーツと騎士のようです。


 続いてロリータ服の美少女が登場。栗色の髪は見事にスパイラルしたツインテール、白ロリータでパニエはふっくら。


 さらにゆったりと歩いてこられたのは、妖艶な貴婦人。デコルテが美しい藤色のドレスは体の曲線を際立たせています。たれ目で微笑まれていると色気が香り立つお顔。金髪のショートボブにはくっきりと丸まったパーマ。


「―――三官女のあなたたちには、がっかりです。予想外でした。エルサ様、リディア様、ノラ様。あなた方は私にお聞かせください。なぜこんな無駄なことを」


 ダニエルさんは心底がっかりした顔で言いました。

 なんと、女王側近の三官女の皆さんと、こんな形で初対面とは。


「アイラがすぐに『ライモはどこにいる、ライモは何をしている』とうるさいのよ。ライモとアイラが城でうっかり会ったら、アイラがライモを構って政務スケジュールに遅れが出る。だからアイラより先にライモを見つけて、引き離すためよ」


 ロリータツインテール美少女がきっぱりと言います。


「リディア様、あなたのおっしゃることはもっともだ。強く賢く優しい女王の弱点は夫への過干渉です。愛しあわれることは素晴らしいが、仕事中はやめていただきたい。そしてジーモン様の息子離れできていないこともまた仕事の妨げです。よって、リディア様は石を持っていてください」


 ダニエルさんはロリータ美少女、リディア様にはすぐに納得しました。


「そうね。今後も三官女でライモとアイラを引き離す。けれど、あなたと話をしていなかったことを謝ります。混乱させてごめんなさい。ライモが『ちゃんと伝えた』と嘘をついたのを見抜けなかったわ」


 リディア様が謝ると、ダニエルさんは頭を下げました。


「いいえ、私の確認不足です。リディア様、ノラ様、エルサ様、今後もお願いします。石のことは、そこにいる新人メイドのアレサが気づきました。隣にいるのがミーナです」


 ダニエルさんから紹介され、私はペコペコと頭を下げました。


「チビのお嬢さんがリディアで女王の秘書、乳がでかいのがノラ、外交と情報担当。ハゲが女王護衛のエルサだな」


 アレサ、初対面で失礼ぶちかますのやめられないんですね。

 リディア様がこちらに歩いてきます。ノラ様とエルサ様も。私は壁に埋まりたい気分です。


「気づいてくれて、ありがとう。よくやったわ。いきなりこんな厄介事に巻き込んでごめんなさい。この通り、うちの城は面倒臭い人間が多いのよ。私だったら『龍殺しの夫婦と、その義父が世話の焼ける奴だ』とわかってがっかりするけど、大丈夫?」


 リディア様が眉をひそめて問いかけます。


「いや、別に。私はミーナみたくライモとアイラ女王に憧れ持ってねぇ。まぁ英雄も人間ってことだ」


 アレサが答えます。私も答えないと。


「わ、私は、その、とととと、尊いと思います!」


 私が叫んだので、三官女さんたちは目を丸くしました。


「あの、えっと、ライモ様もアイラ女王もとっても仕ごでき…………いやいや、とても仕事ができて素晴らしい国作りをしてらっしゃって、龍も討伐したけれど、やはり人間なので弱点はあります。アイラ女王もジーモン様もとてもライモ様を愛してらっしゃって。それに三官女の皆さんも、やはり……なんというか、お二人を遠ざけるのもきつく言ったりしないで、避けさせようとすることにも愛を感じましたっ!」


 はっ、またやってしまった。初対面の人にも熱烈語り。


「まぁ、ミーナさんはとても優しい方ね。そして『尊い』ですね。うん、尊い。いいですね」


 ノラ様に微笑まれて、私の心はとろけそうです。この方が外交官なの、わかります。濃密なたらしの気配。


「私はハゲではない。剃っているんだ」


 エルサ様が言いました。あ、この人やっぱりちょっとズレてる。


「と、いうことで。ライモ、お仕置きの時間よ!」


 リディア様が可愛い顔をクワっと怖い顔に変えると、なんと壁を走り出しました。そして天井の端をドスっと殴ると、天井から白い塊が落ちてきました。


「いっっったぁぁ! リディア、大学で壁走ることまで学んでるの、すごいね!」


 床に倒れたライモ様が、ふて腐れた顔で怒鳴りました。

 すかさずリディア様の鋭い蹴りがライモ様の腹を撃ち、吹っ飛んだライモ様をエルサ様が受け止め、脇の下に腕を差し込み、羽交い締めにしました。


「さぁ、全部、正直に話すのよ、ライモ」


 ノラ様がライモ様の顎をつかみ、クイっと持ち上げます。


 ――顎クイきたー。


 はっ、まだまだ修羅場は続きます。

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