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第十五話 初恋は永遠の推しです。

「どうしても……緊張してしまうのです。あの美しい三白眼!!! ああ、なんて美しくて賢くて、国民思い……理想の女王様を前に、わたくし緊張して報告の声が震えてしまう!」


 顔を手で覆い嘆くのは、栗色のウェーブした髪をひとつに結んだ、背が高くヒールとタイトスカートが似合う官僚女性です。……あなたも相当に美人ですよ?


「あらまあ、大変ね。アイラ女王は懐の広い方。声が震えていても、ちゃんと聞いてくれるわよ。まずは深呼吸、深呼吸よ」


 総合相談メイドチームのリーダー、マリーさんが優しく諭します。


 次に来たのは、エプロンにズボン姿の、がっしりした体格のメイド男性です。


「ライモ様が……ライモ様は……俺を悩ませる! 可愛い、セクシー、美人!!! あんな男がいるなんて!!! ライモ様支援チームに入れて幸運です、でも心臓が持たない!!! ああ、ダニエル様のように淡々とお着替え手伝いできるようになりたい……」


「それは、無理でしょう。ときめいているからこそ、心から支援できるのよ。そのドキドキは、大切に思うからこそなの」


 マリーさんの言葉に、メイド男性は


「慧眼です! ありがとうございます!」と叫んで去っていきました。


 その後も、職場の人間関係、仕事のマンネリ、夫婦関係の相談など、あらゆる相談をマリーさんは落ち着いて受けてらっしゃいました。


「どんな悩みも傾聴して、その人の立場になることよ」


 マリーさんが教えてくれました。


 伝達チームではアレサが走り回って、すでに立派な一員になっていました。私はアレサのように足に自信がないので、手紙の仕分けをやりました。


「これは報告書、あとはライモ様とアイラ女王、三官女へのファンレターです」


 伝達チームのメイド、タミーさんは淡々と、布の大きな袋にファンレターを入れていきます。報告書よりファンレターがどっさりです。時々、きれいにラッピングされた箱があると、オー様が


「この中身は焼き菓子! 食べ物のプレゼントは受け付けていない」


 と確認されました。


「このぬいぐるみは、魔術がかかってる。廃棄!」


 オー様の匂いスキルがあれば、空港の荷物チェックも捗るでしょうね。


「私はこの仕事、気に入ってるぞ。じっとしてるより、動き回ってる方がいい。貴族の大臣の態度はムカつくけどな」


 アレサは短パンに短いエプロンのメイド服で、城中を走り回っています。彼女に適正のお仕事が見つかってよかったです。


 催事メイドチームは、今のところ仕事がありません。


「私から言える助言は……長生きしてね。一日でも長く生きるのよ。お葬式、嫌いなの」


 チャペルさんはそう言って、私にお祭りの衣装を着せてきて、「似合う、似合う」とはやし立てられ、しばし着せ替え人形にされました。


「記録チームの研修にようこそ…………まずは私たちの書いた記録を見てもらおう。ふふふ、ぜーんぶ書いてあるからね。ぜーんぶ、だよ」


 不気味に笑いながら、記録チームのリーダー・マッシーニさんが「アステール城記録・春の号」を渡してくださいました。

 分厚い、重い。出席簿のような厚紙に糸閉じされていて、一日では読みきれそうにありません。


 読んでいくと、女王の福祉制度改革からジーモン様が国会でお怒りになったこと、貴族の不倫スキャンダル、オー様が匂いでスパイを発見、ライモ様が城内ステージで何万人もの観客を集めたことなど、政務から私情、ゴシップまで網羅されています。


 読むのに疲れたお昼すぎ、休憩時間になりました。


「あのぅ、よかったら休憩をご一緒しませんか? 食堂でお茶でも飲みながら…………あ、私の名前はフィアナです」


 そう声をかけてくれたのは、大きなフリルのカチューシャに、フリルのエプロン、大きな襟のロングワンピース、丸メガネをかけた記録メイドさんでした。私は笑顔で応じて、フィアナさんと食堂へ行きました。


 フィアナさんは大人しい方で、ゆっくりと話されます。


「あの、いきなり失礼ですけど…………私、なんというか、あなたは私と趣味が同じ気がして。その……あなたはライモ様のファンの方では?」


 おずおずとフィアナさんがおっしゃいます。


「あ、ごめんなさい。あなたがライモ様の記録をじっくり読んでらして、それで…………」


 もじもじとフィアナさんがおっしゃいます。


「そうなんです。私、あらゆる人のファンです! 是非是非、フィアナさんのライモ様の好きなところ、聞かせてください!」


 私は前のめりになりました。フィアナさんの顔がパッと輝きます。


「わぁ、嬉しい。あの、私、恥ずかしながらライモ様が初恋なんです。ライモ様がサーカス団で活躍してらした時、十二歳のライモ様にすっかり魅了されてしまって。同じ歳の男の子なのに、なんてきれいで素敵なんだろうって。それまで私、内気で親の言う通り結婚することしか考えてなかったのですけれど、メイド募集を聞いて家出までして…………恋焦がれていたライモ様だけれど、今は少しでもお姿を見られたらとても幸せな気持ちになります」


 うんうん、と私はフィアナさんの言葉に頷きます。


「尊い…………のですよ」


 私は呟きます。


「尊い?」


「私の生まれた国では、恋心を超えて好きな人、見ているだけで幸せな人のことを『推し』と呼びます。そして、推しを見たときの多幸感を『尊い』といいます」


「推しが、尊い。なるほど、わかります」


 フィアナさんがうなずきます。


「ミーナさんとお話しするの、とても楽しいです。私は寮の207号室にいますので、いつでも訪ねてきてください。また、推し語りしましょう」


「はい、どんどん語りましょう! 私、どこのメイドチームに所属するか迷っているんですけど、記録係は推しの情報が入ってきていいですね」


「そうなのですよ。ライモ様が廊下で転んだとか、国会に遅刻してジーモン様に叱られたとか、情報を記録するのが楽しいです」


 フィアナさんが微笑みます。


 よし、ライモ推しでしかも情報を持ってる友達、ゲットです。

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