第二十話 仕事着がおしゃれでもいいんです!
記録係の宴会は小さな居酒屋を貸し切り、飲め食う歌え踊れでそれはすさまじく、私は隅っこで焼き鳥をかじっていました。
フィアナさんは酒乱で、ビール瓶をマイクにして情熱的に愛の歌を歌われました。
しかし翌日、皆は別人のように静々と机に向かっています。
私はまず、制服を作ってもらうことになりました。
「初めまして、新人メイドさん。私はルディ・シュナベール。ふふふ、君はメイド服の王道から外れるかい? それとも伝統的かな?」
ルディさんは赤と黒のストライプのスーツで、肩が尖っています。足が恐ろしく細く、顔は小さくて三角、まぶたは赤色のラメ。
レディ・ガガさんみたい。
「えーっと、地道な伝統系でいいです」
私はおそるおそる答えます。メイド服がオーダーメイドってだけで優遇です。私のような、何を着ても一緒な地道女はオーソドックスがよい。
「んー、本当にぃ? 君はもっと自分を解放しなくちゃあ」
ルディさんが言います。
「え、あ、でもその……」
「ゆっくり決めていいんですよ」
布を裁断している中年女性が、微笑みかけてくれました。
「私はヘレナ、よろしくね。この子は養子のハリスよ」
ヘレナさんは抱っこ紐で赤ちゃんをおんぶしています。まんまるの頭に、茶色の大きな瞳。可愛らしい。
「ルディ、ライモがまたトチ狂ったこと言い出したわよ。次は猫、猫にするって! ばっかじゃないの、止めてよ!」
リディアさんが怒鳴りながら部屋に入ってきました。赤ちゃんのハリスちゃんが泣いてしまうと、リディアさんは赤ちゃんの頭をなでなでして「ごめんねぇ」と謝ります。
「とち狂ってないもん。猫耳と猫の尻尾、かわいい衣装。猫は可愛い」
ライモ様が堂々と言い、その後に続いて歩いてきたダニエルさんは、ため息をついています。
「ふむふむ、猫、猫だね! 白猫かな、黒猫かな。三毛猫、キジトラ……うーん、悩むねぇ。その前に、私はミーナの衣装を作らないといけないのさ。ちょっと待ってくれ」
「いえ、ルディさん! ライモ様の猫衣装を優先でしょっ」
私は鼻息荒く言います。
猫耳、猫の尻尾、可愛いですよ。名案じゃないですか!
「でしょー。次のステージは子供向けのねこねこダンスと、夜はしっとり大人モードなんだ。ハリスちゃーん、今日も可愛い」
ライモ様がにっこり笑ってハリスちゃんの頭をなでようとしたら、リディア様にガードされました。
「ミーナ、制服悩んでるの? 私はミーナは膝丈下のワンピースに、フリルのエプロンが似合うと思うよ」
リディア様に言われて、私は首を横に振ります。
「いえいえ、そんな派手なのは…………」
「派手じゃないよ。好きなのを頼んだらいいの。あなた、ライモとアイラの記録係なんでしょ。派手な二人につくなら、あなただって思いっきり派手にしてもいいんじゃない?」
リディア様に言われて、私は口ごもります。
今日のリディア様は薄黄色のワンピース。リボンにフリル、レース。私の好きな世界観のお洋服。
「ふふ、視線はキュートで素直だね。どうだろう、こういうのは」
ルディ様が立ったまま、紙にものすごい速さでデザインを描きました。
膝丈のワンピース、襟は白で小さな白いリボンつき。肩のフリルは大きくて、裾にもたっぷりのフリルがついたエプロン。ポケットは三つついています。
「す、素敵。あの、リボンがとても可愛い。これで…………いいのかしら」
「いいに決まってるじゃない。絶対に似合うよ、ミーナ」
リディア様に力説され、私は照れ隠しでうつむきます。
「よし、デザインは決まったな! では裁縫しよう」
オー様がどこからともなく、登場しました。この方の突飛な出現に慣れた私です。
オー様は裁断して、勢いよくミシンがけを始めました。
「オー、次の僕の衣装は猫ちゃんにするんだー。どんなのがいいかなぁ」
「猫、猫はかわいい。良いな!」
ライモ様に話しかけられても、オー様の手は止まりません。
「ふん、ずいぶんと滑稽な舞台になることでしょうね。猫が可愛いから猫の衣装で歌って踊るなんて、子供舐めすぎよ」
「でもリディアも猫好きでしょ。ぬいぐるみ持ってるじゃん」
「それは猫だからよ。猫に扮する男は可愛くないっ」
「僕だから可愛いもん」
「…………っ、このぶりっ子!」
リディア様がライモ様に詰め寄った時、彼女の体が後ろに倒れそうになりました。さっと背中を支えたダニエルさんが、「大丈夫ですか?」と尋ねます。
「あ、ありがとう。あら、靴のヒールが折れているわ」
リディア様はその場で黄色いパンプスを脱ぎました。
「俺がノラさんに頼んで、靴を持ってきます」
ダニエルさんが言いました。
「別にいいわよ。すぐそこの執務室に靴があるから」
リディアさんは、なんてことないわ、という顔で答えます。
「部屋まで靴下で歩かれるのは、よくない。あなたには、あなたに似合う靴を履いていて欲しいという、俺のわがままに付き合ってくれませんか。あなたは、どのようにしていても堂々とされている、と承知の上です」
ダニエルさんの言葉に、リディアさんは少し首をかしげて、少し悩んだ様子です。
「ありがとう、わかった。じゃあ、ノラに私の白いパンプスをお願いして。ありがとう、ダニエル」
「いいえ。それでは座ってお待ちください」
ダニエル様が衣装室を去ると、ふっふふふ、とライモ様が笑い出しました。
「どう、ねえ、どう? 僕のダニエルって紳士でかっこいいよねえ。ねー?」
ライモ様が、その場にいる全員に同意を求めます。
「ダニエルはかっこいいぞ。でも、おまえのダニエルじゃないぞ」
と、オー様。
「うん、ダニエルはもっと紳士的で、素晴らしいスーツを着せたいねぇ。でも、ライモのじゃないよ」
ルディさん。
「ダニエルさんって若いのにしっかりしてるわね。でも、ライモさんのじゃないわ」
「ダニエルは優秀なメイドよ。でも、あんたのダニエルではないわ」
全員に否定されたライモ様。涙目で私を見てきます。
「あの、独占するのはよくないですよ」
私の答えにライモ様はしゅん、としますが、いや、これは正論なので。
「さぁ、仕上がったぞ。ミーナの制服だ!」
ひらり、とオー様が手にした制服。それは想像した通りの可愛さ。私はリディア様にせかされ、更衣室で着替えました。鏡に映った私は、ちょっと気恥ずかしそうだけど、思ったより似合ってる。
「うん、かわいいね!」
リディア様に褒められて嬉しい。
「よしよし、これこそ私の仕事の喜び。よくお似合いです」
ルディさんが拍手をしてくれました。ライモ様も褒めてくださいます。
リディア様の靴を持って、ダニエルさんが戻ってきました。
椅子に座られているリディア様の足元に、そっと置きます。
「ありがと、ダニエル」
リディア様が微笑んで、お礼を言います。
ダニエル様は「これぐらいのことです」と小さく答えて、目を伏せました。
おや、ダニエルさん。
もしかして、照れてる?
「さっきねぇ、ダニエルはカッコいいって話をしてたんだ。リディアに」
ライモ様が、ダニエルの顔をのぞき込んで言います。
「無駄口を叩かないといられないのか。ほら、さっさと衣装の打ち合わせだ」
ダニエル様はライモ様を叱り、ルディさんと衣装について話し合います。私とリディアさんは、仕事場へ向かいました。
「ダニエルはほんと、ライモの付き人やってられるわね。あいつ、けっこう不潔よ。風呂に入り忘れたり、着替え忘れたり、しょっちゅう物をなくすし」
リディアさんがぼやきます。
「しかも酒乱だし、食べ物の好き嫌いは多いし。あんな面倒臭いやつの相手、私だったら一日で無理」
「ということは、ダニエルさんってすごい人ですよ。ちゃんと叱れるし、甘えられてもなびかない」
「それよね。彼のことは尊敬するわ」
リディア様、それが「恋」になっちゃったりしませんか。
と、私は考えてしまうのでした。




