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第二十二話 百足のダンスシューズと国会エンタメ計画

 アステールの国会開催日はお祭りです。

 午前は国会議会、午後からはライモ様によるショーと立食パーティーやお茶会、夜もライモ様によるショーが行われます。


 国会議事堂は立ち見が出るほどの人気で、より多くの国民が議会を見られるようにと増設中です。


「ほらほら見て! 猫に変身できるなら猫と人間の間もできるだろう。猫耳、尻尾、よし、かわいい」


 ライモ様は鏡の前で腕を組み、自画自賛なさってます。

 かわいい。

 黒くて大きな猫の耳、ふわふわの尻尾。

 元から生えてましたね、というぐらい違和感がない。


「だけど、こっからが特訓。耳と尻尾は魔術を使ってるから、結構、体力使うんだよね。でも猫のようなしなやかさで、ジャンプ力もあるダンスじゃないと」


 ライモ様が何か言ってほしそうに、ダニエル様を見ます。

 ダニエル様は足を組んで、ノートにイラストを描いています。

 しかめっ面のおじさんとつるん禿げ頭。

 ダルビン、ソビーと名前が書かれています、似てるなぁ。

 ダニエル様はその二人の似顔絵にバツ印をつけて、ライモ様に見せました。


「そんなことより、こいつらはこうだ。わかったな、宮廷道化師」


「…………うん。わかってる。でも嫌なんだ、あの二人の僕を見る粘っこい視線」


 ライモ様が目を伏せます。


「でも、おまえなら口で奴らの鼻を明かせるだろう。情報班にこいつらのことを調べさせる。ろくでなしのクソ貴族だ、叩けば汚いゴミが出てくる。情報は握る。見世物は魅せる。役割を取り違えるな」


 ダニエルさんは鋭い目つきで言います。ライモ様を侮辱されて、誰よりも怒っている。


「うん、ありがとう。じゃあ、僕はダンス室にこもるから」


 ライモ様が道化師の衣装のコルセットを外すと、ブラウスの後ろについたクルミボタンをダニエルさんが外します。


「ちょ、ちょっと! 着替えるなら言ってくださいよ!」


 私は大声を出して、慌てて後ろを向きます。


「ごめん、いつも周り男だったから忘れてた! ごめん、ごめんね」


 ライモ様の綺麗な首筋、背中を見てしまった。うう、これは忘れなさい、記録してはいけないわよミーナ。


「じゃあ、レッスンしてくる。今日は二時間、いや、三時間後で」


 ライモ様は体にぴったりとしたシャツと、緩いズボン、バレエシューズという服装に着替えられました。そして執務室の中にある小さな木製のドアを開けて入っていきました。


「この部屋はライモしか入れない。俺も、アイラ女王も、彼は決してダンスレッスンを人には見せない。まぁ、こっちに座って待っていてくれ。茶会にも行ってもいいし、ここにいてもいい。ライモは三時間は戻ってこない」


 ダニエルさんに言われて、私はソファーの端に座りました。


「俺は…………あいつが恐ろしいこともある。宮廷道化師として政治批判と国会の盛り上げ役、民衆を楽しませるためのエンターテイナーとしての役割。あいつはその二つができる。政治を楽しくしたい、誰でも参加できる政治にしたい、がライモの矜持だ」


「すごいですね。どっちかだけでも大変なのに」


「百足、ライモが一年間で履き潰したダンスシューズの数だ」


「百足も!」


「ああ、底が擦り切れて、一体どれだけの修練をすればこうなるかと震えるほどだ。ミーナ、俺からも頼む。ライモをありのまま記録してくれ。あいつはただ龍を殺し女王に惚れられただけの男ではない。狂った努力家だ」


 ダニエルさんが木のドアを見つめます。

 床を大きく叩く音が聞こえました。そしてライモ様の怒鳴り声。彼からあんな激しい声が出るなんて、というほどの怒号です。

 そして、床板がギシリと悲鳴をあげる。


「…………席を外してもいいんだぞ」


 ダニエルさんが本を手にして言います。


「いえ、ここにいます。振動は伝わってくるので」


 私は椅子をドアの前に置いて、ぴったりと耳をつけてライモ様の怒鳴り声、うめき声を聞きます。ライモ様は上手く踊れないと、自分自身に怒っているのです。


 見ないかわりに、全部聞く。それが記録係の礼儀です。


 タン、タン、──ドン。

 壁が震え、床板が短く悲鳴を上げる。


 狂気の努力家。ダニエルさんのおっしゃる通りだわ。

 私はその狂気を書き留めるのです。


 三時間後、ダニエルさんがドアを開けると、ライモ様が倒れ込むように出てきました。ダニエルさんが抱え上げて、椅子に座らせます。


 服が濡れるほど汗をかいていて、目は虚ろで口は半開き、額に髪がべったりと張りついています。


 ライモ様はダニエルさんから渡された水をゆっくりと飲み、目を閉じました。そのまま安らかな顔で寝息を立てます。ダニエルさんが汗を拭いてやり、タオルケットをかけました。

 ダンスシューズの底がべろりと剥がれています。


「手がかかるだろう。天才の世話は、まったくやることが多い」


 ダニエルさんは少し嬉しそうに言いました。


 五時に仕事が終わり、私は記録チームの仕事部屋に行きました。マッシーニさんに今日の報告書を書いて、ヘンリーとお互いの記録を見せ合いました。


 ヘンリーの文章は整っており、場所と時間など緻密に記録されています。午後からアイラ女王は農地改革についての資料を集め、官僚を農地へ実地調査に送る指令を出しました。

 午前のライモ様は衣装の打ち合わせ、次の国会答弁の予測をするなど資料作りをされていました。


「まぁ、なかなか読める文だな。乙女ちっくな恋愛小説みたいな文章書いてきたら、どうしようかと思った」


 ヘンリーが言います。


「それがお望みなら、そう書くけど」


 伊達に夢小説を読み漁ってません。


「やめてくれよ。まぁ初日にしてはよくやったな。んじゃあ、お疲れ」


「おつかれさまあ」


 私は、ヘンリーってほんと憎らしいわね、と思います。

 夕食はフィアナさんとメイド寮の食堂で食べることにしました。


「ライモ様の猫耳っ! やだあ、楽しみ。私、猫好きなの。猫ってね、猫って見た目も仕草もすごく可愛いの」


 フィアナさんが頬を赤らめて言います。


「だよねだよね、猫耳ライモ様はやばいっ。ほんと楽しみ」


「そうそう、国会の日は出店も出るのよ。それでアイラ様のお姿を立体的に映し出す魔術書や、ライモ様の絵のポストカードとかも売りに出されるの。この売り上げは寄付されるのよ」


 フィアナさんがわくわくした様子で言います。

 なんと、グッズも手広くやってますね。買わねば、お給料貯めておこう。


「あと、ライモ様とアイラ様のぬいぐるみ、アイラ様の発言記録書とか。とにかく毎回、新しくて良いものが出てるの!」


「それ、とっても楽しみ!」


 国会がこんなに胸弾むイベントになるとは。

 さてさて、楽しみです。

 

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