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第三話 メイドリーダーが変態体質なんてOMG

 五体投地。

 転生する前の、私の悪い癖が出てしまいました。

 わたくし、生前の名前を美奈子と申します。


 あのね、私が知っている転生モノの女の子って、スペシャル・プリティー・ブリリアント・ビューティーで、王女とか聖女とか、なんかそういう華やかな感じで、イケメンから言い寄られて「ひゃっほー!」ってなるんですよ。


 でも、私、美奈子はミーナと名前もドン被りで、生前の鈍臭い泥付き芋女からなんにも変わってねーですよ。


 いや、しかし!!!


 私は自分のビジュアルなんてどうでもいい!!!

 尊いビジュアルの人を推す人生こそ、自分らしいって転生前から思ってました。アイドルから二次元、2.5次元、フィギュアスケートまで、男女問わずあらゆる推しを、狭い昭和風味の居間の4Kテレビで観ては、畳に五体投地して叫んでいたのです。


 ギャルには何度もこう言われました。


「それ、思わず外でやるのやめてね。キモいから」


 父からは、


「あの……お父さんが大ミスしたときの、社長への土下座思い出すからやめてくれ……」


 母からは、


「ちょっっっ!!! 踏むとこだった!!

 あんた何やってんの? 新しいヨガ?」


 とまで言われ、「自分の部屋でそれはしなさい、家族に五体投地は見せないで」と家族会議で決定されたのでした。


 いきなり、お尻が痛っ!


「やめろ、みっともねぇ! なんで土下座したんだよ! 土下座っていうか、ミーナおまえカエルみたいにべたーって床に張り付いてたぞ、どういう感情だーよ、それ。ほら、はよ立て!」


 アレサが私のお尻を蹴飛ばしています。

 私は床につけた手のひらを上げて、ゆっくりと立ち上がります。


 尊き龍殺しのご夫婦は、目を丸くしています。


「だ、大丈夫ですか?」


 ライモ様が細い眉をひそめて、私を見つめています。


「具合でも悪いの? なんか……すごく床にへばりついてたけど……」


 アイラ様が心配そうな顔で、私を見つめています。


 オーマイガー!


 やっちまった!!!


 握手会でもあれだけ耐えてきたのに!

 推し本人の前で絶対に五体投地はダメって、自分に言い聞かせてきたのに……!


 転生して夢のようなファンタジー世界で、とてつもなく美しいご夫婦を目の前にしてテンション爆上がりのミーナでした。


 恥ずかしい!!!

 でも、推しの心配してる顔は見ていられないので、なんとかここを切り抜けて、私はこのお城のメイドになるのよ。夢のホワイト企業に転生しなきゃ、生前のしんどさが報われません。


「あ、あ、あ、あのー……ちょっと緊張して。へへへ、あの、たまに緊張が限界を超えると、そういう癖が出まして。大丈夫です、はい、ご心配おかけしてすみません」


 私はぺこぺこと頭を下げて言います。


 癖って言っちゃった。

 緊張すると床にぺたーってカエルみたいに五体投地するって、やばいキャラ付けしてしまった。


「ああ、そうなんだ。よかった。変わった癖だけど、床に頭を打たないようにね。顔色よさそうで安心した。さて、メイドリーダーのところに行こうか」


 ライモ様が微笑んでおっしゃいます。

 頭を打たないようにって、気遣いやばいですよ……。こんな虫も殺せなさそうな人が、本当に龍を殺したのかしらって疑ってしまいます。


「人っていろんな癖があって、おもしろいよね」


 アイラ様も笑ってくださいます。しかし、きゅっと目尻を上げて言いました。


「あのね……うら若いお嬢さんたち、メイドリーダーには気をつけて。あらゆる意味で変態だから。でも、仕事はできるし、便利な男ではあるんだ。あいつは」


 アイラ様が忌々しそうに言います。


「なにそれ! ここ、すっげーメイドの待遇いいって聞いてたのに、女王が“変態”って何!? メイドリーダーってやべーじゃん! どうしよ、辞めよかな?」


 アレサが腕を組んで考え込みます。

 私もつられて腕を組みます。


 あらゆる意味で変態とは。

 怖いとかじゃなくて、変態。

 というか……


「メイドリーダーなのに、男なんですか!?」


 私は叫んでしまいました。


「あ、うん……男のメイドなんだ。アイラの言う通り、あらゆる意味で変態だけど、すごくいい奴で、僕の相棒でもある。あの、待遇は本当にいいから! 研修期間の3ヶ月は寮も無料で使えるし、お給料もいいよ。ぜひ、うちで働いてほしい」


「ふむ、3ヶ月タダ暮らしはいいな。そんで、男のメイドで変態ってのがどんなもんか、まあ見てやろうぜ」


 アレサがニヤリと笑って、私の肩に手を置きます。私もうんうんと頷きます。


 ライモ様の相棒なら、そんなに悪い人ではなさそうな気がいたしますが……

 変態さんにもいろんな種類があるわけで、一体どのような変態さんなのか……。


「はっはっはっは! ようこそ、アステール城へ! 珍しい人の匂いがしたから来てみたら、他国からの新しいメイドさんとは嬉しいぞ!」


 大きな声で笑いながら、赤い階段の真ん中を堂々と降りてくる大柄な男性は、ハリウッド俳優のようなハンサムさんではありませんか。


 赤茶のきれいな長髪をひとつに束ね、頭には白のフリルヘッドドレス、黒いシャツとズボンの上に、白いフリルがふわっさーとついたデザイン重視のロングエプロン――ピナフォア。


 わー、ほんとに男のメイドがいらっしゃった!


「俺の名前はオー! 嗅覚は犬以上、味覚は汗を舐めればその者の体調と感情がわかる特殊体質。そして君たちの匂いを嗅いでわかったが、修道女ではなくスメラ国の元メイドさんたちだな!

 人手が足りなくて困っていたので、経験者さんは嬉しいです。ミーナさん、アレサさん、よろしくお願いします!」


 オーさんがエプロンのフリルを華麗につまんで、膝を折り、お嬢様のお辞儀をなさいます。


 あの、情報量多くてついていけません。


「え…………嗅覚が犬以上? 汗を舐める? 匂いで私たちの正体がわかった? え、名前もなんでわかって……」


 さっとアレサが私の背後にまわり、肩にあごを置いて抱きついてきて、「こいつ、気持ち悪いぞ」とぼそっと呟きました。


 アレサが……怖がってる。


 OMG。

 変態とは、えっちな意味ではなく、元々は「生態系が変化すること」を意味します。


 オー!

 この人は――


 人類の変態!!!

 

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