表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/23

第二十話 仕事着がおしゃれでもいいんです!

 記録係の宴会は小さな居酒屋を貸し切り、飲め食う歌え踊れでそれはすさまじく、私は隅っこで焼き鳥をかじっていました。

 フィアナさんは酒乱で、ビール瓶をマイクにして情熱的に愛の歌を歌われました。


 しかし翌日、皆は別人のように静々と机に向かっています。

 私はまず、制服を作ってもらうことになりました。


「初めまして、新人メイドさん。私はルディ・シュナベール。ふふふ、君はメイド服の王道から外れるかい? それとも伝統的かな?」


 ルディさんは赤と黒のストライプのスーツで、肩が尖っています。足が恐ろしく細く、顔は小さくて三角、まぶたは赤色のラメ。

 レディ・ガガさんみたい。


「えーっと、地道な伝統系でいいです」


 私はおそるおそる答えます。メイド服がオーダーメイドってだけで優遇です。私のような、何を着ても一緒な地道女はオーソドックスがよい。


「んー、本当にぃ? 君はもっと自分を解放しなくちゃあ」


 ルディさんが言います。


「え、あ、でもその……」


「ゆっくり決めていいんですよ」


 布を裁断している中年女性が、微笑みかけてくれました。


「私はヘレナ、よろしくね。この子は養子のハリスよ」


 ヘレナさんは抱っこ紐で赤ちゃんをおんぶしています。まんまるの頭に、茶色の大きな瞳。可愛らしい。


「ルディ、ライモがまたトチ狂ったこと言い出したわよ。次は猫、猫にするって! ばっかじゃないの、止めてよ!」


 リディアさんが怒鳴りながら部屋に入ってきました。赤ちゃんのハリスちゃんが泣いてしまうと、リディアさんは赤ちゃんの頭をなでなでして「ごめんねぇ」と謝ります。


「とち狂ってないもん。猫耳と猫の尻尾、かわいい衣装。猫は可愛い」


 ライモ様が堂々と言い、その後に続いて歩いてきたダニエルさんは、ため息をついています。


「ふむふむ、猫、猫だね! 白猫かな、黒猫かな。三毛猫、キジトラ……うーん、悩むねぇ。その前に、私はミーナの衣装を作らないといけないのさ。ちょっと待ってくれ」


「いえ、ルディさん! ライモ様の猫衣装を優先でしょっ」


 私は鼻息荒く言います。

 猫耳、猫の尻尾、可愛いですよ。名案じゃないですか!


「でしょー。次のステージは子供向けのねこねこダンスと、夜はしっとり大人モードなんだ。ハリスちゃーん、今日も可愛い」


 ライモ様がにっこり笑ってハリスちゃんの頭をなでようとしたら、リディア様にガードされました。


「ミーナ、制服悩んでるの? 私はミーナは膝丈下のワンピースに、フリルのエプロンが似合うと思うよ」


 リディア様に言われて、私は首を横に振ります。


「いえいえ、そんな派手なのは…………」


「派手じゃないよ。好きなのを頼んだらいいの。あなた、ライモとアイラの記録係なんでしょ。派手な二人につくなら、あなただって思いっきり派手にしてもいいんじゃない?」


 リディア様に言われて、私は口ごもります。

 今日のリディア様は薄黄色のワンピース。リボンにフリル、レース。私の好きな世界観のお洋服。


「ふふ、視線はキュートで素直だね。どうだろう、こういうのは」


 ルディ様が立ったまま、紙にものすごい速さでデザインを描きました。

 膝丈のワンピース、襟は白で小さな白いリボンつき。肩のフリルは大きくて、裾にもたっぷりのフリルがついたエプロン。ポケットは三つついています。


「す、素敵。あの、リボンがとても可愛い。これで…………いいのかしら」


「いいに決まってるじゃない。絶対に似合うよ、ミーナ」


 リディア様に力説され、私は照れ隠しでうつむきます。


「よし、デザインは決まったな! では裁縫しよう」


 オー様がどこからともなく、登場しました。この方の突飛な出現に慣れた私です。

 オー様は裁断して、勢いよくミシンがけを始めました。


「オー、次の僕の衣装は猫ちゃんにするんだー。どんなのがいいかなぁ」


「猫、猫はかわいい。良いな!」


 ライモ様に話しかけられても、オー様の手は止まりません。


「ふん、ずいぶんと滑稽な舞台になることでしょうね。猫が可愛いから猫の衣装で歌って踊るなんて、子供舐めすぎよ」


「でもリディアも猫好きでしょ。ぬいぐるみ持ってるじゃん」


「それは猫だからよ。猫に扮する男は可愛くないっ」


「僕だから可愛いもん」


「…………っ、このぶりっ子!」


 リディア様がライモ様に詰め寄った時、彼女の体が後ろに倒れそうになりました。さっと背中を支えたダニエルさんが、「大丈夫ですか?」と尋ねます。


「あ、ありがとう。あら、靴のヒールが折れているわ」


 リディア様はその場で黄色いパンプスを脱ぎました。


「俺がノラさんに頼んで、靴を持ってきます」


 ダニエルさんが言いました。


「別にいいわよ。すぐそこの執務室に靴があるから」


 リディアさんは、なんてことないわ、という顔で答えます。


「部屋まで靴下で歩かれるのは、よくない。あなたには、あなたに似合う靴を履いていて欲しいという、俺のわがままに付き合ってくれませんか。あなたは、どのようにしていても堂々とされている、と承知の上です」


 ダニエルさんの言葉に、リディアさんは少し首をかしげて、少し悩んだ様子です。


「ありがとう、わかった。じゃあ、ノラに私の白いパンプスをお願いして。ありがとう、ダニエル」


「いいえ。それでは座ってお待ちください」


 ダニエル様が衣装室を去ると、ふっふふふ、とライモ様が笑い出しました。


「どう、ねえ、どう? 僕のダニエルって紳士でかっこいいよねえ。ねー?」


 ライモ様が、その場にいる全員に同意を求めます。


「ダニエルはかっこいいぞ。でも、おまえのダニエルじゃないぞ」


 と、オー様。


「うん、ダニエルはもっと紳士的で、素晴らしいスーツを着せたいねぇ。でも、ライモのじゃないよ」


 ルディさん。


「ダニエルさんって若いのにしっかりしてるわね。でも、ライモさんのじゃないわ」


「ダニエルは優秀なメイドよ。でも、あんたのダニエルではないわ」


 全員に否定されたライモ様。涙目で私を見てきます。


「あの、独占するのはよくないですよ」


 私の答えにライモ様はしゅん、としますが、いや、これは正論なので。


「さぁ、仕上がったぞ。ミーナの制服だ!」


 ひらり、とオー様が手にした制服。それは想像した通りの可愛さ。私はリディア様にせかされ、更衣室で着替えました。鏡に映った私は、ちょっと気恥ずかしそうだけど、思ったより似合ってる。


「うん、かわいいね!」


 リディア様に褒められて嬉しい。


「よしよし、これこそ私の仕事の喜び。よくお似合いです」


 ルディさんが拍手をしてくれました。ライモ様も褒めてくださいます。


 リディア様の靴を持って、ダニエルさんが戻ってきました。

 椅子に座られているリディア様の足元に、そっと置きます。


「ありがと、ダニエル」


 リディア様が微笑んで、お礼を言います。

 ダニエル様は「これぐらいのことです」と小さく答えて、目を伏せました。


 おや、ダニエルさん。

 もしかして、照れてる?


「さっきねぇ、ダニエルはカッコいいって話をしてたんだ。リディアに」


 ライモ様が、ダニエルの顔をのぞき込んで言います。


「無駄口を叩かないといられないのか。ほら、さっさと衣装の打ち合わせだ」


 ダニエル様はライモ様を叱り、ルディさんと衣装について話し合います。私とリディアさんは、仕事場へ向かいました。


「ダニエルはほんと、ライモの付き人やってられるわね。あいつ、けっこう不潔よ。風呂に入り忘れたり、着替え忘れたり、しょっちゅう物をなくすし」


 リディアさんがぼやきます。


「しかも酒乱だし、食べ物の好き嫌いは多いし。あんな面倒臭いやつの相手、私だったら一日で無理」


「ということは、ダニエルさんってすごい人ですよ。ちゃんと叱れるし、甘えられてもなびかない」


「それよね。彼のことは尊敬するわ」


 リディア様、それが「恋」になっちゃったりしませんか。

 と、私は考えてしまうのでした。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ